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緊張と思惑

時間が足りない

体があと3体欲しい

 余りの辛さに癒される地帯を見つけて現実逃避していたが、そんな時間は無かった具体的にはそろそろ止まらないといけない。このまま歩けば階段を上って女王の目の前についてしまう。とは言っても俺に中世ヨーロッパの礼儀作法なんてわかりはしない。だからどのあたりで止まって何をすればいいのかわからない。


「春雷さん止まって膝をつけて下さい。その後に自己紹介を」


 そこで小声で言った梵天丸さんから指示通りに膝をつけて頭を下げて自己紹介をする。


『初めましてエリザベス女王陛下、自分は信濃の艦長をしています春雷と申すものです。本日はこうして女王陛下とお話が出来ることを心よりお礼申し上げます』


 頭が真っ白になりそうなのを必死に動かして言葉を紡ぐ。


『信濃の副艦長、梵天丸、そして』

『同じく副艦長のスーシアです』


 俺に続いて二人も挨拶をするが俺より言葉が少ない。というか、これでいいのか?大丈夫なのか?怖い。


『私がこのリギース王国の女王、エリザベス・オブ・ビルウッド3世である。そなたらの話は聞いている。余の国の国民を海賊の手から救い出してくれたと、感謝する』


いや、実際にはまだゲームだと思っていたから、やられたらやり返すからの成り行きでこうなっただけで感謝されるいわれは全くないのだが、そんなことを説明しても意味が無いので感謝を受け取ろうと思い顔を上げ返事をしようとすると


「顔を上げないでください。顔を上げていいのは彼女が言うまでです。それまで顔を伏せて会話してください」


 梵天丸さんに注意をされて止まる。


『感謝など、助けることが出来る人がいれば助ける。わが国では当然の事です』


 こうは言うが実際に困っている人に自分から手を差し出す人はどのくらいいるのだろうか。少なくとも俺は元の世界だとあまり助けたりしなかった。


『そうか、しかし仮にも恩人に何もせずに帰すのは礼に欠ける。礼と言っては何だが今晩ささやかながら歓迎の意を込めた食事会を開催する予定だ。詳しい話はそこでというのはどうだろうか?』


 まじで?!食べ物食べられるの?!と俺は喜ばない。そんなので喜ぶのは妹くらいだ。言わば上司との接待ゴルフで知り合った他の会社の重役と飲みに行くのと同じだ。つまり飲食よりも媚を売り会話を続けなければならない苦行である。俺飲み食いできないし


 しかも相手は女王と貴族、酔わせて適当に相槌を打って戻れるほど楽ではないのは想像に難くない。そんなちょろい国家ならこんなに立派な謁見の間なんて作れない。

とはいえ折角情報を手に入れられそうなチャンスだ。ここを逃す手はない。


『謹んでお受けいたします』

『では、場所は追って知らせる。何、客人はこういう場にはあまり慣れていないように見えるからな。いつまでもここにいるのもつらかろう。』


 バ、バレている。







「すみませんバレてしまいました」


 詳しい話は食事の時にと言われてそれまで先ほどの部屋で待機するように言われて一旦謁見はここで終わった。あの謁見はあくまで顔見せというわけだが、早くも心が俺欠けている。


「まぁ、仕方ないですよ。むしろ予行練習なしであれだけできたのですごいと思います」

「はい、艦長が物おじせずに挨拶している様子はとても格好良かったです」

「ありがとうスーシア」


 内心物凄くビビっていたが秘密にしておこう。というか今回は割と行き当たりばったりな所が多い。今思えばリギースの沖で停泊中にもう少し作戦を考えても良かったと思う。


「とはいえ、この後の食事会が次の関門ですね。まだ私達が自由に話せる分楽ですが、それ返せば相手も同じく自由に話しかけてくると言うこと先ほどのように私がアドバイスを出すことも難しくなります」

「それはやばくないですか?」


 さっきの謁見中は9割梵天丸さんの事前のアドバイスと本番中に出した指示のお陰で乗り切れたと言っても過言ではない。そのアドバイスがもらえないとなると結構辛い。俺がただの案山子になってしまう。


「なので、今の内に話しておきたいこと気を付けて欲しい注意事項を全力で解説します。時間が無いので超特急で教えます。良く聞いていてください」


 そう言って梵天丸さんが軽く咳払いをした後にソファーに座り指を組んだ。

それから向こうからの案内が来るまで梵天丸さんのマナー講座が続いた。






『で、彼らをどう感じる?』


 謁見が終わり、彼らが退出してから少し間を開けて話を聞く。元々この謁見は軽い顔合わせ本格的な話をする食事会の下準備、相手と話し誰と話すかを打ち合わせる目的がある。

この話し合いをせねば一人に集中してしまうかもしれぬから注意せねばなるまい


『まるで艦長と名乗る男は素人ですな。仕草も言い方も慌てて覚えたように感じました』


 あの船の船長、春雷と名乗ったあの男顔が布で覆われていてどのような顔であったかは分からないが確かに何処か素人臭く感じる。あくまで操船技術だけを買われたのだろうか?

だが、仮にもあの三人のトップであるのならアレが演技の可能性が考えられる。それにあのような見たこともないような大きさを誇っている船を造るような国家だ。あの船を任されるような男があのような素人臭い男であるとは考えにくい。素顔が見れないというのも怪しい。


『それに対して梵天丸と名乗った女性はいくらか慣れているように感じました。』


 確かに彼女が彼に助言をしている場面が何度かあった。立場上は男の方が上だが本当は女の方が力が強いのか?

現状どちらが優先すべきかを予想することは出来ないが艦長である春雷殿を優先した方がいいだろう。


『うむ、だがやはり艦長殿は余が相手をしよう。その間、梵天丸殿の相手は―――』

『ハッ!どこの国の奴だろうと石ナシの時点で大した国じゃないでしょうな』


 その言葉で話し合いが一旦止まる。石ナシ――背中に晶石を生やさぬ者への蔑称、この背中に硝石こそ私達の誇りであり象徴、そして個人の力の証明となる。対してこの晶石を持たずに生まれた者、生まれたとしても小さい者は役立たずの石ナシとして蔑まれる。だが、それもこの国が生まれた頃の話、最近では国民に生えている晶石全体の大きさが小さくなってきている。王族は聖水の力で水晶の大きさを建国の時と変わらぬ大きさを維持しているが、今や国民は大きくても握り拳一つ分にも満たないほどの大きさに縮んでいる。だが、それを許さない派閥がある。先祖の遺骸に残されている水晶を崇め水晶こそ全てであり、それを持たぬものや小さい物を差別すると言った風潮がまだ貴族の一部に残っている。今は少数派になってはいることからもう既に時代遅れの考えではあるが未だに根付いて離れない。この男、ジェームズ軍務大臣もその考えに賛成している一人だ。

自身の家も年々小さくなっているがまだ他の貴族と比べると正面から見えるほどには大きな水晶を保有している。そして軍務大臣という地位に付けたことに勢いづき周辺の国家に侵略するべきであると高らかに宣言している。


 さらにこの度の海賊の襲撃にも憤慨し討伐の準備を整えていたところに彼らが討伐したと聞いて快く思っていない。彼としては石ナシの国をとっとと侵略してしまいたいと思っている。


『ジェームズ軍務大臣、彼らが石ナシであろうと対応は変わらぬ。それにまだ相手の話も聞かぬのに侮ることこそ最大の慢心ともいえよう』


 あちらは友好が目的だと言っていたが実際の所口ではどうとでも言える。本当の目的はあるのか、本当に友好目的なのかを確かめる為にも話をせねばならぬ。それまでは相手が何であろうが侮らずに話をする。我が国は危機に瀕している。一歩間違えばそれこそ国が滅びかねない。


『女王陛下、われらの祖先はその力を持ってこの国を作り上げました。例え二枚舌で誤魔化した卑怯者だろうが何だろうが、それを寄せ付けぬ圧倒的力で、です。今こそ我らの力をもう一度振るいウリアのように支配を広げるべきです』


 ウリアはリギースより南方に進んだところにある。肌の色が黒い人のいる地域である。遭難した調査隊により偶然発見し新天地として先代、つまり父上が支配し現在も治めている地域である。ただしやっていることは一般の奴隷よりも酷い重労働、余も話は聞いているが実際に見ることは出来ていない。余が長期間国を離れるわけにもいかないからだ。あそこはリギースから離れているのをいいことにやりたい放題している。


 何とかしてやりたいのだが、証拠も満足に集められていない現状とウリアからの輸入品に頼っている物資があるのも事実である。今の余ではどうすることも出来ない。だが、今まさに同じような事をもう一度行おうと企んでいるこの男の提案に賛成するわけにはいかない。


『却下だジェームズ軍務大臣、余としての判断は変わらぬ。彼らはあくまで客人として平等に扱う』

『……そうですか、かしこまりました。ですがあの船について少し艦長とお話ししたく思います。なにとぞ会話の機会を』

『……』


 なぜとは言わない。大臣はあの船を知りたいのだ。全身金属の船、一体どのような方法で建造したのか、実際どれ程の物なのか。

そしてその件に関しては余も同じだ。あの船の秘密を探りたい。あの船がドリツに対抗することが出来るのかそれを知りたい。

『うむ』


 軍務大臣は一礼をすると背を向けて謁見の間から出て行った。

アレは代々続いている家柄でありその分奴と癒着して甘い汁をすすっている貴族も多い。下手に処罰すればヤツの手下から手痛い反撃を食らう。ヤツもそれが分かっていてあのような態度をとっている。余とて万能ではない。むしろ落ちていると言っても過言ではない。ドリツの海賊による略奪行為や近頃の不作も相まって我が国が疲弊している。もし余が独裁者として強引に改革を進めれば皺が寄るのは市民だ。ただでさえ父上の頃に比べて苦しい生活を続けているのにこれ以上搾取されれば市民からの不満が爆発して革命が起きかねない。余に権威が移った当時は実際のところ革命直前だった。


 あそこから何とかここまで立て直したが、今度はドリツがちょっかいをかけてきた。私掠船免状を用いた海賊の妨害でウリアからの輸入品が高騰を始めている。このままいけば現地で私腹を肥やしている貴族共の大事な収入源が減り私の影響力が大きくなるが、ウリアからの綿や絹が大事なのも事実、どうにかせねば。

 彼らがそのきっかけを作ってくれることを願おう。


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