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数日後信濃にて

 板を渡り船から信濃に乗り移る。木の板の不安定な足場から鋼鉄の足場に移った時の安心感はいつでも俺を落ち着かせてくれる。いつもなら砲身に洗濯物を干すための縄が渡されている砲塔も今は威圧感を出すために何も置かれていない。今は厳戒体制を敷いているため誰も甲板にいない。とはいえ信濃にはそこかしこに外の様子を見るためのカメラがあるしこちらからは見えないが艦橋から様子を見ることが出来る。


 後ろを見れば俺がわたってきた板からスーシアとその他兵士が歩いてきている。一度視線を戻し、伸びをしてからもう一度振り返る。光景は変わらない。


 再び視線を戻して心の中で頭を抱える。


 やっちまった。


 なぜこうなった。いや、理由はわかっている。数日前食事会での出来事を思い出す。国の王族や貴族が参加した食事会。会社の懇親会や飲み会とは比べ物にならない程の豪華さに俺は完全にしり込みしてしまった。さらに悪いことに頼みの綱であった梵天丸さんとスーシアがイケメン貴族に囲い込まれて俺から完全に引き離された。多分向こうの作戦だったのだと思う。しかし贔屓を抜いても二人は美人の部類に入る。いや、まぁ俺も梵天丸さんもキャラメイクでふざけないタイプだから梵天丸さんの容姿にも頷けるし、スーシアは最初に作ったNPCだから当然力を入れた。そしてそんな二人から引き離された俺は空気、雰囲気に完全に飲まれた俺は聞かれた内容に関係なく耳障りの良い言葉を紡ぐ機械と化した。


 結果、沖に停泊させていた信濃を港に停泊させる話がまとまり、その際に信濃に人を乗せることで決定していた。ついでに海賊から奪った物資をリギースに返す。しかし、物資を返すのはともかく異世界の人達を信濃に乗せるのは相応の危険があるわけで食事会が終わった後の報告会の最中で梵天丸さんからひとしきり説教された。今回は完全に俺が悪いので黙って聞く。そしてその後に梵天丸さんが単身で交渉に乗り出して乗るのは信濃の甲板のみで艦内には入らない。人数の制限など色々と条件を付けくわえてくれた。本当に梵天丸さんには頭が上がらない。どうやって交渉したのか参考までに聞きたいところである。それから俺の行動にはスーシアが付いてくるようになった。俺が何かやらかす前に止めるためだろう。このことが心なしかスーシアが嬉しそうにしていたが気のせいであって欲しい。

 

 そうして当日彼らの船に揺られながら俺達は信濃に戻った。実に数日ぶりに信濃に戻った。ああ、まだ転移してから2週間ぐらいしかたってないのに実家のような安心感を感じる。この体が飲食できたなら現実逃避で酒を浴びるほど飲みたかった。


「……それほど信濃から離れていないのに何だかとても安心しますね」


「そうですね梵天丸さん、私は今まで艦長と何回も長い間船を離れたことはありますが、ここまで懐かしい」


 俺の後に続いて板を渡ってきたスーシアと梵天丸さんも同じような感想を抱いている。


『なるほど!港からではあまり良く見えませんでしたが、なるほどなるほどおもしろいですね!!』


 そして、感慨にふけっている俺達に水を差す声、船に乗る際に紹介されたが名前がオルト・テイメント博士、船舶の開発及び設計を行っている人だそうだ。ぼさぼさの髪に慌てて引っ張り出したっぽい少し汚れた礼服、いかにも好きな事のためなら何日も徹夜しそうな人だ。目の下に隈があるのにキラキラした目で信濃を眺めている。


 こういうのは兵器担当者が来そうだと思うが何か理由があるのだろうか?その他、護衛と監視の兵士が多数付いて来ている。本当は他に数人有識者を連れて行く予定だったが梵天丸さんの交渉の末オルト博士一人になったようだ。

ただ、動き回っているオルト博士に振り回されているのであっちこっち動き回っている。

なるべく動き回らないように注意したが、今はそれすらも無視して甲板を歩き回っている。流石に装甲を削り出したりするような奇行に走るようなことはないが、それでも見ていると変なことしないかとドキドキする。


「監視しますか?」


「そうだね、スーシアお願いできますか?」


「お任せください」


 甲板内をウロチョロしているオルト博士にスーシアが近寄っていくのを確認した後にとりあえず状況の説明を話すために艦内に出入りできる自動扉がある方を向く。

すると目の前に無機質な顔があった。


「うぉう?!」


 思わず後ろに跳びあがりながら身構える。が、よく見ればドライさんの所のNPCのイユさんだった。


「ホワイ?何故怖がるんですか?艦長」


 そこにはマユを下げて悲しそうな表情を作ったイユさんが問いかける。そんな悲しい顔をしないで欲しい。ドライさんに怒られるのは俺なんだから


 でも待って欲しい、イユさんの素体は人形である。球体間接に、オッドアイの目のパーツ、顔は完全に市松人形やフランス人形のような材質によく似ている無機質な顔だ、そんな無機質な顔が突然目の前に現れたら誰だって驚くのではないか?なので俺は悪くない。

今ここで言っても仕方ない言い訳を心の中で述べる。


「イ、イユさん、誰だって背後に物音立てずに人がいれば飛び上がるほど怖い物ですよ?」


「ソーザッツイット、気を付けます。それで、お早いお戻りですがいかがなさいました?皆さん疑問に思って私をここに」


 他の皆さんの代わりにイユさんが話しを聞きに来たと言うことか。何故この人選なのかは謎だが、イユさんなら話の内容を間違えないだろうから安心だ。


 俺は向こうであったことを簡潔に話し、信濃を港に付けるように指示をした。


「シェア、では航海長に説明し、抜錨準備をします。艦長は艦橋に行きますか?」


「いえ、このまま甲板にいます」


「船務長もですか?」


「はい、ここで待機するみたいです」


「オーケーです」


 梵天丸さん達を一人にしてはいけないし、何より信濃が動くことを他の船に知らせる為に兵士に声をかけなければならない。


 イユさんが敬礼をした後に艦内に入って行ったのを確認して博士がどこにいるか探す。艦橋の向こう側や主砲の陰に隠れていたら見つからなかったところだが、船首にある収納クレーンのすぐそば物資搬入用のハッチの辺りで四つん這いになっている姿が辛うじて見えた。なにやってんだあの人。


 クレーンは菊門が設置されている艦首のすぐ後ろに設置されている大きさは10m前後、ゲーム内での役割はコバンザメが収納することが出来ない物品を直接信濃に入れる為の作業用クレーンだ。

また船内に収納されている大型の物資を取り出すためにも使用する。

多分港に着いた後に海賊の物資を取り出すために使うと思う。今は大丈夫だが万が一のこともある。


 取り合えず船が動くことを博士に伝えないといけないので面倒ながらも博士の所に向かって歩き出す。


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