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潜水艦(戦艦)の意地

 何度目か分からないが監視をしているレーダー員に同じことを聞く。


「ソナーに反応は?」

「反応なし、上手く隠れているみたいです」

「電探にも何も反応はありません」


 最初の反応から丸一日、最初の交戦から敵の反応がない。撃沈できたのではと意見もあるが船の破片や油膜が浮かんできていない、完全に安心することは出来ない。それに先ほどソナーに反応があった撃沈はしたが残骸を調べた限りデコイだ。つまりまだ本体が残っていると言うことだ。潜水艦は戦艦よりも相手が面倒だ。肉眼で見えるわけでは無いし水上船よりも戦闘が難しいが俺達の『新風』は鈍重な戦艦ではなく高速駆逐艦だ。あのクソ戦艦よりかはまともに戦うことが出来る。俺達はもう油断しない。あの時はまだ何とかなったが次も同じようになるとは言い切れない。俺達がリスポーンできるのか分からないからこそ、俺達は今の命で全力を尽くす。


 俺は胸ポケットにしまっている物を取り出して壊れないように誓うようにそっと握りしめて目を閉じる。あの時の俺は信じられずに失ってしまった。もう二度とあんな思いはしたくない。


「電探に多数の反応を感知、魚雷です!」


 レーダー員の報告を聞いて目を開く


「落ち着け、機関始動して当たりそうな魚雷だけ回避しろ!」


 対潜水艦では音が重要になる。船体から発せられる音を頼りに敵の位置を割り出して爆雷を投下したり誘導魚雷を発射したりして撃沈する。簡単に書いたが実際に目で見えるわけでもないから緊張状態が続く。


「敵の船の位置はわかるか?」

「ピンガーからの反応は4つ、その内三つがこっちに接近、残り一つは動かずに浮上中だ」

「てことは3つはデコイもしくは全部がデコイのどっちかだな」


 かといって対応が変わるわけでもない、全部撃破するだけだ。


「監視を継続、ただ動かない方を重点的に監視しろ」


 レーダー員に指示を出した直後に近くにある金属の管のふたを開いて指示を出す。


「機関最大敵の頭上をすり抜ける!」

『アイサー!』

「主舵!敵の魚雷を回避しながら真ん中にいる船の頭上を通り抜ける!」

「アイアイキャプテン!」


 潜水艦は水上艦に比べて速度が遅い。一旦通りすぎちまえば反転に時間がかかるし、あのデコイ操作にもブレが起きる。






「敵船まもなく本艦の頭上を通りぎます」

 異様な空気が漂う艦内で梵天丸さんの報告が嫌に良く響く。まもなく作戦開始だ。


「予想通りです。シャーロックさん準備をお願いします」

「ね、ねぇ、本当にやるの?」


 確かめるように黒雪さんが震えた声を出した。全員席についてシートベルトを締めている。俺の作戦は1時間チョットに及ぶ話し合いの末に可決された。一か八かではあるが現状普通の潜水艦に劣っている潜水艦が勝つにはこれしかないと決まったことだ。

だがそれでも黒雪さんは最後まで反対していた。最後は首を縦に振ってくれたがそれでも怖い物は怖いのだ。


「覚悟を決めてください。一番怖いのはこんな無茶な操縦をする私なんですから」

「そうそう、それに万が一沈んでもこの深さなら水の重さでペチャンコになるから余り苦しまないってジッチャンが言ってたぜ!」

「そう言う怖い事今言わないでよ!私は嫌よ!!こんな姿で死ぬなんて絶対生き残るわよ!!ってかなんであんたのジッチャンそんな事しってんのよ!!」

「その調子だぜ」


 無茶な作戦を前にテンションが上がっている漆捌さんに対して、怖さのあまり血の気が引いて真っ青な黒雪さん。


「敵艦間もなく本艦の真上を通ります」

「アップトリム90度、船体を縦にしてください」

「了解しました。アップトリム90度、各員は壁に落下したり廊下を落ちたりしないように体を固定してください」

「アップトリム開始」


 シャーロックさんの掛け声と共にゆっくりと背もたれに体重がかかるのを感じる。ゆっくりと艦首が上に向き始めた。途端に各所でアラームが鳴り始める。


「対水圧装甲に異常発生、艦内隔壁ロック」


 元々大型戦艦が潜るだけでも相当の無理を船体に強いている。それに加え艦を垂直に立てるのは無理に無理を重ねた行為だ。当然いろんなところが悲鳴を上げ始める。


 その分相手にとっては予想外の一撃となる。







「……ん?」


 航行中にレーダー員が変な声を上げてソナーを覗き込んだ。


「どうした?」

「敵艦の反応小さくなっていきます」

「潜ったのか?」


 ソナーで居場所が特定されているので姿を隠す気か?


「いや、これは船を垂直になるように船首だけを持ち上げてる!こちらに艦首を向けてやがります!」

「はぁ!?」






 船が軋み少しずつ船体が縦になっていく。前もって作戦を伝えたのでシャーロックさんは椅子に座っているので間違えてこっちに落ちてくるなんてことは無い。それでも本来想定している船の動かし方ではないので船体が変な音を出している。


 流石に私室の物品の固定をする時間は無かったので多分全員の私室が大惨事になっている。後で掃除するのが絶対大変だ。


「90度になりました!」

「エンジン調整垂直になって難しくなってるからやばいわよ!」


黒雪さんから悲鳴に近い報告が上がる。垂直になった影響でエンジンの調整をしてくれる人たちが少なくなって細かい調整が効かなくなっている。本来艦を九十度縦にする想定何てしていないので各所から悲鳴のような報告が上がり続けている。この状況は長くは持たない。すぐに次の段階へ移行する。


『「フソウさん準備はいいですか?」』

『「おうよ、いつでもいいぞ!」』

「第二段階開始!!」

「魚雷発射用意!全弾無弾頭にして1番から4番、発射管に注水、完了次第発射!」

「アンカー射出準備!」

「コバンザメを切り離せ!!」





「敵艦から接近する物体多数!魚雷です」

「やはりか、直撃しそうなものだけを表示して回避行動に移れ!」

「了解直撃する物体にのみ……ッ!!」


 突如報告を止めてしかめっ面でヘッドフォンを外す。


「どうした!」

「敵が低周波魚雷を放ってきました。一時的に電探に使用不能です!」


おそらく魚雷を絶対当てたいが為の方法だ。だが、ソナーが使用できないのは向こうも同じ、耳が頼りの潜水艦が自分で耳を潰した。つまりこれを避けることが出来れば向こうの位置を知っているこちらが有利、こちらは最大で39ノットの高速艦、たいして向こうはソナーで測る限りの400メートル前後の超大型のうすのろ潜水艦だ。移動できる距離も限られている。


「機関最大船速、同時にフルバーストモードの準備をしろ!とにかく足を止めるな!」

「アイサー、キャプテン!」


 すぐ隣にいる俺の予想が正しければこの戦法は見たことがある。確か無弾頭の魚雷をスクリューに直撃させた後に自分が放ったアスロックと敵船の魚雷攻撃で船は沈んだはず、しかしこの『新風』はスクリューの他に三基のジェットエンジンを搭載したフルバーストモードがある。上空にアスロックはない、スクリューが壊れたらフルバーストで回避、ソナーが回復すればうすのろ潜水艦の現在位置などすぐにわかる。無理に縦にしたせいですぐに移動できないだろうからそこを爆雷を投下して撃沈する。



 行動に変更はなく砲身を水面に向けて水進弾に装填した主砲が火を噴き進路上に出てこようとする魚雷を撃ち抜く各砲も迎撃をして新風の周囲に爆発による水柱が発生し船体を大きく揺らす。


「前方に大きい反応が三つ、内一つは直撃コースです!」


 此方の進路を塞ぐように反応が三つ並んでいる。なるほどこれが本命か、避けようとすれば周囲にばら撒いた魚雷が新風に直撃する。なるほど、だがそろそろこちらも!


『「フルバースト準備完了!」』


 そらきた、こちらも切り札のフルバーストの準備が完了だ。これで距離を離しから爆雷を投下する。


「フルバースト!!全員何かに捕まれ!」


 俺の指示で新風の艦尾が展開して内部のジェットエンジンが三基露わになり、瞬間爆発のような轟音と共に新風が急加速しボートレースのボートのように進む。


「左右の反応は大丈夫です。直撃コースのも当たる前に通り過ぎます」

「よし、このまま―――」

「?待ってください左右のは魚雷じゃないです!これは」


 レーダー員の報告が終わる前に新風の前方から何かが二つ飛び出した。それは新風にも取り付けられているし、大体の大型船には必ず取り付けられている物だ。

だが、だが!あれは武装として使う物じゃねぇ!

返しの付いた本体に恐らく船体にまで続いているであろう鎖が付いている。それは、まぎれもなく


「錨…………だと…………!!!」


 錨だった。












 何故錨が?という疑問が脳内をよぎる。イルカかクジラみたいに海面から飛び出たそれは空中で交差したのちに重力に従いこちらに向かって落下してくる。まるで俺達を捕まえる網であるかのように。

回避を、向こうの意図に気が付いた俺は指示を出そうとしたが高速で動く船は俺の指示よりも早く錨にぶつかった。嫌な音を立てて船体前方の主砲を押し潰しながら艦橋に直撃した。幸い船体の素材は架空の鉱石のアダマンタイトの合金を使用しているので俺達が吹き飛ばされるなんて事にはならなかった。

だが、周りでジャラジャラと音を立てながら船体に引っ掛かった錨は簡単に外せそうにない。


「被害状況報告しろ!」


 それよりもまずは誰か怪我している奴がいないか確認しないと。そう思い口にしたが返答よりも早く次の敵の行動が始まる。いや、高速で移動していたから次の行動が早まってしまったのかもしれない。

錨が巻き取られたことで錨が引っ張られ新風が急停止した。急停止したことで各所から悲鳴が聞こえ、俺もバランスを崩して操舵手と一緒に舵輪にぶつかった。


 新風は手綱を引かれた馬のように船首を持ち上げた状態で固定される。艦尾のジェットがこの状態を維持していると理解した俺は這う体で伝声管に近づき停止するように叫ぶ。

少ししてジェットエンジンが収納され新風がゆっくりと艦首を海面に付けた。


「被害状況!」

「艦前方の主砲使用不能、機雷投下装置一部使用不能」

「機関フルバーストの影響で一時推力低下、しばらくフルバーストは無理だ」


 次々に上がる報告を聞くに状況は最悪、でも諦めない!まだ帰れてないのに沈んで溜まるか!あいつのためにも!震える膝を叩いて強引に立ち上がり、指示を出す。


「各員目視で警戒に当たれ!それと同時に錨の除去作業を開始する。最後まであきらめるな!!」

まだ新風は動く。俺達は最後まであきらめない!

「艦の両脇に浮上物体あり!」

「これはデコイか?」


 それにこのデコイの形状からして潜水艦じゃないな。なら俺達は一体何と戦っていたんだ?


「更に真後ろに浮上する物体一つ」


 恐らくこれが本命


「機関!」

「無理だ。錨をどうにかしないと逃げられない」

「迎撃魚雷!」

「デコイが邪魔で撃てません!無理に撃てばこちら損害が出ます!」

此方が撃てる手はもうない。

「総員警戒!目視出来次第報告しろ!」

「こちら艦尾、物体は潜水艦です!奴ら船に乗り込んできました!」

白兵戦か!



「さて」


 コバンザメのハッチから敵船の後部甲板に乗り込み周りを見る。信濃に比べれば明らかに小さいがそれでもリギースに比べれば明らかに進んだ造船技術、というかこの船はどう見ても私達と同じ転移してきた船です。ここはなるべく殺さずに無力化した方がよさげですね。


「これが海賊流、海賊のやり方、腕がなる物です」

「そう、男たるもの覚悟を決めれば何でもやってやるのです」

「一応俺達海賊じゃないんですが……」


 フソウさんの所の子がおずおずと反論する。


「「雰囲気とは大事です」」


 分かってるんですよ。そんなことは

でもこういう野蛮と言うか無茶戦い方って物凄く海賊っぽいじゃないですか。一回行ってみたかったのですよ。


「さて、皆さん準備はよろしいですか?」

「第一部隊準備完了」

「第二部隊同じく準備完了」

「第三部隊いつでもいけます」


 皆各々の得物を持って準備万端と言った具合です。やる気も十分、後何か決め台詞のような事を言うべきなのでしょう。やはりここはアレでしょう。

出すべき言葉を決め片方の手を前に突き出して、もう片方の手を腰に当ててポーズをとり考えていた言葉を口に出す。


「これより先、海賊の時間を開始する!!総員突撃!!!」


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