ドリツ帝国
カンカンと外の工事の音が響く中、ドリツで新しく造られている鎮守府の執務室二人の男がいた。片方は椅子に座り書類を黙々と読み、片方は直立不動で男が読み終わるのを待っている。
「これは本当か?」
男が呼んでいたのは、海を挟んで相対している隣国リギースで起きたとある事件の報告書だ。
「はいアドミラル、リギースで確認されたモーガウルはティリュバリーから脱走、その際にリギース海軍と交戦、その後撃沈されたと」
「嘘を言ってはいけない。報告書によれば突如煙があの船から発生し、煙が晴れた際には姿が無かった、とそう書かれているじゃないか何処にも撃沈とは書かれていない」
「お言葉ですが、モーガウルが煙に巻かれる直前、船体には多数の損傷があったとされています。普通に考えれば損傷が広がり船体が裂け、沈んだと考えるべきでは?」
「そうだね。普通の船ならそう考えるべきだ。普通の船ならね」
そこで言葉を区切り一呼吸置いた後に男は再び口を開く
「レーベル君、君は私達が呼んでいるモーガウルを直接見たことがあるかい?」
「いえ、小官は配属されてまだ日が浅く、詳細については存じ上げていません」
モーガウル、我々の国に伝わる海の化け物、曰く巨大な体を持ち四枚のひれと二本の牙を持つ「海の巨獣」だ。2か月前、我々ドリツの沿岸部に突如として出現したそれを司令部はその巨体と圧倒的な存在感からモーガウルと呼んだ。それから、司令部はこのモーガウルの究明と捜索に際して莫大な資金と新たな部隊を創設した。それがこのファーストバタリオンだ。因みにその正体については戒厳令が敷かれ徹底した情報統制の元情報が外に漏れないようにされており、その全容を知っているのは今話している上司を含め一部だけだ。
「ああ、そうだね。君はこの『最初の大隊』に配属されてまだ1月も経っていなかったね。うん、それなら知らないのも無理はない」
かくいうこの男も最初の大隊ンに入って2ヶ月しかたっていない。本当に新設の組織なのだ。
「とはいえ、君はこれから私の右腕として働いてもらうんだ。何も知らぬ、では恰好が付かない。仕事するには全てを知ってからの方が身が入りやすいというものだ。ついてきなさい」
そう言うと上司は椅子から立ち上がり、ドアを開けて部屋の外に出るように促す。
上司の先導の元案内されたのは地下通路完全武装した兵隊が警備しており、上司はそこを顔パスで進んでいく。
そこから先は最重要機密区画
「行きますよ」
そう言われて慌てて置いて行かれないようについていく。
先の見えない通路を進みながらおおよその位置を予想する。方角的には作戦本部のすぐ近くアステムにあるアンセイル湖あたりでしょうか?しばらく歩けば突如視界が開け、思わず目をすぼめる。
そこは人口の洞窟を利用した軍港であった。正面には大きな壁、多分連絡用通路なのだろう沢山の研究員が行き交っている。
「元々は軍の秘密軍港だったが、モーガウル捕獲に伴い調査拠点に変わった」
「捕獲?モーガウルを捕まえたんですか?」
「ああ。……いや、捕まえたというよりかは捕まりに来たと言うべきか、とにかく我々はモーガウルを2体確保している。現在はモーガウルの構造を、製法を調べている所だ」
「なるほど、してその件のモーガウルは何処に?」
「あるだろう君の目の前だ」
そう言われ改めて視線を正面に戻す。壁だと思っていた物は壁では無かった。
「鉄の……船」
そう、私の常識とは比べ物にならない程の巨大な船、贅沢にも金属が使用され木材が一切見当たらない。宝の山。思わず後退るほどに巨大な船。なのに全て金属で構成されている。
「そう、これがモーガウル、我々に遣わされた幻の巨獣……いや、『アオガキ』と呼ばれていたかな?そんなことはどうでもいい。私はこの船の実力をこの目で見た。そしてこの船の構造を理解し量産することでドリツ帝国は比類なき力を手にし、我々は歴史に名を遺す偉大なる最初の大隊となるだろう。そしてドリツ帝国は最強の国家として世界に君臨することになるだろう!!」
これが、この金属の塊が動く?全く想像つかない。帆は何処にある。まさか風向きも海流も無視して進めるのか?このような船が一隻あるだけでも海戦の様式ががらりと変わる。
私の表情を知ってか、満面の笑みで上司が話す。
「もう一機鹵獲しているのだ。そして彼らは我らの同士として既に艦隊と一緒に作戦行動に出ている。そしてあの船こそリギースに確認されたモーガウルが沈んでいないと私が確信している理由だ」
「それは、どうしてでしょうか?」
「海に潜れる船なのだよ。彼らは潜水艦と言っていたかな?潜れるなら残骸も残さず姿を消すことが出来る」
「そ、そのような船が、いったい彼らは何者なのでしょうか?」
「さぁ、当の本人も最後まで説明できなかったようだ。だが、私はこれが神の送り物と考えている。これを使って世界を手に入れよ。そう言っているように聞こえるのだよ。実はこのアオガキを試運転がてらウリアに行ってみたんだ」
そう言う上司の顔は想い人でも見るかのようにモーガウルを見つめて、のろけ話のように話す。
「そしたら小さいモーガウルがいてね。試運転がてら戦ってみたんだ。圧倒的だった。敵の攻撃など寄せ付けない鉄壁の嵐、何物をも貫く砲塔、まさに最強の盾と剣だった」
恋したように光悦とした表情で、話す上司に少し不気味さを感じ一歩下がる。
「改めて、我々最初の大隊の任務は新たなモーガウルの捜索と鹵獲、そしてモーガウルを研究し量産可能にすることだ」
「もし、最後まで抵抗したら」
「出来れば生かして連行、殺してしまってはモーガウルの情報を自分たちで得ることになる。そうなれば長い時間、解析に割いてしまう。そのような間違いは一度だけでいい」
そう一瞬苦々しげな顔をした上司はすぐに笑みを浮かべる。
「まぁ、最後まで抵抗するなら撃沈も許可している。リギースなどの弱小国家に渡すくらいなら……というやつだ大変心苦しいがね」




