残されるもの
「以上が現状での信濃の修復状況になります」
「うん、やっぱり内部の修復が難航しているみたいだね」
そう、外見上は信濃は戦闘前の姿に戻っていますが、内部の修理はまだ終わっていません。なにせ空間歪曲魔術で普通の戦艦の4倍もの体積があるのと、魔術の張り直しと同時進行なので人海戦術だけではどうにもなりません。現在は弾薬エリアと畜産エリアが使用不能なのでそこ繋がる通路は封鎖されています。間違って入ったらどうなるかわかりませんが、取り合えず生きて帰ってこないので
「現在の信濃は航行しながらの修理なので、本格的な修理はグンマ―に寄港してからになります」
「仕方ないね」
「それと、三笠と伊号の皆さんから修理の報酬としてグンマ―に戻ったら祝勝会をするので、それの手伝いを要求しています」
時期にしても半年と少し、それでも陸地が少ないあそこでは海の幸が生活の基盤になっていましたが海賊もどきが現れてから量が減っていました。それから解放されたのですから祝いたくなる気持ちもわかります。
「とはいえ、信濃の修理が本格的に始める前に開催するとは……危機管理があっていない気がします」
まさか、帰ったらすぐに迎えてそのまま祝勝会に出来るように出発の時点で準備が始まっているとは思いませんでした、
「まぁまぁ、グンマ―は海に囲まれているから今まで敵という敵がいなかったから仕方ない。それにこの体じゃ飲み食いはできないけど、宴会とかの催し物の雰囲気は好きだからやりたいなぁ」
…信濃の修理が終われば出来なくはないのでもう少し三笠に要請しておきましょうか
「それにグンマ―から離れたら暫く陸にはつかないから今のうちに堪能した方がいいだろうし」
艦長の言葉に手が止まります。今回の損害は直せるとしても今後このような損害が続くようなら、信濃は沈みます。それ以前にこの航海に終わりはあるのでしょうか?
終わりが見えず、ナイル川のようなことが起こるかもしれない。
なら、と考える
「…艦長はやっぱり帰りたいですか?」
「突然どうしたの?」
眼を見開いて私の方を見てくれるように見える。
「でも、言いたいことはわかるよ。今回くれる予定の資材を入れてもこの世界に来た頃の半分しか補充されない。しかも、最短ルートを行くために太平洋を横断するから資材の補充はできない。目的地も一応アメリカを目指しているけど、具体的に何があるかは分かっていない。となるとスーシアの思っていることもわかる」
艦長は頬掻いて、少し困ったような笑みを向けて続ける。
「でも、俺はここで停滞するようなことはしたくない。それは元の世界へ戻ることを諦めることだ。皆帰りたがっている。わがままでそれを止めるわけにはいかない。それに…」
「それに?」
言葉を止めた艦長に続きを聞きます。
「それに…シスコンと言われるかもしれないが、向こうの世界で会わないと自分が不安な妹がいるからね」
そう言って艦長は私に微笑んでくれます。私を見ているようで別の誰かを見ている目です。
艦長は私を見てくれない。見てはくれます。話を聞いて、助けようとしてくれて、一緒にお茶をして、相談を話しながらお茶を入れて、艦長のためにやったことで褒めてくれる、赤道祭でも一緒にいてくれました。
でも、私を見てくれない。艦長は私を見ているようで見ていない。私の後ろ誰かと私を重ねている。
今まではそれでも良かった。私と話して、私と一緒にいて、私だけが艦長に作られた誇りがあります。でもナイル川で艦長が川の中に消えた時、とても怖かった。艦長がいなくなることが怖いと嫌だと思いました。
もし、元の世界に帰ったら私たちはどうなるのでしょう。私たちはあの指示を待つ人形に戻るのでしょうか?それとも、この世界に置き去りになるのでしょうか?
怖い。艦長の役に立てないのが、艦長のために動けないのが、艦長と一緒にお話しできないのが、もとの世界とは少し違う、あの優しい目を私に向けてくれる可能性が無くなってしまう。
ならばと考えがよぎります。
「さて、少し湿っぽい話をしちゃったね。早く戻って修理と祝勝会をやろう」
自分の話を隠すように少し速足で先と急ぐ艦長
「わかりました」
それでも艦長に置いて行かれないように、微笑みながら追いかける私
うまく笑えていますか?




