凡骨は違和感を覚える
冒険者になって一週間でレベルは20に到達した。
そして、ほんの数日前の迷宮での一件で23までたった一日で上昇した。
ここ数日はニトロさんもドールさんも依頼をこなせるような状況ではなかったし、先生も気づいたらまたいなくなっていたので魔物の討伐による経験値稼ぎができていない。
そのせいで今日の時点でレベルは24とたったの1しか上がらなかった。
もちろん浮いた時間は新しく取得したスキルの使い道を考えたり、今後の方針を考えたりすることに使ったので完全に無駄になったとは言わないが、それにしたって時間を有効に活用できたとはとてもじゃないが言えない。
子鬼迷宮にもうミノタウロスがいないことの確認はできたらしいので、今日あたりどこかのパーティに混ぜてもらって経験値稼ぎをするのもいいかもしれない。
前みたいなことがないとは言えないので混ぜてもらうパーティの選定には十分気をつけないといけないけど。
「……それにしても、なんで訓練は相変わらず人形相手がほとんどなんでしょう」
訓練場を走り回るのにはいい加減慣れた。
危ないのでやらないけれど、毎日あちこち走り回らされていたおかげで今や目を瞑っていてもおおよその位置の把握はできるようになった気がする。
それそのものに大した意味はないが、それだけの余裕ができたこともあってこれまで以上にクラスメイト達が受けている指導を盗み見て学ぶ機会は豊富になった。
だから、目を皿にして耳を澄ませて有益な情報を一つたりとも溢さないつもりで様子を見ていたなかでふと疑問に思った。
なぜ、人形相手の訓練ばかりやっているのだろうか。
より正確に言うのであれば、なぜ魔物の討伐をさせないのか。
別にレベルが上がればなんだっていいとは思っていない。
もちろんレベル以外にも強さに通じる要素はたくさんあって、単に数値上のステータスしか持たないようではステータスに劣る相手にその隙を突かれる可能性があることくらいはさすがに分かる。
俺よりもステータスやレベルの高い冒険者の死体なんて今更珍しくもない程度にはたくさん見てきた。
レベルやそれに伴うステータス以外の要素。例えば、経験や知識、力の扱い方の重要性はよく分かっているつもりだ。
だが、それにしても些か今の訓練の状況はレベルを上げることを度外視しすぎているように見える。
「よし、スラッシュの使い方は随分様になってきたね。そろそろ次のスキルに移ろうか。レベルは上がった? スキルポイントが貯まったら教えてほしい」
「えっと……さっき一つレベルが上がって28になりました。スキルポイントは……あと8足りてないです」
その証拠に先ほどからちらほらと聞こえる会話から今のクラス全体のレベルの平均値はおおよそ29前後といった状態。
こんな状態がここ三日ほど続いている。
もちろん俺よりは全員レベルが高いし、俺よりもレベルが高いからレベルアップに必要な経験値が多いのだとは思うけれど、それにしたってレベルの上がるのが随分とスローペースになっている気がする。
最初はとてもこのままじゃ追いつけないと思っていたのに、この調子ならレベルだけは下手をすれば今日明日で追いつける可能性すらある。
クラスメイトの訓練の様子は隙さえあればずっと見ている。
だから確信を持って言えるが、クラスメイトに俺より弱い奴なんていない。
万が一にも魔物相手に殺されるようなことがあってはいけないからある程度レベルが上がってスキルを使えるようになるまでは反撃してこない人形相手の訓練を主において、たまに人間同士で死なない程度に模擬戦で戦闘経験を積ませるつもりなのかと思っていた。
けれど、だとしてもここまで強くなっておいていまだに人形を相手にし続ける意味が分からない。
そりゃあ絶対はない。万が一の事故が起きて誰かが殺されるというのはありえない話ではない。
でも、それを言い出したら一生魔物と戦う時なんて来ない。
そして、魔物と戦う時が来ないということは魔王を討伐なんて未来永劫できるわけがないということになる。
そんなことはありえない。
あいにく、この世界とこの世界で住まう人々はそこまで俺達異世界人に優しくない。
だから、意味が分からない。
先生から言われたように、この世界に召喚された時点でおそらくは脳を軽く弄られて戦闘や殺害に対しての忌避感は低減されている。
最初は抵抗感があってもいざやるとなればきっと簡単に魔物の討伐はできるしすぐに慣れる。
能力的な問題も精神的な問題もなく、そのうえこの世界の方針と一致しているはずなのになぜ魔物の討伐に訓練のステージを移行させないのか。
「……おいっ! なにぼさっとしてんだ!! 働けウスノロ!! ……ぁ」
ついうっかり考え込んでしまった。
罵声と共に飛んでくる拳大の大きさの石。
悲しいことにそれにはすっかり慣れていた。
ギリギリ当たらないか掠る程度に来るはずのそれがこちらに飛んでくるのをぼんやりと眺める。
なんだか違和感があった。
…………あれ、これ顔面に直撃では?
石の先、見事な投石を見せた騎士様は青ざめた表情をしていた。
「……っっ!!!」
事態を脳が理解するよりも早くに本能が体を動かした。
うっかり人の頭を潰す勢いで飛んできた石を辛うじて躱す。
皮を切ったようで側頭部から流れる血に余計なことを考えるのは本当にやめておこうと思った。




