信濃の実力
「状況は?」
少し湿っている軍服に袖を通して状況を確認する。お風呂入り始めたばかりだったのに全身骨だと洗うの大変だからまとまった時間がある時じゃないと入れないんだぞ。ちょっと考え事したかったから入りたかったのに……
まだ攻撃が来ていないと言うことは戦闘まで至っていないと言うことだ。それならまだいい。
「レーダーに多数の艦艇を確認、距離およそ30キロ」
梵天丸さんの代わりにいるレーダーを監視している子が報告を上げる。モニターを見れば多数の帆船が船首をこちらに向けて進んでいる様子が映っている。さしずめ俺らを追いかけに来た艦隊ってところ……いや、何か旗の模様が違うような。
リギースの所とは違うのか?何にせよ船員の動きを見るに明らかに友好的ではない。
向こうはマストの上にある見張り台から見ることになる。自分たちのいる地点から水平線までの距離は元の世界では確か16キロメートル、何処まで元の世界の常識が通用するかは分からないがまだ向こうのビームが飛んでこない所を見るに向こうはまだこっちを発見できていないだろう。
「第一種戦闘態勢、警報を鳴らしてください!!機関始動!!」
「でも梵天丸さん達が戻って来てないわよ!!」
梵天丸さんとシャーロックさんと漆捌さんがウリアで情報取集中なので空席だ。どうせすぐ戻ってくるからと代わりの人員を配置していなかった。だから代わりに誰かが担当する必要がある。他の人が来るまで待てない、放置するのは論外だ。ここは俺が一肌脱ぐしかないようだ。肌ないけど。艦長席から立ち上がり操舵を掴む。
「自分が操舵と戦闘管制を担当します」
「はぁ?!マジで?大丈夫なの?」
「やるしかないですよ。こっちが手間取れば向こうに攻撃のチャンスを与えることになります。沈みたくは無いでしょう!」
「そうれもそうだけど……」
「いえ、私が戦闘管制を担当します。艦長は操舵に集中してください」
スーシアが漆捌の座っていた席に座って手馴れたように操作を始めあっという間に準備を進める。
「第一種戦闘準備、非戦闘員は中央区画まで退避してください」
この調子ならスーシアに任せて大丈夫だ。よほどの一点集中で攻撃されない限り信濃が損傷することは無いが、呑気に梵天丸さん達を待って間違えて陸地に流れ弾が当たるようなことがあれば大惨事は間違いない。最悪の場合俺らのせいにされる。もう二度と信頼を失うような事はあってはならない。
ならば信濃を動かして敵の攻撃を信濃に集中させる。
「錨上げ!機関緊急始動!!目標、敵艦隊!!第一から第三砲塔及び第一副砲、発射準備開始!!並びに艦首魚雷発射管1番から4番注水開始!!」
「了解、主砲発射準備、目標敵艦隊、魔力水充填開始してください。艦首魚雷発射管1番から4番注水開始」
「機関緊急始動、皆急いで」
『「わかったぜ親父!!」』
「親父は止めて!!」
『「じゃあ旦那で!」』
「もっとやめて!!」
黒雪さんの漫才のような会話を聞きながら他の指示を飛ばす。唸るような轟音と共にゆっくりと信濃が動き始める。同時に砲塔がゆっくりと動き始める。
向こうがこっちに気が付く前に出来るだけ数を減らさなければならない。先の脱出の際にあのブレスの威力は十分に身に染みた。撃たれる前に数を減らす。
『「第一砲塔、魔力水充填完了、発射準備完了しました」』
『「こちら第二主砲発射準備整いました」』
『「こちら第三砲塔同じく発射準備完了だぜ!」』
『「艦首魚雷発射管、注水完了、発射準備開始です」』
各砲座から発射準備完了の知らせを聞きながら、測敵を開始する。まだ、号令はかけない。出来るなら一回の攻撃で複数の船を沈めたい。その為にはなるべく接近する必要がある。
「ちょっと春雷さん!さっさと撃ってよ!!」
「まだです。今撃って反撃に適当に撃たれて後ろの陸に直撃して被害が出るよりは、こっちに攻撃を集中させた方が被害も最小限で済みます」
「こっちが沈んだら元も子もないわよ?!」
「もうこれ以上敵を増やすわけにはいかないんですよ!!艦首魚雷全弾発射!!」
「艦首魚雷1番から4番発射」
俺の号令に頷いてスーシアが魚雷発射レバーを引く。瞬間艦首にある六門の魚雷が発射され、放射状に進んで行くのが見える。酸素魚雷はコストが高かったから普通の魚雷で我慢したんだよな。ただ相手はのろまでレトロな帆船、ゲームのトンデモ船とは違って魚雷を見つけたとしても回避は間に合わないだろう。
魚雷が当たるまでに射撃準備を整える。
「取舵回頭45度度、敵艦他に回り込むように移動します。主砲、照準合わせ!」
号令と共に舵輪を回す。前方の敵艦が右方向に流れていくのモニターで確認しながら相手との距離を測る。
「レーダーと同期開始、信濃から一番近い三隻を目標αβγと呼称します。主砲1から3番はそれぞれ照準を合わせてください目標まで残り15キロ…………照準、測敵完了しました」
「魚雷の着弾と同時に主砲撃ち方始め!」
俺の指示に合わせて向こうの艦隊から水しぶきが上がるのと同時に主砲から青白い閃光が放たれ、水平線の向こうへと消えていく。数瞬の静寂の後に水平線の向こうからおびただしい数のブレスが飛んできた。一人で一本ブレスを撃てるから最悪船に乗っている人が全部というおびただしい数のブレスが飛んで来る。
とはいえ、向こうからここまでの距離は15キロ、流石撃ってきたブレスが全部当たったりしない。当たって数発、しかしブレスはブレス、数発当たっただけでも信濃が小さく揺れるほどには威力がある。
「全弾命中、貫通により計5隻を沈めました」
「被害は?」
「敵攻撃、信濃の装甲に弾けています。損害軽微」
「よし、機関最大出力!スーシアはこのまま攻撃を継続、信濃はこのまま敵艦隊に突撃、注意をこっちに向ける!!装甲用の魔力水右側面に集中!!」
「もう!!どうにでもなって!!!機関最大!!」
『「アイアイサー!!!ひゃっほう!!楽しくなってきたぜぇ!!!」』
「全然楽しくないわよぉ!」
黒雪さんが悲鳴を上げながら指示を出して機関の出力が上がっていく。
「主砲次目標に向けて充填開始、完了次第撃ち方始めてください」
『「主砲一番了解」』『「二番主砲りょーかい」』『「三番主砲頑張ります」』『「副砲、暇です」』
「副砲は撃ち漏らして近づいてきた敵船の迎撃をお願いします」
『「アイサー了解」』
「続いて四番五番主砲発射用意、目標同じく敵艦隊殲滅します。発射準備整い次第撃ち方始めてください」
『「かしこまりました」』『「了解だぜ」』
スーシアが次々と指示を飛ばす中も砲撃が飛び交い敵の船を爆沈させ、向こうからの攻撃が船体を揺らす。信濃に穴が開いたり海水が入ってくると言った大きな損害はないがそれでも攻撃が船に当たると不安になる。
とはいえ、しばらくすればこちらは無傷、向こうは大損害という結果になるのは火を見るよりも明らかだ。
艦隊の6割が海の藻屑になる頃には残った船がゆっくりと離れだす。
「追撃します。主砲旋回――――」
「いや、攻撃止めウリアに戻る」
「追撃しないのですか?状況はこちらが完全に優勢、全滅させた方が後顧の憂いを断てるかと思います」
スーシアが驚いたような顔で俺を見る。俺だってゲームなら完全に壊滅させる。だがここはゲームではない。向かってくるのなら叩きのめすが逃げる敵を追うほど殺したいわけでもない。それにあまりウリアから離れすぎると梵天丸さん達が不安になる。
「しない。ウリアに戻ります」
「…………了解しました」
スーシアは不満そうな顔をしながらも攻撃中止を指示する。




