未知の船
なんだこの船は
我が一家は国家からの支援の下リギースの軍艦の建造と改修、研究を続けている。この前は最新技術を惜しみなくつぎ込んだ軍艦アーク・ロアーの建造に関わった。
私はリギースや周辺国家の船の情報を集めてましたし、それに負けない船を建造している。我が国の軍船は何処の国にも負けない最強の船、艦隊であるとも自負していた。
それがこの船の上に立っただけで壊れかけてる。
この船の材質はなんだ?いや、答えは分かっている金属だ。金属が艦全体に惜しみなく使用されている。我が国では金も鉄もその他の金属も常に不足している。周辺国家も同じような状態であると聞いている。だというのにこの船はその金属が惜しみなく投入されているのだ。軽く触ってみたが、どうやら鉄よりも固い金属で構成されている。少なくとも我々が採掘し精錬しているどの金属よりも堅いと見える。私としてはさらに調べたいところだったが、私を見ている視線を感じる。
本来なら無視したいところだが、そのことが原因で話を聞けなくなってしまってはこの船の秘密を話さなくなっては面倒だ。なに、話を聞けばこの船はまだテイリュバリーから出航しないとのこと。それなら後でじっくりと調べることも出来よう。
一旦材質の調査は止めて今度はマストを見る。従来のマストより太く大きい、帆は見当たらないがマストの上部と最上部にガラスが張られている。ただマストに昇るためのロープも確認できない、もしかしたらこのマストの内部から上部に出ることが出来ると推測する。実際にこの船の乗組員が出入りしているのを遠目だが見ることが出来た。そう考えればこのマストがここまで巨大化している説明がつく。ただその場合これ程大きな船を動かすのにマストの本数が一本だけというのは少なすぎる。普通、風を逃さないようにマストを多く張るのが定石、実際アーク・ロアーには蒸気機関を搭載しているが万が一の事態を考えてマストを三本立てている。
だというのに、この船はそのアークロイヤルの4倍の大きさを持っているにもかかわらずマストは一本、外輪が側面についてない。
この船の接近を発見した兵士の話では帆を張らずにゆっくりとした速度でこちらに向かっていたと証言していた。
その後の調査でもこの船が帆を張っている様子が確認されることは無かった。だが、よく見ればマストの背後に巨大な煙突のような物が確認できるので、やはりロアと同じく何かしらの動力があると予想できる。現在は稼働していないようで煙突から煙が出てる様子はありません。知りたいだというのに
『この船の動力源は何ですか?』
と一緒にいる金髪の女性に聞いても
『機密事項です』
これを返される。別の事は偶に答えているが船体の長さや排水量等この船の秘密に一気に迫るような情報ではない。だから何としても私の目と手で解明させなければならない。意気込みを新たに立ち上がった時に後ろから声がかかる。
『オルト博士』
振り返るとこの船の艦長を名乗っている男が立っていた。顔は布でぐるぐるに巻まかれ素顔は見えないが声から男だと思われる。服装もネイビーカラーの軍服のような物を着ている。手も白い手袋を着ているので素肌は見えない。呪いのせいだと本人は証言しているが実際のところどうなのかははっきりしない。
『おや艦長殿、いかがなさいましたかな?』
『まもなく信濃が港に海賊からの略奪品を降ろすために移動を開始します。揺れますので間違えて海に落ちるような事が無いようにお願いします』
素晴らしい、これほどうれしい注意喚起も他にない。信濃が動くさまをよく見させてもらうとしましょう。その報告から少しした後に錨が自然に上がり、音もなく船が動き出す。
驚いてマストを見るが帆が張られた様子もなく、背後の煙突から煙が出ているわけでもない。かといって潮の流れに乗っているわけでもない。
何だ、一体何で動いているのだ。私は船の端に体を乗り出し他に何かないかと見回すが船体が大きすぎて何が何なのか分からない。
危ないですよ!と艦長殿に忠告されるが無視して見回すが結局この船がどうやって動いているのか見つけることが出来なかった。
私の研究者としての誇りが崩れ去る。何も分からなかった。この船がどうして動くのか、装甲の詳しい素材、マストの存在、何わからない。これほどの技術力を持っている国が我々の知らない場所に存在していたという事実。もし、この船が量産されているなら我が国など塵芥のように消し飛ばされる可能性がある。無論、兵の練度で対抗できるが問題は大砲だ。多分甲板上に並んでいる前と後ろにある計7つの物体、三本の筒のような物が飛び出ている物体がマスト前方に4つ後方に3つある。これだけは何であるか知ることが出来た。これは大砲だ。旋回し角度を付けて撃ちだす事で我々よりも長距離の射撃をすることが出来る大砲だ。大きさからして大砲とはけた違いの威力が出るが、この船を作れるほどの技術力を持っている国だ、それ以上の威力を出す可能性もあり想像がつかない。
少なくとも敵対はお勧めできない。
これほどの船が私の知らない所にあったのか、私の胸に湧き上がる感情は絶望、諦め、敗北感どれも違う。あるのは歓喜と感動だ。私の知らない技術を調べることが出来るという心からの歓喜。知りたい調べたい聞きたい。あの帆を張らないマストの役割、どうやってこの船は動いているのか、建造に使われている金属知りたい調べた聞きたい。
ああ、だからせめて調べ物が終わるまでこの国から出ないようにしなければ。この船は宝の山だ。今帰ってしまえばいつ戻るか分からない。
そんなことはさせない。この船は一日程度では調査は終わらない何せこれはあくまでこの船の外部で気が付いたことだ。内部にはさらに秘密があると確信できる。
女王陛下に進言しよう、軍務大臣に有用性を説き伏せよう。私の出来る限りの権力と交渉力を駆使してこの船を調べて見せる。涙を流しながら笑っている私に周りの兵士たちは引いているがどうでも良い。この船を調べる。新たな課題と研究の山を前に心躍らせながら港に着くのを待つ。




