未来と過去より怨嗟をこめて
「何か空模様が怪しくないか?」
アフリカ大陸を通って座標的にはインド洋辺りまで進んだある日の昼下がり、漆捌さんがぽつりとつぶやく。
「おかしいですね。うちの子達の情報では今日一日快晴と言ってたんですけどね」
シャーロックさんが不安そうに空を見上げる。
この日の天気は分厚い雲に覆われ曇り空、海は大荒れ、雨が降ってないのが不気味なくらいに荒れている。雲の動きも異常なほど早く遠くには渦巻くように動き強い風が艦橋のガラスをバンバンと叩いている。雨の降っていない台風みたいな天気だ。
おかげで波が高く、ちょくちょく甲板に波が上がってきている。
「レーダーの調子も変ですね。今までこんなことなかったのに」
梵天丸さん、叩いても悪化するだけだと思います。思考が昭和
とはいえ、不気味な空だ。流石に海がこの状態では外に出すわけにはいかないので甲板は封鎖している。
しかし……
「いいなぁ」
「どうかしましたか艦長」
「こう、凪いでいる大海原を進む船もいいんですが、大荒れの天気の中、海をかき分けて船が進むのって自分好きなんですよ。波が船に打ち付けられたり、甲板にまで波が乗り上げる様子って自分好きなんですよ。水も滴るいい船、ああこの光景を三人称視点で見たい。すごく見たかった」
「……そうですか」
スーシアの反応が微妙だ。残念だ。とはいえ、この程度の時化で信濃が転覆や波に飲み込まれて海の藻屑となるかと言われれば否、その程度の波で信濃がどうこうなるわけがない。むしろ嵐で沈むような船が生き残れているかと持論を展開したい。
注意すべきは知らず知らずのうちに進路が狂ってしまう事と暗礁に乗り上げてしまうことだ。暗礁については船の底でコバンザメが目を光らせているから問題ない。進路に関しては正直GPSがないし、マップを自分の現在位置が分かったゲームの時とも違う。これは空が晴れた後に星空から座標を導き出すしかない。まだ、100%信じ切れているわけではないが、星の位置から現在地がわりきれ予定通りに進めるならこの世界は俺たちの世界なのかもしれない。
一応暗礁に乗り上げたとしても穴が開くとは思えない。
聞こえるのはバシバシと梵天丸さんが叩く音と微かに波が信濃に打ち付ける音だけだ。このまま寝る時間まで過ごすかに思えた。
「あ、なお……ん?んんんんん?」
始まりは、しばらく渋い顔でレーダーをバシバシ叩いていた梵天丸さんが突如顔をしかめてレーダーに顔を近づけてからだ。
「どうしました?梵天丸さん」
「た、多分レーダーに何かの反応あり?信濃の前方50キロメートル結構大きいと思います」
「え、モニターに写して」
キュルルルと映像が切り替わる。漆捌さんは内ポケットから双眼鏡を取り出して前を見る。が
「……何もいねぇじゃん」
海は大荒れだがその海面には何も浮かんでいない。タコもイカもオランダ船もいない。大荒れの海だ。
「んー、レーダーの調子がおかしい。もっとえぐる様に殴った方がいいですかね?レーダーよくわからん反応をしてるんですよ。反応がついたり消えたり、小さくなったり大きくなったり、座標だけは変わらず一点を指しています。まるで空から生まれ落ちるような感じで」
そこまで話していた梵天丸さんの口を強い光が遮る。
モニターを見れば、梵天丸さんが言っていた地点に白く小さい丸のような物体が出現している。俺達はそれに見覚えがある。ゲームからこの世界に来た原因、俺達を包んだ白い光そっくりだ。
つまり、あの光に飲まれれば―――
「ッ!機関最大出力、全速前進あの光に突入しろ!!」
「あ、アイサー!」
俺の意図を察してかシャーロックさんは動揺しながらも信濃を前に進める。帰れる。
「ま、待ってください!確かにあれは私達をここに連れてこられた時に見た光に似ていますが、まだ同一のものと決まったわけじゃ」
「どっちにしても近づいて調べるに越したことは無いでしょ!梵天丸さんは帰りたくないんですか?!」
「どちらにしても怪しすぎます!!それにあの光の先がゲームに通じていると誰が確証してくれるんですか!!元の世界に戻りたいのなら冷静になるべきで」
再び梵天丸さんの口が遮られた。しかしそれは光が強くなったからではない。
光の中の主の音がしたのだ。金属を擦り合わせ呻くような音を立てながら光の中から何かが出てきたのだ。その体は鈍い銀色に輝き、すらりとした動体には手の類はなく代わりに足と目される箇所に釣鐘のような物が二個ついている。
口は常時横に開かれ赤く光る一つの目と共に真っ直ぐこちらを見ている。
モーガウル、リギースに伝わる怪物とミアさんが言っていた。海の怪物と呼ばれていた物に近しいと言える存在が光の中から這い出るように現れた。
しかし、俺達には別の言葉が思い浮かぶその巨体は金属でできていたのだ。
「ろ、ロボだこれーーー」
それはどう見ても蛇型のロボットにしか見えなかった。




