母に返す
調査結果、艦名は『デメテル』
艦名がギリシアの女神から取ったように食料を主に運搬する貨物船みたいだ。
船内には白骨死体を15体発見、内数体は頭部が破損していた。頭部が破損している死体はすべて側頭部側が損傷していた。燃料は枯渇していなかったがエンジンは動かなかった。タンカー内の積み荷は食料以外ほとんど手を付けられていない。
船内には小規模の傷が散見されたが戦闘が起きた様子ではなかった。ではなぜデメテルの搭乗員が全員白骨死体になり果てたのか?
答えは航海日誌に書いてあった。
航海日誌は艦長室、ではなく機関室内で死んでいた遺体のそばに開かれていた状態で置かれていた。状況的にこの死体が最後まで書いていたのだろう。
肝心の内容だが、なかなかに壮絶だった。まず、転移直後の様子から書かれている。書き方的にNPCだったようだ。艦長は俺達と同じで転移したようだ。違いは最初のパニックの仕方だった。NPCに対してどういうことだと詰め寄った。状況が理解できずにパニック、暴動、NPCへの八つ当たり数日は続いたようだ。書かれている文脈と字体から急に発狂した事へ恐怖と絶望が伝わる。向こうからしたら自分を作って慕っていた人たちに裏切られたようなものだろう。その絶望は計り知れない。
暴動してから数日収まる代わりに最悪な考えが船内で蔓延していく。
リスポーンだ。
ゲームでは多少デメリットが発生するが死ねばリスポーンの前にリスポーンするかログアウトするかの選択画面が表示される。そこに逝けば終われるのではと、そんな考えが広がったようだ。最初に機関長が身を投げスクリューに巻き込まれてエンジンが故障。そこからは凄惨だった。銃で頭を撃ち抜くもの、海に身を投げるもの、色々いた。
当然NPCは何のことかわからない。NPCにリスポーンはない。だから自分の親が何故死にに行くのか全く理解できなかった。でも、置いて行かれるのを感じたのか、後を追って海から落ちる者もいた。自身の親の遺体の傍でただ泣いていた者もいた。この航海日誌を書いた子以外は皆終わりを待っていた。
この日記の筆者と数名は彼女達の生みの親がログインしていなかったことで無事であったが、スクリューが破損修理にするにしても人員が足りずに半ば強制的に漂流生活が始まった。最初のころは釣った魚を食べていたようだがその内に餌もなくなり採れる魚も減ってきた。水もなくなり、海の水を飲んで幻覚から海に飛び込む者、時間がたち手にはいる肉からサメを手に入れようとして負傷からの化膿で命を落とす者、立つ力もなく糞尿を垂れ流しながら力尽きる者。船において重要な清潔を維持すらできなくなる。
結局、修理もままならず、自分を作ったプレイヤーへの謝罪と感謝が書かれてこの日誌は終わっていた。
「異常が報告になります。デメテル乗組員に生存者はなし物資は、食料以外は少し残っております」
「……」
皆言葉失っている。黒雪さんは顔も真っ青にして口元を抑えているし、漆捌さんは少し顔をしかめている。特に意見が出るわけでもないし、ここで長々と何か言う必要もない。
「スーシア、介錯してやろう。主砲の攻撃準備を」
「はい、現在デメテルから燃料などの運搬できる物資を回収中ですので完了次第轟沈作業に移ります」
「よろしく」
「では、作業の指揮をしてまいります」
敬礼をした後に艦橋から出ていくスーシアを見送った。
轟沈準備が完了したのは夜明け近くになってしまった。物資の運搬は早くに終わったのだが、遺体がそのままというのは何となく嫌だったので一か所に集めるように指示した。ミイラ化している遺体は動かしやすかったが、白骨化している者や、カモメについばまれてバラバラになったものなど一部足りない遺体が散見されていたのでその無くなった一部を探すのに時間がかかってしまった。
そして一部を除きすべての乗組員が甲板に集まっている。
「スーシア」
「了解しました。主砲撃ち方開始」
スーシアの指示で主砲が一斉射されてデメテルの艦底に穴をあける。静かに解釈目的で攻撃するのだから爆発させるのではなくゆっくりと沈むように計算して攻撃する。
「総員敬礼」
俺の掛け声で全員がデメテルを見送る。あれは俺たちがもしかしたらなっていたかもしれない末路だ。
梵天丸さんによる話し合いが行われずに混乱が解けなかった場合の俺達、そう考えると他人事には聞こえない。ゆっくりと沈んでいくデメテルを見ながら決意する。君たちの代わりに帰ってみせると。




