生きる為に
「兵士が多くなってきましたね」
路地の角に身を隠し、コッソリと先の様子を伺う。10人ほどの兵隊が路地を松明片手に行ったり来たりしている。魔法を使っていないのか。ここに一か月ぐらい滞在したが遂に魔法を見ることが出来なかった。この世界魔法ないっぽい。
「そうですね。このまま河に行くのはちょっと難しいかもしれないですね」
現在俺達は川へと向かう途中の路地で立ち往生している。何故かというと道に迷ったからである。案内してたスーシアはコバンザメと合流した際には忍者のように屋根伝いで移動していたらしく、屋根伝いに移動できない俺達に合わせると路地を進むので現在位置を知るために頻繁に屋根に上って、向かう方向を確認していたら時間がかかってしまった。
「申し訳ないです」
「スーシアさんは悪くないですよ」
「そうです。それよりもあとどのくらいでコバンザメと合流できそう?」
「今の調子ですと………半分を超えたあたりかと」
半分、今までにかかった時間を考えるとあまり良いペースではないな。どうにか時間を短縮する方法を考えなければ
「半分ですか……兵士たちが探していますし隠れながら進むとなると、一筋縄だといかなそうですね」
「何かいい方法があるといいんですけど……」
キョロキョロと辺りを見回すが見えるのはレンガ、石畳、野良猫、ゴミばかりでこの状況が一瞬で解決できそうなアイテムは見当たらない。
「私にいい考えがあります」
「お、なんですか?」
俺なんかよりも賢いスーシアの意見だ。なんかワープとか土星の輪の中に隠れて奇襲並みのグッドなアイデアを出してくれるに違いない。
「私が突撃して注意を引くのでその間にお二人が……」「駄目」
駄目だ。うちの子が100%犠牲になりそうな案など許可できない。
「スーシアをそんな危険な目に一人で行かせるなんて論外です」
「そもそも案内役がいなくなったら意味ないので駄目ですよ。犠牲の上に何も利益が無いなんて許しませんよ」
「……はい」
「というか元をたどればこうなっている原因は俺だから、やるなら俺の方が……」
「なんで親も子供も揃いも揃って自分から犠牲になろうとしてるんですか?いいから早くコバンザメと合流しましょう」
「「はい」」
梵天丸さんに怒られて揃ってトボトボと歩く。でもこのままだと日が昇ってしまう何かよさげな物は無いかと周りをキョロキョロしていると何かに気が付く。
ん?ンンンン?
「どうかしましたか?」
俺の様子に気が付いた梵天丸さんに聞かれる。
「いえ、何となくこの辺りの風景に何となく見覚えがあるような気がして」
「え?……あー、確かに見たことがあるような?ないような?」
「んーーーー?……あ、思い出しました!艦長、ミアさんの家の近くですよ」
スーシアに言われてやっと気が付く。そうだ、この通り最初の日に俺達がミアさんを送りに行く途中に通った道だ。
まてよ
「梵天丸さん、少し寄り道してもいいですか?」
誰もいないリビングで一人水を飲む。
おばあちゃんはもう上で寝ている。私も寝ようと思ってはいるのだけど、どうにも心が落ち着かない。お父さんとお母さんがいないからなのか、あの人達に満足に感謝の気持ちを言えていないのかは分からない。
信濃という船にいた方々、特に艦長と呼ばれていた人?は見た目は怖かったけど話してみると案外話が分かる人だった。彼は他に自分と似たような姿をした人はいなかったか聞いてきたけど流石に全身が骨の人は知り合いにいなかったと話した。春雷さんは残念そうに何かを呟いた後に、自分の姿の事は家族とか知り合いに話さないで欲しいと話していた。
なので、あの人の素顔の話は誰にも話してない。あの人たちが去った後に何度か兵隊さん達が話を聞きに訪れてきて、春雷さんの顔を見たかと聞かれたけど見ていないと話している。
近所の人達もあの船の話を聞きに私の所に来る。言わないで欲しいと言われたこと以外は話をしているけど全員半信半疑だった。
私もあの船の出来事は信じられないことばかりだったから無理もないと思う。
豪華な浴室に美味しい食事が一日三回ある私のいた場所が船であることを忘れるような場所で今にして思えば外見よりも船の中が大きく感じる。それほどまでにすごい場所だった。
早くお父さんとお母さんにも話したいな、そう思ってしまい気が付く。
おばあちゃんは遠くに行っていると言ってはいるけど、いくら私でもわかる。多分二人とももう……
そこまで考えた時に後ろに気配を感じて振り向く。そこにはおばあちゃんが立っていた。
『どうしたのおばあちゃん?』
『いやね、外が騒がしくて何かあったのかと心配になってね』
そう言われて外が何やら騒がしい事に気が付く。今まで考え事をしていたから気が付かなったが窓から松明の光が漏れ外から話し声が聞こえる。
しばらくして声と光は遠ざかって行ったが、外が騒がしいのは収まらない。
何かあったのか気になる所だけど、迂闊に外に出るわけにも行かない。そうやって私は海賊に捕まってしまったのだから。
『本当だね。何かあったのかな?』
とりあえず、私達が関わることじゃない。様子を見たい気持ちを抑えておばあちゃんと上に行こうとした時だ。
ドンドン
家の裏口を叩く音がして時間が止まる。だれ?怖い。上に行きたいけど足がすくんで動けない。
ドンドン
もう一度ドアを鳴り、小さく声が聞こえる。
『ミアさん、春雷です。起きていますか?』
春雷?……あ、あの船の艦長さん?どうしてここに?
疑問は頭の中に浮かぶけど知っている人なら特に怖がる必要はない。けどちょっと怖いから扉を少し開けて隙間から顔を覗かせる。一番前に布を被った人が立っている布の下の姿は見えないけど恰好から多分春雷さんだ。後ろにはスーシアさんと梵天丸さんがいるし大丈夫だろう。
『あの……何か?』
『いえ、ごめんなさい。少し警戒しちゃって、立ち話も何ですし中へどうぞ』
『ありがとうございます』
ドアを大きく開けて皆さんを中に入れる。
『……そんなことがあったんですね』
春雷さんの話を一通り聞いた後にコップに残った水を飲み干して呟く。
春雷さんの素顔がバレてしまいそして、今はあの船に戻るために川に行きたいと言うことですか。
『ええ、なので川への案内をお願いしたいんです』
『ミアさんが危険なのは重々承知しています。でもだからこそお願いします』
春雷さんと梵天丸さんが頭を下げてお願いするのを慌てて止める。
『あ、頭を上げてください』
『いえ、せっかく家に帰ることが出来て、私達と関係ない普通の日常に戻れたはずなのにまたこんな形で巻き込んでしまうのが、正直やりたくないんです。ですが、私達が安全に信濃に戻るためにはミアさんの協力が必要でして出来るなら協力して欲しいんです。本当にわがままなお願いで申し訳ないですがお願いします』
再び頭を下げる春雷さんを見ながらどうしようかと迷う。
この人達には私の命を救ってもらっただけじゃなくて、とてもお世話になった。衣食住、私がここに戻るまで沢山お世話になった。その恩を返せるのなら喜んで助けになりたいところです。でも、川まで案内している最中にもし兵隊に見つかったら家に帰れなくなっちゃう。おばあちゃんを一人だけにすることは出来ない。
お父さんもお母さんもいないこの家で私までいなくなっちゃうのはいけない。いっそのことおばあちゃんも一緒に行けないかとも考えるけど今の状況からして多分無理みたいだ。
おばあちゃんを一人にするなら二人で残りたい。だから頭を下げる。
『すみませんお力になれそうにありません』
『……』
春雷さんは変わらず頭を下げたままです。私は顔を上げて理由を話す。
『皆さんにはとてもお世話になりましたが、おばあちゃんを一人ぼっちにするわけにはいきません。私はもう二度と家族と離れ離れになりたくないです。もし皆さんの助けをしたと分かってしまえば私は捕まってしまいます。私は残ったおばあちゃんを一人にしたくないんです』
『ミア、お前……』
『ですので申し訳ないですが皆さんのお役に立つような事は出来ないです』
『……そうですか、なら仕方ないですね。お邪魔しました』
何処か諦めていた様子で春雷さん達が席を立つ。
『ごめんなさい』
『け、けど』
『スーシア、駄目だ。自分達がお願いしている立場です。向こうが駄目だと言ったら駄目なんです』
何か言おうと席を立ったスーシアさんを春雷さんが止める。
『それに私達と一緒に歩くのはリスクが大きいのも事実です。なので仕方ないかと』
『そう、ですね。ごめんなさい、お邪魔しました』
スーシアさんが謝罪の言葉を口にした後に二人も頭を下げる。そして三人が扉に向かって歩き出す。その時に私の後ろから声がかかる。
『待ちな』
春雷さんが振り向いたのにつられて私も振り向くとおばあちゃんが真っ直ぐに私達を見ていた。
『おばあちゃん?』
『ミア、お前はいい子に育ってくれた。老い先短い私の事も考えてくれるような優しい子になった。お前の両親も草葉の陰から喜んでいるだろう』
『おばあちゃん……』
『もう気が付いているんだろう?お前の両親はあの日、海賊共に殺されちまったのさ。だからもう会えないと思っていた。その孫にひと時でも一緒にいられただけで私は幸せさ』
『………』
『だから行ってきなさい。どうせあの船が無事に脱出したら、あの人たちの事をお前から聞き出そうとこの国の兵隊が押し掛けるだろう。私はもうこれ以上私の家族が苦しい目に遭って欲しくない。だからお前だけでも逃げるんだ。皆さん、ミアの事宜しくお願いします』
少し涙声になりながら笑顔で私を見る。その目は潤んで今にも泣きだしそうなのに、それに耐えて私を笑顔で送り出そうとしている。
『え?あ、待ってください』
『なんだい?』
『何でお二人が今生の別れみたいな話をしているんですか?』
だが、春雷本人は話の流れをあまり理解していなかった。ミアさんに案内してもおうと考えた本人ではあったが、状況が切迫していたのでその後の事は何も考えることが出来ていなかった。
『先ほどミアさんが話した通り、もし、ミアさんが私達といる事がこの国の兵士に見つかったらミアさんはこの国で暮らせなくなります。もし、合わなかったとしてもミアさんは私達の船の内部構造などをよく知っている方です。当然国は私達を捕まえるためにミアさんに話しを聞きに来ます。ですがミアさんは何も知りません。でも人は疑えば手段を選びません。ミアさんのおばあさんはそう言った事を危惧して、ミアさんを私達の所に預けようとしているんです』
「なるほど、でもそれっておばあさんも連れて行けば大丈夫ですよね?」
『逃走劇に足の遅い人を連れて行けば危険になります』
「自分が背負います」
『え、それは……』
「自分はこれでも妹を背負って走ったりしてきたんですよ。それに偏見ですけどお年寄りって体重が案外軽い人が多いんですよ」
『……いや、でも、うーん』
「自分はミアさんにお願いをしに来ました。それでも心残りのある状態でお願いを受けてもらうよりも、悔いが少ない状態で受けて欲しいんです」
『でも……』
話は分かる、とはいえ危険な事であることに変わりはない。私はもっと歩いて生きたい。こんなところで死ぬつもりはさらさらない。春雷さんの提案は危険が大きい。もしバレた時に取れる手段が減ってしまう。だから、本来ならミアさんだけを連れて行くべきだ。
……でも、ここは会社じゃない。人情で助けてもいい、どうせここは異世界だ。少しかっこつけた所でバチは当たらない。それに私自身もう後味の悪いものは見たくない。
「私からもお願いします。梵天丸様、もし戦闘になっても私が道を切り開きます」
『スーシアさん、大丈夫です。受けましょう』
「梵天丸さん!!!」
『後二人とも言語が日本語に戻っています。多分ミアさん達は話が半分しか分からないと思うので説明しておきます。その間にスーシアさんは屋根伝いに移動してコバンザメと合流してすぐに私達が乗船できるようにして戻って来てください。その間にミアさん達と逃げる為準備をします』
『了解いたしました。艦長すみませんが少しお傍を離れます』
『ああ、気を付けて行ってきて』
『はい!!』
スーシアさんが気持ちのいい返事をして裏口から外に出て行く。さてと、私は先ほどの話を二人に話す。
『おばあちゃんと逃げることが出来るんですか?』
『はい、春雷さんがミアさんのおばあさんを背負います』
『でも、大丈夫なんですか?春雷さんはその……体が……』
『大丈夫です。人は見かけ通りだとは限らないので、それに離れたくないんでしょ?』
『…っ!!はい!』
『よろしい、おばあさん。申し訳ないですがあなたの覚悟は無駄になってしまいます』
『いいのよ。それよりも私達が逃げる準備をしないとね』
『はい、ですがあまり大きな荷物を持っては動きにくいので服装を着替える程度にしてください。生活用品は信濃内で支給するので』
『わかったよ。ミア、着替えるよ』
『うん!』
いくらか、元気になったミアさんを連れて二人が二階に上がる。
『無理を言ってすみません』
『これに関しては気にしてないです。私の場合、二つを選ぶ場合にリスクを考えてどちらか切り捨てる思考になってしまうので、二人を助けるという考えを完全に失念していました』
ここは異世界だ。あの世界の私の考えを捨てて、少し自由になってもいいのではないか?私のアバターのモチーフは海賊、自由な女海賊の乗組員だ。縛られて動けなかった私ではない。
あの世界の私にサヨナラをして、一歩を踏み出す。言うのは簡単だけど出来るかどうかはわからない。でも、絶対になって見せる。
決意を新たに考える。まずはこの状況を突破することです。




