1ヶ月経過
「………ふぅ」
仕事がひと段落して少し伸びをする。我が国に客人が来てから二週間が過ぎようとしている。あれから何か動いているわけでもなく彼らはここに滞在しておる。
それを好機とみて博士が連日あの船を観察しているがどうやらあの船に乗り込んでから研究者の意欲うまく突いたようで観察やら考察、新しい理論の構築と研究意欲が湧いているようで余も喜ばしく思う。だが、それ以上に頭の痛い案件が舞い込んでくる。
その最たるものが周辺の行方不明船の数だ。軍艦はリギース周辺にとどまっているが主にウリアからの輸送船だ。海賊の仕業も考えたがあの船がここに来てからめっきり減っている。海賊は金銀財宝の他にも身代金や奴隷売買目的での誘拐もある。だから身代金を払えと要求するのが来ていたがここの所一切来ていない。代わりに姿をくらます船が増えてきた。
何が原因なのか調べているが分かっているのは海賊の仕業では無い事だけだ。
時期が近いだけに春雷殿にも何か関係があるかと話を聞きたいところではあるが、他国の悩みを聞かせるわけにも行かない。
幸い海賊の略奪品を取り戻すことが出来た。無論元の持ち主を探しているが既に無くなっている可能性がある。その場合は国が回収する。既に渡す先がいない物品は回収済みであり、国家予算に適時組み込まれる予定だ。
だが、これでも一時的な物、根本的な解決には至っていない。大臣たちとも協議を重ねているが原因が判明しない現状誰も妙案が浮かんでいない。海獣の被害も父上が対峙してから久しく聞いていない。
時期的に見れば行方不明船が出てきた時期と彼らがここに訪れた時期が一致していると言っている者もいる。奴らが奪い奴らが返しに来たマッチポンプをしていると、しかし今の所彼らが怪しい動きをしている様子はない。船の方も見張りを交代で立てているが特にこれと言った報告はない。
ジェームズ大臣は声高らかにあの船を調査すべきと言っているが、そもそも具体的な関連が無いのだからそのような意見が通るわけがない。そして余もあの船を建造したような国と敵対することはなるべく避けたい。あのような船が存在している事すらも信じられない。父上は世界の全てを手にしたように誇っていたが、それは金貨のように勝ちは大きくとも大きさは小さい物だった。世界は広く大きい。
まるで子供のお遊びのような物だ。我が国の技術を集めても再現できるか難しい代物だ。そして再現できることになったとしても、あの船を一隻分建造できる分の金属を用意することは出来ない。きっと作ろうとすれば国が亡びるだろう。
そんな船を簡単に生み出せるニホンという国はどれ程の軍事力を持っているか予想することが出来ない。そんな国と敵対するのは得策ではないと考える。
一部の貴族から石ナシと友好など!支配してしまえば良かろう!と言われると予想するが、その偏見こそ侮りである。我が国の調査隊ですら到達したことの無い国から立った一隻で、それもオルト博士によるとたいして損傷せずにここまで来たようだ。あの船の耐久力は侮れない。考えなしに侵略すれば痛い目を見るのは余達だ。民草あってこその国だ。ここは友好を持つのが最善手であると余は思う。
まずは友好の証として幾つかの書類、地図などその他の品物の用意をするとしよう。
それにしても梵天丸と言ったか、彼女が秘密裏に接触してきたのには驚いたが、話した内容も驚くべきことであった。もし彼女の提案を受け入れれば我が国は比類なき技術と力を手に入れることになるだろう。ドリルや他の国を恐れる必要も、不帰の海、神秘包まれる国があると言われている西のアメリアへ行くことも叶うかもしれん。
とはいえ、簡単に首を縦に触れないのも事実。彼女の真意も目的も何も分かっていない。それに、もしあの船を手に入れたとしても我らの手に余る可能性が十分にある。
帆を張らずに動く機関などついこの前アーク・ロアーに乗せたばかり、それにその蒸気機関もまだようやく実践段階になったばかりで問題点、改善点など山のように積み上がっている。だというのにあの船は煙も出さず音も出さずにロアーよりも早く動く。
そのような物を手に入れたとして国は安全なのだろうか。あの船は目立つ必ずどこかで情報が洩れる。それを他の国が知った際に野放しにしておくだろうか?
否、必ず手に入れようと画策する。
そして行動にあの船についてどれだけ知ることが出来るだろうか、余は船についてそれほど詳しくは無いのではっきり言えないが例え全力を尽くしても10年以上はかかるとみる。
そのような船を今すぐに手に入れても手に余るだけだ。
まずは少しずつ知識を付けていく、その方が現実的だ。
ジェームズ大臣はすぐに手に入れたそうにしていたが、何とか止めねばアレは先代に似てすぐに行動に移そうとするのがよくない。何とか釘を刺さねばな。
問題は山積み、内も外も余の力が足りないばかりにボロボロとはいえ、このままではドリツに戦争を仕掛けられればひとたまりもない。ならばこそ一時的に奪うのではなく、友好関係を築きあの船の技術を我が国にも取り入れる。




