会敵ウリアにて
傍に沈んでいる船がゆっくりと浮かび上がる。俺達は第二艦橋であるCICでその様子を見守っている。浮上を続けている船はあと少しで海面といった所で突如船が爆発し水底に沈んだ。
「やはり沈みましたね」
「ええ、漆捌さん残りのデコイの数は?」
「4つだったのが今一つ減って3つ」
「ふむ、梵天丸さん敵船は動いていませんか?」
「動いてないですね」
「……どうしよっかな」
現在俺達は海底に接舷した状態で隠れている。俺達は次の目的地であるウリアを目指して潜水艦モードで進んでいた。理由としては万が一リギースでの情報が向こうに伝わっていた場合、攻撃される恐れがあるからだ。そうして慎重に目的地に近づき、目的地がレーダーの範囲内に入ったその時ほぼ同時に水上船の存在を感知した。俺達は最初あの女王の船かと警戒したが、レーダー範囲内にその船の他に船影は見られないし、レーダー及びモニターのズーム映像を見る限り、木造船というよりも、駆逐艦のようにも見えたことから俺達の中で他のプレイヤーが乗っている船かもしれないとなり、接近と共に浮上を開始した。
直後駆逐艦からアクティブ・ソナーを発せられるのを感知、多数の着水音と共に爆雷が投下されていることがレーダーから判明して浮上を緊急停止、少しの後に周囲の機雷が起爆し船体が大きく揺さぶられた。
俺達は一時撤退を即決して海底に潜んだ。浮上しようものならまた機雷が投下されるし、逃げるにしても、もし追跡されようものなら潜水艦モードの最大船速は10ノット前後それに対して駆逐艦の速力は最低でも30ノットは超える性能で追いかけられればまず振り切れない。これは無理に戦艦を潜水可能にした影響で他の潜水艦に比べると物凄く弱い。装甲も水中戦を想定していないので通常の陸奥鉄とダマスカス鋼の塊になるので魚雷や機雷で攻撃されると戦艦モードの時に比べると損傷しやすくなる。だからこそ俺達は浮上して逃走ではなく、潜航して隠れることを選んだ。
幸い機雷の爆発音に紛れて無音潜航しつつ低周波魚雷を放ったので何とか向こうの目をごまかすことは出来たようだ。現在は潜航時に周囲に散布したデコイを使ったりして様子を見ているが駆逐艦は同じ場所に錨を降ろして一切動いていない。こうしてお互いに顔を見せないままにらめっこを続けで一日が経過した。もしかしたら相手方も飽きたりしてないかなと先ほどデコイの一個を浮上させると相手の感知範囲内に入った瞬間に駆逐艦から機雷が投下され爆発四散した。
「撃沈とかはしないのか?」
「そうよ!もしかしたらあの国の船の仲間かもしれないじゃない!」
「いえ、それでしたら潜水艦モードに対応できていることがおかしいです。あの国に潜水艦という概念は無かったはずです。だからこそ逃げ切れた。それなのにあの船は完璧に近い対潜水艦行動をとった」
「それにカメラ映像から解析するに船の素材は金属質、機雷の形を見ても少なくともあの船はリギース帝国の造船技術を超えています。それにレーダー範囲内に他の船が反応しないのも奇妙です」
カメラの画像を見る限りスクリューっぽい物も船の後ろ部分についているのが確認できる。
一応あの船に近づいていく小舟のような物体は確認できたが駆逐艦に接舷した後に引き返して陸地に戻っていくのが確認できている。多分あの駆逐艦の協力者だろう。
それよりも今はどうやって対象を無力化するのかを議論している。
「主砲でドカンとやっちまえばいいんだよ」
「話し合えればいいんだがなぁ」
「そんな事よりも逃げましょうよ!」
「接舷して無力化しましょう」
皆別々の意見を言ってる。とりあえず漆捌さんの提案は即座に一蹴された。主砲の魔導砲は強力だけど原材料が聖杯から出てくる粘液上の何か、便宜上魔水と呼んでいるそれはめっちゃ水に溶けやすいので至近距離まで相手が近づかない限り水中での発射は出来ない。実弾は発射時の水圧に圧迫されて砲身が折れる恐れがあるので使用不能、水中で使用可能な武装は前後及び側面にある魚雷発射管のみ。なので、漆捌さんの提案は却下された。
黒雪さんの交渉は現状難しい、この世界に転移してからメニュー画面が写らなくなったのでチャットも通話機能も一切失われた。現状通信手段は艦内通信と艦内放送、そして船外用アナウンス装置、あとは動くか分からない通信装置がワンセットだ。
この中で船外の相手と安全に会話できる方法は船外用アナウンスの音量を最大まで上げて行うのが現実的ではある。しかし、向こうが何で攻撃しているのか分からないが、こっちが声をかけて問答無用で爆雷を投下されたらたまったもんじゃない。
やるなら無力化してからだからどちらにしてもあの船は避けられない、逃げるにしても俺達はここへの航路以外の海図を持っていない。本当はもっとリギースに滞在して情報を持って帰りたかった。
それに向こうも俺達がここに向かっているのは分かっているはずだ。早くしなければ追い付かれてしまう。
「艦長どうしますか?」
「フソウさんと梵天丸さんの案を採用、敵船を無力化したのちに話し合いの席に着かせます」
「わかった。けどどうやって無力化する?」
「考えられるのは接舷して乗り込んで無力化するか、敵の機動力もしくは武装を使用不能、航行困難になるまで追い詰めるかです」
「信濃を浮上させて戦艦モードに切り替えが出来れば、主砲が使用可能になるのでそれも出来ますが、敵はこちらを浮上させないようにしているので難しいですね」
「わ、私としてはあまり向こうの人達をケガさせたくはないから、出来るなら接舷して無力化させるのが一番だと思うわ」
「僕としても無力化には賛成だけどどうする?潜水艦モードの信濃は例えるならまるゆ並みのポンコツ船だ。第一このモードの運用目的は逃走の際に砲撃による追撃を逃れる為に使うモードだ。戦闘をする想定はされていない。船体を無理に動かせば水中分解するぞ」
「ヅダじゃん」
実際その通りであり信濃の船体の長さは400メートル、ドイツ軍が大戦中に使用したUボートが長さ67メートル、世界最大の潜水艦であるロシアのアクーラ級原子力潜水艦でも172メートルなので信濃はその2倍以上の大きさを持っているということになる。潜水艦は見つからず隠密に行動するのを主な運用方法だ、信濃も一応艦内の音は外に漏らさない防音の隔壁を装甲にいれているからエンジン音は最小だが、いかんせんデカすぎて完全に姿を隠すことは出来ない。それに相手もこちらが潜っている事がばれてしまっている。バレなければ何とでもできたのに相手も完全にソナーを全開でこちらを探している。
完全に八方塞がりだ。それに時間的なリミットもある。信濃が潜っていると言うことは浮上して空気を入れ替えることが出来ないと言うことだ。空間歪曲魔法で信濃の空間面積は四倍になっていて内部に果樹園や畑など植物を栽培しているスペースもあるのでそこの光合成やらで、長時間潜ることが出来るが楽観はできない。それに今あげた理由以上に浮上したい理由がある。
「体調不良者の様子はどうですか?」
「重傷者は隔離して治療を続けてる。検査もしているがやっぱり、ケガや病原菌が原因ってわけではなさそうだ」
「そうですか」
「私達が信濃に戻った際に貨物と一緒に簡易的な検査はしましたが、感染症の原因となるような病原菌や動物を持ち込んだ形跡はありませんでした」
信濃内で体調不良者が出ている。元々先の戦闘で軽い負傷者は出ていたが、潜水中から人数が増えてきている。症状は嘔吐に脱毛等々多岐にわたるが、長い間閉鎖空間内での生活のストレスによって精神が参ってしまっているのかもしれないと予想している。いくら信濃が空間湾曲魔法で空間を広げているとはいえ閉鎖空間であるのは違いなく空気がよどんでいた可能性も考えられる。いつまでも潜っている信濃の現状に不安を感じ、知らず知らずのうちにストレスを感じていたのかもしれない。そう考えるとこれ以上潜水しているのは得策ではない。
しかし、現状打破できる方法もない。敵は駆逐艦、本来なら見えてないこちらが有利なはずなのに信濃の巨体がアドバンテージを完全につぶしている。本来なら潜水艦にならないような船を無理やり潜っているから無理もないが、これだと潜る意味がない。潜水艦同士の戦いなら確実に負ける。
いや考えるんだ。今まで読んだ本や映像作品を思い出すんだ。
……そういえば潜水艦を題材にしている作品の中でイージス艦と戦う作品があったな。確か船のスクリューを無弾頭魚雷をぶつけてたような、昔見ただけだから完全に覚えてないがそんな感じの内容だったはず、あれを真似出来ればあの駆逐艦を無力化できるか、いやあれは最後船を撃沈してしまったはずだ。それにあの船は十中八九俺達と同じく転移した船だ。情報が少なすぎるが普通の駆逐艦と思わない方が良い。
もし回避された場合を考えて何か手を考えなければ。信濃が現在使用できる兵装は前後及び側面に配置されている誘導魚雷だけ、……いやまだある。あの船も良くやっていたことがある。アレを真似してみよう。
俺は今思いついた作戦を皆に話始める。




