河口付近
「仮称ナイル川河口付近に到着しました」
錨を降ろし停泊した後にモニターに映った加工を見つめながらスーシアが報告。その様子を尻目に梵天丸さんがコンソールを操作して信濃の航路と地図を重ねて調べている。
「先日通過したジブラルタル海峡っぽい場所にも言えることですけど、やはり元の世界よりも数百メートル内にずれていますが位置的にはおおむね地図と一致しています。一応ゲームの地図とも比べましたがそれとも少し違いますね」
ウリアを出発して巡航速度にしてほぼ一週間予想していた通りナイル川河口らしき場所へ到着した。一応方角的にはリギースへと戻っている形になるからまたあの艦隊と会敵する可能性もあったが何も起きずに無事に仮称ナイル川に到着することが出来た。
「あとはこの川をさかのぼってピラミッドがあるかどうかですな」
「そうね。で誰が調べに行くのかしら?」
そう言いながらも黒雪さんは行きたくなさそうな顔をしている。とはいえ元々行きたいかどうか聞いてはいるからメンバーの選出は終わっている。
「俺の所とかから何十人か出すぜ」
「はい、メンバーは漆捌の水上騎兵隊『クロトリ』から数十人、梵天丸さんの所から数人、技術科から数人、あと私と艦長と梵天丸さんと漆捌さんですね。探索隊の準備は既に完了、いつでも出発できます」
少し自慢げな漆捌さんを無視してスーシアが持っているタブレットを眺めて今回行くメンバーの名前を上げている。
「春雷さん行くんですか?またリギースみたいなことになりませんか?」
「えぇ、とはいっても今回は話をする為ではなく調査のためですし問題は起きないと思いたいですね」
シャーロックさんの疑問ももっともだけど、ずっと船で待つのも性に合わない。出来るならこう言うことには積極的に参加したいのが正直なところだ。
「とりあえず春雷さんは万が一も考えて前リギース行った時みたいに顔を布で隠しますね。外にいる間は外さないようにお願いします」
「わかっています。同じ失敗はしませんよ」
「という訳で黒雪さんとシャーロックさんフソウさんはここで待機してください。ドライさんは後で春雷さんが話しといてください」
「わかりました。スーシア」
「1200よりクロトリ部隊発艦開始、調査部隊が発艦後信濃は潜水艦モードで海底に待機します」
信濃を横から見た場合の第二砲塔の下に位置する箇所、その側面がゆっくりと開いていく。正面から見れば信濃の横に広がっているように見えるだろう。
そして大体45度ほど開いたところで動きが止まり、内部から一定間隔で大型水上バイクが発射されていく。
それと並行して艦尾部分、本来の戦艦なら水上偵察機が発艦するカタパルトがゆっくりと下に向きカタパルトが伸び先端が水面につかる。
そして信濃の格納庫から二隻の船がカタパルトに固定されいつでも発進できるような状態になる。
「春雷さん発進準備完了しましたよ」
カタパルトにいる三又の船シューティング・シルバー・スター号の船長兼レーダー観測員である梵天丸さんが舵輪を握りながら俺に声をかける。
前から思ってたけどこの角度割と急すぎる気がする。ほぼジェットコースターみたいだ。舌がなくてよかった。
「じゃあ出発、スーシア合図を」
「かしこまりました」
そう言ったスーシアが手を振ると外の整備員が敬礼をしてから駆け足でどこかへ走って行く。俺より艦長っぽい気がするがそれは置いておく。
「では出発します。カタパルト起動シューティング・シルバー・スター発進並びにクロトリ部隊発艦開始」
ガコンと一度大きく揺れた後に船体が移動し海に着水する。感覚で言うならジェットコースターみたいな感じでちょっと楽しかった。
一度信濃後方に進んだシルバー・スターは艦首方向に回りこむ。
「シューティング・シルバー・スター発艦完了、クロトリ部隊全機発艦まで待機します」
カタパルトは両舷にそれぞれ1つずつしかない。なのでクロトリ全機出るまで俺達は待機することになる。
「ちょうどいいので今の内に作戦の再確認をしましょう」
操縦席から立ち上がり脇に置いていた地図を広げる。地図には俺達の世界のジブラルタル海峡からエジプトのカイロ付近までが記されている。因みにスター号に乗っているのは俺と梵天丸さんとスーシアだけだ。
「今回の私達の目的はこの世界が私達の元いた世界なのかの確認、最終目的地はエジプトのカイロにそびえたっていると思われるピラミッドを目指します。あればここは私達の世界、なければ異世界の可能性が高くなります」
「場所は分かりました。が、今回、クロトリの皆さんまで出すのは……ぱっと行ってパッと帰ってくるだけじゃ駄目なんですか?」
出発前の様子を見る限り、エネルギー式のライフルやら実弾式のロケットランチャーやら、やたら殺傷能力が高い武器を準備していた。実弾式は素材を節約したい今、出来ればやめて欲しい。
「考えてみてください。リギースの兵のビームは絶大なものでした聞けば。他の国でも当たり前、つまりこれから行くところもビームを撃ってくる人がいる沢山いる可能性があるんです。前回の経験から私達だけでは戦闘は足手まといでした。武力を解決するのは武力が一番ですから、対人戦闘力の高い漆捌さんの所のクロトリの皆さんに来てもらう必要があったんです」
「ふむ」
「それに今までは戦闘の際にも行動範囲が広く、ある程度自由に戦闘を行うことが出来ました。しかし、今回は多少大きいとはいえ川です。有事の際にはある程度行動が制限されてしまうのも事実、なのでそれをカバーするためにも戦力は必要なのですよ。クワナべさんの話も気になりますし」
クワナべさんの話、俺達が目指す多分エジプトのカイロがありそうな場所にはガラスで出来た砂漠、特にナイル川っぽい場所には百戦錬磨の戦闘民族に魔物が潜んでいると言われる。
「私達は何も侵略しに来たわけではありません。殴られたら殴り返す準備をしているだけで自分達から殴りに行くつもりはありません。パッと行ってダッと確認してシュババと帰るだけです」
「仕方がない事ですね。ただ、発砲は各自の判断に任せます。自分が迷ってる間に事態が悪化するのは避けたいので、伝えておいてください」
「了解しました。それと艦長、クロトリ部隊全機発進完了しました」
「ではスーシア、作戦開始を伝えてください」
「承知しました艦長」
「よし、シルバー・シューティング・スター号、全速前進目標、仮称ナイル川の先、ポイント、カイロ」
予定では大体半日もあればカイロにたどり着く。元の世界の地図を重ねた場合の話なので実際どれくらいかかるかは不明だ。もしかしたら一か月かかる可能性もあるが一応一週間たったら戻ることにはしている。
仮称ナイル川に行く前にクワナベさん達の村から情報を集めたりしたが、ガラスの園があるとか恐ろしい先住民族がいるとか、ファンタジーな話しか聞けなかった。もしかしたら、と前なら思っていたが、この世界が俺達のいた世界であるという話を聞いてから現実的な考えが浮かんでしまい。ファンタジーに期待できなくなってしまった。
でも先住民族はありそうだ。曰く、とてつもない速さで追いかけ、光を放ち人を殺す。正体不明の部族。
……これ絶対背中に石生えてる人達でしょ。光と言うか、あの口から出るビームで敵を倒しているんでしょ、これ。
「クワナべさんの話がただの噂話で済めば、ただの肩透かしで終わります。ですがもし、この話が本当であるのならおそらく戦闘になるかと」
「まだリギースの人達と確定したわけでは……聞けばドリツもその他の国も基本的に背中に石が生えてるみたいですよ」
「いえ、別に話の中に出ている人がリギースかどうかなんて関係ありません。攻撃されると伝わっている以上、当たり前ですが攻撃が来る可能性は高いです。それが問答無用なのか理由があるのかわかりませんが」
「それでも私達はピラミッドに向かうんですよね艦長」
「ああ、この世界のことを少しでもわかれば元の世界に帰る方法もわかるかもしれませんからね」
「……そうですね」




