フルバースト
「3…2…1…エアー停止、通常航行に移行、補助エンジンに切り替えます」
シャーロックさんの操作によって揺れが収まり、モードが戦艦モードに移行した。時間としては大体1時間30分くらい場所は……座標的に瀬戸内海?!結構とんでもない速度だな。
その代わり、一時的に燃料が空になった。
「瀬戸内海まで1時間弱とは」
「でも、四国も近畿も見えない。本当に日本か?」
「航行記録と夜間の星の観測から座標を割り出したので間違いはないと思うのですがー、何も見えませんね」
「とりあえず、東京まで行ってみますか?向かっている途中で何か見つかるかもしれません」
「そうですね進路、東へ」
「了解、進路東へ」
突如、甲板の第1主砲付近が爆発する。船体が大きく沈み甲板に海水が流れて爆発した箇所に流れ込む。
「……っ!梵天丸さん!」
「レーダーが回復しきれてないのでわかりませんが、第一主砲で何かあれば必ず報告が上がります」
つまり内部的原因はなかった。そもそも高速航行をして機関室に異常があるならまだしも、魔水の供給を止めていた主砲が爆発するなんておかしい。外部、信濃の装甲を突破するなんて俺たちと同じ転移者からの攻撃だと予想できる。だが、エネルギー不足でレーダー機能が回復しておらず、機関も本調子ではない。敵の姿も見えない現状で的になる必要はない。
「信濃を潜水艦モードに移行!被弾角度から発射位置を特定して」
「艦長、甲板部の損傷が激しく潜水艦モードに移行不可です」
「なら、補助エンジンで全速前進、主エンジンに火が戻り次第主エンジンで機関を回せ!梵天丸さん発射位置の特定は?」
「具体的な位置は特定できませんが方角は北東であることはわかりました」
「なら突っ込むのみ全速前進、同時に総員第一種戦闘配置、手の空いている者は上空の警戒を厳とし何か見つけたらすぐに報告せよ」
少なくとも信濃から見える範囲内に敵の姿はない。信濃の側面ではなく甲板で爆発が起きた事から相手は直線運動のエネルギー式ではなく、曲射でこちらを攻撃したと予想する。水平線の向こうだとしても曲射で撃ってくるのなら狙われないように速度を上げるだけだ。
「了解、信濃第五戦速で進路を北東へ」
ゲームの時から対空兵装はなかった。航空機とかハープーンとか殺傷能力のある航空兵器はゲームには実装されていなかったし、される予定もなかった。信濃艦橋に配置されている速射砲も基本的に海面の魚雷を迎撃するためのものだ。よって、信濃は空からの攻撃に弱い。だからこそ潜水して攻撃が無効化される深度まで回避したかったのだが、いたしかない。このまま、速度を上げて接近する。
未だに機関が全力を出せていないが、先の直撃は逃れられる、はずだった。
「上空にて爆発を確認」
「爆発?」
何故爆発?その疑問が答えにわかる前に答えが直撃した。爆発によって発生した細かい破片が信濃に降り注ぐ。細かいと言っても大きさは小さくても1メートル前後する破片が降り注ぐ。未だ魔水の装甲が整っていない状態だとこの破片でも十分に脅威となる。
「甲板に多数の被弾!消化部隊を派遣します」
「まずい」
これ以上の速度は今の機関では出せない。そしてこの速度だと砲撃の嵐から振り切れない。
「おそらく、曲射それも迫撃砲のような弾道で時限式で爆発するショットガンのような弾丸を使用、確実に沈めていますね」
「でも方角がわかっているならやりようはある。噴進ミサイル前方に向けて発射、同時に信濃はミサイルが出した煙幕に突っ込んで身を隠す」
「わかった」
ミサイルが生み出した煙に信濃が突っ込み艦橋から見える景色はミサイルの煙の白と甲板から上がる黒煙のみになる。
「ひとまずこれで安心ね」
「いえ、さきほどのショットガンのような攻撃を放たれると煙が爆風で散らされてしまいます。あくまで時間稼ぎにしかならないかと」
「なら新風からのもらい物を使います」
「あれを?でもまだ3モードと違ってテストプレイすら一度もやっていない。本当のぶつけ本番ですよ。それでもやりますか?」
「レーダ外からの攻撃だとどうしようもない、まずは敵の姿を見つけるのを優先すべき」
いくら信濃の武装がすごくても撃つべき敵がいなければ意味がない。まずは敵をレーダーの範囲内に収めなければならない。
「フルバースト用意!!」
「フルバースト用意、左右カタパルト展開」
いつもはクロトリ部隊が発艦するカタパルトを展開する。ただしクロトリ部隊は出さずに新風からもらったジェットエンジンを装填する。角度的に左右から押される形になるので正直高速艇モードより安定感があるが、もともと設計になかった形態と改造をしているのでその分燃料消費が他の比じゃないレベルで悪い。下手すると直列砲よりも悪いかもしれない。
その分速度は航空機もかくやといった速度まで上がる。
「タイマーセット後、エンジンスタート」
新たに増設されたバーとスイッチを押して、エンジンが起動する。最初は細かく足元を揺らしていた揺れが大きくなり、次第に立っていられないほどまで大きくなる。加速したことによるGで頭が軽く押さえつけられる。シュミレーターからこうなることはわかっていたので予め一定時間が経過したらフルバーストが終了するようにタイマーをセットしておく。
これでも結構加速がついているがまだ、全力を出していない。いや、まだ出さない。
「速度……150キロを……突破……!」
「レーダーに反応、例の遠距離攻撃です」
きた
「フルバーストスタート!」
「フルバースト」
舵輪から手を離すことができないシャーロックさんがすぐ横の大きなレバーを蹴り倒す。瞬間艦体が嫌な音と共にうなり声をあげる。この状況で直撃はバランスを崩す大きな原因となりえる。だからこそ敵の攻撃が放たれた直後からフルバーストを出せば次弾装填までに最高速度まで到達できる。敵の攻撃はエネルギー式ではなく、実弾式なのは見れば分かるだからこそ、一発ごとに砲弾を装填する必要がある。その隙を狙った。
新風では150前後までが限界だが、それは艦体の耐久地と燃料効率の悪さが原因だ。古参の実力で勝ち取って聖杯と課金の力で建造した信濃の船体ならそれ以上の速度を出せる。さらに
「バラスト排水」
「バラストまでしたらバランスヤバくないですか?」
「安全性よりスピード!」
バラストを排水することで重心を上にあげて水との接地面を少なくする。その分バランスを崩しやすくなるがこの速度では曲がることも出来ないし、しようとした瞬間にバランスを崩してきりもみ回転しながら倒れることになる。もし止まる必要があるなら錨を下ろして強制的に止める。
どうせ曲がれないのならバランス云々なんて気にする必要はないのだ!
ゴゴゴといつまでも慣れない揺れが続く。体が転移した時に頑丈なゲームの肉体になったとはいえこの振動はあまり感じていたくないものだ。
「まもなくフルバースト終了、エンジン切り替え」
「レーダーに反応アリ!映像出します」
「正面映像からデータの照合完了、敷島型4番艦三笠に酷似した戦艦です」
正面映像の艦影から類似した戦艦を検索する機能、今まではそもそもフリゲート艦やら艦艇しか見えなかったり蛇だったりで使う機会がなかったが、ようやく日の目を見れた。
それにしても
「三笠にあんな遠距離を撃てる武装はなかったはずだ」
三笠の主砲は30.5センチ連装砲、映像からも変わりはない。いくら改造したとてもあの外見で信濃の装甲を貫通するほどの威力の攻撃を出せる大きさはない。
隠している?探そうにもまだ距離がある影響と燃料不足で機器が十分に稼働せず画像が荒い。
「……まて、三笠のマスト何かおかしくないか?」
「マスト?」
記憶に残っている映像と見比べる。比較用の画像は戦時中の白黒画像、対面している三笠の画像も荒いがマストのみに絞ればすぐにわかる。あの三笠のマストの太さが異常だ。信濃の主砲砲身の2倍弱はありそうな太さ、しかも下から上へと細くなっているが、画像よりも極端だ。それに三笠にはあった煙突も一本に減っている。
その疑問に答えるようにマストがゆっくりとしたからせりあがりながら前方に倒れていく。したからせりあがる土台のようなもの、いや車両だ。あれは
「80センチ列車砲…だと…」
かつてドイツ陸軍が第二次世界大戦で実用化した列車砲グスタフとドーラ、二台しか造られなかったそしてゲームに存在していないはずの80センチ列車砲がそこにあった。




