戦闘、ビーム、ブレス
艦橋に戻るとシャーロックさんが夜番をしていた。
「春雷さん戻ったんですか?」
「ごめんなさいシャーロックさん、ちょっと待ってください。スーシア!第一種戦闘配置の艦内アラームを流してください」
「了解しました」
スーシアがパネルを操作するとけたたましいサイレンの音が鳴り響くと同時に副艦長席にあるマイクに向かってスーシアが叫ぶ。
「『第一種戦闘配置!繰り返す第一種戦闘配置!各員速やかに配置に付いてください!』」
途端に艦内が騒がしくなり、バタバタと廊下を駆ける音が増えてくる。
「え?ナニコレ?春雷さん、どういうことですか?」
状況が理解できずにただ混乱するだけのシャーロックさんに簡単に状況を説明する。
「向こうでちょっと問題が起きて追われることになりました」
「え、なにやってるんですか?」
「すいません、中身見られちゃって」
「本当になにやってるんですか?」
「油断してリラックスしてたら、突撃おたくのお尊顔されて…」
「‥‥‥‥そうですか、とりあえずどうしますか?」
少しの間天井を仰いだシャーロックさんは全てを諦めた顔でこちらを見た。ほんとすみません。こんなのが船のトップでホンっっっっトウにごめんなさい。
「逃げます。全力で後退、隙を見て反転して最大船速で振り切ります」
相手は大体帆船、最近建造されたらしい蒸気船の『アーク・ロアー』も信濃の最大速度なら十分に振り切ることが可能だ。
「は、はいわかりました。とは言っても黒雪さんが起きないと機関が動かないので待ちですね。後で、詳しく話を聞かせてもらいますからね」
「……はい」
艦内アラームを鳴らして数分、艦橋に人が集まり発進シークエンスが開始される。仕事が早い。艦内に明かりがともり低い振動が体を揺らす。
「エンジン回転数上昇開始」
「エンジンスタート、全速でここから離脱します!」
信濃のスクリューが高速で逆回転し、港からゆっくりと離れてさせる。こうなるんだったらバックで入れておくか、あらかじめ回頭しておけばよかった。
だがバックしている信濃でもそれなりに速い信濃に固定されていたロープもシャーロックさんの所の子が事前に切断してくれたので阻む物はない。
…少し話はそれるがこの緊急事態なので俺達とシャーロックさん以外のメンバーは寝ていて急に呼び出された。だから国にいた俺達と夜番のシャーロックさんを除く皆の格好は寝間着姿で出てきたのだが黒雪さんの恰好が破壊力高い。なにせ日焼けした筋肉ムキムキのおっさんがパツパツのネグリジェ着てるって緊張感ぶち壊しすぎる。
「聖杯出力安定いけるわ!」
「錨上げ!信濃緊急発進!全速後退!!」
金属が擦れる音を出して錨が船体に収納され信濃がゆっくりと動き出す。元々アラームを鳴らした時から騒がしかったようで周りの監視船の乗組員がこちらを見ている様子が見えていたが、動き出した途端騒がしくなった。身振り手振りをカメラで見る限り、止まれ!とか言っているんだろう。向こうの情報がまだここに来ていないのが分かる。そして止まらないと分かるや否や急いで周りの船がマストを張り俺達を追いかけようと準備している。
「春雷、追いかけてこないように脅しで一発撃ってみるか?」
漆捌さんがそう提案するが却下する。向こうはエンジンの付いていない帆船、たいしてこちらは風向き関係なく進める高出力エンジンの聖杯を二基搭載した。ゲーム内でも多分トップを争える戦艦だ。追い付けるわけない。
「まずは距離を離すことに集中します。エンジンに魔力を多めに回してください」
「了解しました魔力増大、最大船速で後退します」
信濃の戦艦モードでの最大船速は30ノット、帆船の速度はゲームで最大20ノット前後、無改造の船は史実通りのスペックだからあの船でこちらに追い付くことはまずない。そして万が一追い付いたとしても船の装備は大砲が数門ある程度、先の海賊が放つようなビーム兵器の類が配置されている様子もなかった。ただの大砲ならこちらの陸奥鉄とダマスカス鋼の合金装甲に防御魔術組み合わせた装甲を突破できるわけない。そう思っていた。
「敵艦に高熱反応多数!!!」
だから、梵天丸さんからこの言葉が聞こえた時には本当に耳を疑った。話を聞いている時もビーム兵器の類は存在していないと聞いていたし、実際に船に乗った時にもビーム兵器のような物体は確認できなかった。大砲はあったが使っている砲弾も普通の砲弾でビーム兵器の類は無かった!!なのに何で!
「え、マジで?!」
「来ます!!」
直後に船体に衝撃が走る。立っているのが困難なほど左右に大きく揺れる。音と衝撃の大きさで何が起きたのは何となくわかる、あの海賊が使てたビーム兵器だ。でも何で信濃の周りに待機していた船には大砲はあったけど、ビーム兵器を置けるスペースもなかったし、そもそもビーム兵器何てどこにも置いてなかったはずだ。
混乱と動揺が思考を埋め尽くす。何で?どうして?ビーム兵器何てなかったじゃないか!
最期にビームが直撃した艦首部分が爆発を起こし今までよりもはるかに大きく船が揺れる。
「どうする春雷!反撃するか?」
「春雷さん方向転換しますか?」
皆が俺に指示を仰ぐ声が聞こえる。
「まず被害状況!」
「右舷後方で爆発が発生!損害は軽微ですが小規模ながら火災発生、装甲は貫通していないようですが一応周辺の隔壁を閉鎖します。同時に攻撃元、敵船の何処から攻撃が来たのかの特定を開始します」
「お願いします」
何とか装甲を貫通はしなかったようだ。何で異世界のそれも中世の世界観がある場所にビーム兵器があるのかはよく分からないが、少なくともビーム兵器をそうポンポン撃てるような世界じゃないでしょ。少なくとも魔法を組み合わせた装甲は貫けないはず。先に梵天丸さんの解析が……
「熱源反応多数!先ほどと同じ攻撃がもう一度来ます!」
「え、うそ、早くない?」
先の攻撃もそうだけど放熱時間とか冷却時間とかないのかよ!!
嘆く間もなく第二、第三の攻撃が信濃の船体を揺らす。被弾個所から爆発音が聞こえるが、スーシアからの報告では装甲貫通までは至っていないようだ。反撃?でもそれだとこの国と完全に敵対することになる。この一か月で頑張って築いた関係を完全に壊すことになる。
そんな努力を無に帰すのは……
何度目かもわからない攻撃が信濃を揺らす。今までよりも大きな揺れに思わず椅子から転げ落ちそうになるのを何とか耐えたる。でもこのまま何もしなければ死ぬ。
「……それは駄目だ」
そうだ、俺はここで死ぬわけにはいかない。家族になにも言わずに死んでなるものか。それに俺は艦長だ。何よりも乗組員を第一に考えろ。攻撃されたのならやり返せ。ビームにはビームだ。
「…………漆捌さん、主砲1番2番発射用意、目標敵船、牽制を撃った後に攻撃が来たら魔導エネルギー式で反撃、当てろ」
「え、マジ!撃っていのか!」
「ああ、牽制した後は遠慮はいらない全力で敵を撃沈しろ」
「おっしゃあ!行くぜ行くぜ行くぜ!主砲発射用意」
「春雷さん!いいんですか?!」
驚いた口調でシャーロックさんが問いかける。その向こうで主砲がゆっくりと旋回する様子が見える。
「攻撃を当てていると言うことはこの船を沈める気があると言うことです。やらなければやられます。元の世界に帰るためにも俺達は死ぬわけにはいかない。それは分かっているはずです」
「ですが……」
「主砲、壱番弐番参番、魔力充填完了!!目標敵船側面!!誤差修正、目標に当たらないように照準完了!撃てるぞ!」
シャーロックさんとの会話に割り込むように漆捌さんが主砲発射準備が整ったのを知らせる。
「撃て!!」
「てぇ!!!」
漆捌さんの掛け声で信濃の主砲が火を噴く、主砲から発射されたエネルギーは白く綺麗な光を描いて敵の船の側面を掠める。これで攻撃を止めてくれればいいが、そんな願いとは裏腹に攻撃が止まることは無く、攻撃が飛んで来る。寧ろ激しさが増した気がする。ならば反撃開始だ。
「反撃開始!!手加減は無しだ!!」
「主砲、副砲一斉射!!敵を水面の底に案内してやれ!!」
漆捌さんの指示で再び主砲が火を噴く、先ほどと違うのは当てる目的で撃ったこと。白い軌跡を描いたその弾頭は真っ直ぐに敵船へと向かいまるで氷を割るかのように簡単に敵の船を貫き、後方にいる船も数隻巻き込んだ。
少しの沈黙後に爆発音とともに船がバラバラに飛び散り暗い水底に沈んでいく。巻き込まれた船もゆっくりと元の形から崩れ始める。流石に木造船で信濃の攻撃を防ぐことは出来なかったようで安心する。
その後も次々に周囲の船が跡形もなく吹き飛んでいく。攻撃開始から数分で俺達の近くに停泊していた船は無くなった。一息入れる間もなく指示をだす。
「シャーロックさんは全力で後退を続けてください、信濃の速力と装甲圧なら下手に回避するよりも早く逃げられます。攻撃が止み次第艦首回頭!全力で逃走します」
「…………わかりました。機関最大全力を維持します!」
「黒雪さん出力をギリギリまで上げてください。何だったら艦内への供給分の魔水もエンジンに回してください」
「もうやってるわよ!」
ヒステリックに喚き散らすように黒雪さんが返事をする。直後に艦橋の照明が落ち、非常灯の光が赤く照らす。
「スーシア戦闘要員以外の非戦闘員を信濃の中枢エリアに集めて被弾者が出ないようにしろ」
「了解しました艦長」
「医務室けが人は?」
『「こちら医務室、今の所けが人は転んだりした程度が数名、重傷者はいない」』
「わかりました。コバンザメ座礁の危険は?」
『「こちらコバンザメ今の所潜水艦とか、急な浅瀬は見えない」』
「ありがとうございます。引き続き座礁の危険があれば教えて下さい」
『「了解、春雷氏逃げ切ろうな」』
それフラグだからやめて
一通りの指示を出し終えて、遠くから来た船からの攻撃で揺さぶられる船体の中で考える。今の状況が続けば、やがて信濃の主砲で全ての船が沈み向こうの追撃が不可能になる。
向こうのビーム兵器がどんな形をしているのか知りたいところではあるが、何とか方向転換し逃げ切り追撃を振り切ろう。とりあえずは漆捌さんの殲滅までやることは無いな。
「左舷に超々高エネルギー反応!今までの攻撃の約10倍以上!!」
「は?」
なにそれ?と言葉を発する前に後方に今までのよりも比べ物にならない衝撃が艦首に当たり船体を揺らす。左舷に何か光の棒みたいなものがぶつかって船体に当たり拡散したものが左へと逃げていく光景が見える。俯瞰して見たら綺麗そうだ。
「なんだよ!敵の船ローエ〇グリンでもついてんのかよ!」
「ついてたら環境汚染凄そうですね!!スーシア装甲は大丈夫そう?」
「艦首装甲温度臨界直前!あと信濃が敵の攻撃に押されて勝手に旋回しています」
嘘と言いたいところだが実際に艦橋から見える景色が右回りで回転している、なんとなく遠心力を感じる。というか、信濃の船体を動かすとかどんな威力してんだよ!
しばらく、振動でまともに動けなかったが船体が90度くらい回転したところでビームが外れる。
「ったく、なんだよ。あの極太ビームは!!!」
「あんなの何発も食らっていたら信濃が持たないですよ?!」
「梵天丸さん、特定はまだですか?」
「今、特定しました。モニターに写します」
梵天丸さんの所から情報が渡され後部カメラのノイズ交じりの映像が机のモニターに映る。しばらくはビームの光でまともに直視することが出来なかったが、カメラが切り替わり船体の側面からの映像が映る。まずは画面の8割を占めるビームの閃光、そして画面左端に辛うじて何かが写っているのが見える。ビームの逆光で姿が見えにくいが何か小さいな。ゲームだとそれなりに重量があって場所もかさばるはずなのに……これが異世界か。
あ、ビームが収まるから見えるように―――って
「はぁ?!」
それを見た時、本日何度目かもわからない驚いた声を上げる。モニターに映っているのは背中のクリスタルをギラギラ発光させながら、大きく開けた口から煙を吐いている女王陛下その人だ。
…………ゴ〇ラかよ




