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見知らぬ地、文化、苦労

ブックマークありがとうございます。

「ついたね」「着きましたね」


タラップを下って地に足を付ける。久しぶりの陸に上がって少しホッとするのも束の間、顔が青ざめているミアさんが梵天丸さんに背中をさすられながら降りてきた。


「どうしました?」

「船酔いです。信濃に比べてこちらの船は揺れが激しかったようで」


 口元を抑えてうずくまっているミアさんの代わりに彼女の背中をさすっている梵天丸さんが答えてくれた。確かにさっき乗った船はあの船信濃に比べると小さいから結構揺れた。


 俺達はあの後ロバートさんに質問攻めにされて、梵天丸さんとミアさんの方に気を配れなかったので気づけなかった。質問もどうやって海賊を撃退したのか、どのような国であるのかと色々質問された。なるべく誤魔化しながら、時にスーシアに助けられながら梵天丸さんと打ち合わせした通りの答え話したが、ちゃんと誤魔化せていたが不安しかない。


 そのことで気が付かなかったがそうか、ゲームとは違って乗り物酔いとかあるのか…完全に忘れていた。でも、俺はあんまり気持ち悪くなっていないな。転移前の俺だったら車程度だったら何ともなかったがあの船の揺れだったら酔っていと思う。この辺りは俺がこの姿になったからだろうか。骸骨なら酔いもしないし万が一気分が悪くなっても出すものが無いから大丈夫だな。


 とにかく、気分が悪い時に無理に歩かせるのはいけないから少し座らせた方がいい。


『そうですか、流石に今すぐは動けないですよね。少し座りましょう』

『私は大丈夫です。少し楽になりましたので』


 フラフラとだが立ち上がってミアさんが歩き出す。


『そうですか…スーシアや梵天丸さんは大丈夫ですか?』

「私は大丈夫です」「私も大丈夫です」

「わかりました。では行きましょう」


ロバートさん達の方を見ると三つに分かれてその内の一方が俺達についてくるようだ。一方は先に屋敷に戻り、ロバートさんやテディさん達が俺達についていき、残ったグループは信濃の監視に別れて行った。





 町を歩く町娘と変な格好の三人、そして兵隊たちと言う何とも奇妙な組み合わせが町を歩いている。周りの町並みは本当に中世ヨーロッパっぽい石レンガ造りの建築が見える。行き交う人たちは全員後ろにいる兵士よりは小さいが背中からクリスタルが生えている。大体ミアさんの背中にあるクリスタルと同じ位の大きさだ。服装はまるで背中のクリスタルを見せつけるかのように背中が開いている服を着ている人が多いが、今俺達が着ている服に比べるといくらか劣っているように見える。


 町並みも遠くからではよくわからなかったが建物が崩れたり道に亀裂が走っていたりと無傷な場所がほとんどないように見える。まるで何かの災害に遭ったかのようだ。人も良く見れば綺麗な服ではなく薄汚れた、そして汚れてもよさそうな服をしている人たちばかりだ。


 そんな中、特に俺達の恰好は目立つようで、すれ違う人たちは俺達を変な物を見るような目で見ている。そりゃこんな布にぐるぐる巻きにされていて肌の見えない背の高い人がいたら元の世界でも目立つに決まっている。しかも俺は艦長服を身に着けている。目立たないようにする方が難しい。


 そんな集団が町中を歩くこと数分、目的地に近づいているのかミアさんの足取りが軽くなっているのが分かる。だがその足は急に止まる。どうしたのだろうと思いミアさんの顔を見ると、ミアさんは少し驚いたような、感極まったような声を出して口を抑える。その目には涙が溜まっているのが見える。何を見たんだと思い。今度は正面を見るとそれなりに年を食ったおばちゃんが歩いていた。買い物帰りなのかその腕にかかっている袋には魚や野菜など食材が入っていた。

それよりも目を引くのが顔だ。まるで生気の無い様な、死んでるような感じで足取りもフラフラとおぼつかない。


『……おばあちゃん!』


 そんな女性を見たミアさんはそう言って女性に駆けていく。女性は一瞬反応が遅れたが何かに気が付いたように顔を上げてミアさんを見たあと、驚いたように目を見開いて何か言おうと口を開いた。だがそれよりも先にミアさんが女性に抱き着く。


『おばあちゃん!』

『ミア…本当にミアなのかい?』


 おばあちゃんと呼ばれた女性は買い物袋を落したことにも気が付かずにゆっくりと両腕を広げてミアさんを抱きしめた。多分ミアさんの祖母なんだろう、目元とか何となくミアさんに似ている気がする。


『おばあちゃん……!』


 お互い抱きしめあい、久しぶりの再会に涙している二人を俺達も泣きそうになる。攫われてもう会えないと思ったのにまた再開することになるとは思ってもみなかったんだろう。

しばらく抱きしめあっている二人を俺達は見守っていた。




『お恥ずかしいところをお見せしました』


 そう言って俺達に謝ってくるが、俺達は特に気にしていない。ただ流石に往来の場の中心で再開を喜んでいると何だなんだと野次馬が増えてきたので、ハッと我にかえって俺達に紹介してくれた。おばあちゃんもスーシアが回収していた買い物袋を受け取って謝っている。


『あんた達がミアを助けてくれたんだって?ありがとうね』


 一通りの自己紹介が終わった後にミアさんのおばあちゃんに涙ながらに感謝される。そしてそのままの流れでミアさんの家に入ることになった。テディさん達の様子はと振り返るが特に何も言うつもりはなくどこか安心したような顔をしている。


 ミアさんの家は二階だけの木造建築で何処かジ〇リ感を感じる家になっている。テディさん達も入れるほど家は広くなく外で待っている。ミアさんは久しぶりに家に帰れたことが嬉しいのか終始ニコニコしている。おばあちゃんはお茶を人数分持ってきて俺達の前に置いてくれる。


『ごめんなさいねぇ、家にお客さんが来るなんて余りないから用意が出来てないのよ』

『いえいえ、お気になさらず』


 それどころか俺は少し安心している。あのロバートさんの上から目線の話し方はあの人個人の物で全員があの横行な態度ではないと分かって少し安心する。


 ……さて、このお茶どうしよう。俺が飲んでも下にこぼすだけなんだよな。あの後全く食欲がわかない中何回か検証したけど飲み物も食べ物も結局落下して服や座ってた椅子を汚してしまうだけの結果になった。その結果俺は飲食が出来ない体だと言うことが分かった。

なので俺は目の前に置かれているお茶を飲むことが出来ない。かといって一口も飲まずに帰るのも失礼な気がする。どうしたものか


『それにしてもミア、良く無事に帰って来てくれたね』

『私も、もうだめかと思ってたんだけど春雷さん達が助けてくれたんだよ』


 俺の悩みをよそにミアさんとおばあさんの話は進んでいく。ミアさんの口調は俺達といた時に比べて砕けたものに変わっている。その分ここでは気を許していると思うし表情も幾分か和らいでいる。やはり船の中は知らない所だったのもあって緊張してたみたいだ。俺も始めていく友人の家とかめっちゃびくびくしてたからその気持ちはよくわかる。


 そう言えばこの家にいるのは俺達以外だと誰もいない。確か少し前、初めて会話した後に何回か話をする機会があった時に御両親は息災だったとミアさんが話していたのを憶えている。しかし、今この家にはいない、一体何をしている人なのだろうと思い質問をする。


『あのすみません、ミアさんのご両親は今どこにいるのですか?』

『そうだおばあちゃん、お父さんとお母さんは?私が帰ってきたこと教えてあげないと』


 ミアさんも思い出したように手を叩いておばあさんに聞いてくる。が、おばあさんの反応は俺の予想とは少し違った反応だった。少し聞かれたくないようで一瞬暗い顔をしたがおsレを隠すようにすぐに明るい顔をした。


『……ああ!あの二人はミアを探すために少し遠くに行ってしまったからしばらくは帰ってこないよ』

『そうなんだ。いつ頃帰ってきそう?』

『……さあ、何処まで探しに行ったのか分からないから私もわからないねぇ』

『そっかあ』


 明らかに不自然だ。まずおばさんの様子が明らかにおかしい。ただ無事なだけならあんな暗い顔をしないだろうし、第一どうやって探しているというんだ。ミアさんが連れ去られた先は海だ、しかもあの船はそれなりに大きかった。その船を追いかけるなんて現実的ではないし、別の町に言って探すというのも現実的な手段ではないと思う。つまり、多分だけどミアさんのご両親は……


「…艦長」


 スーシアが二人に聞こえないように小声で話しかけてくる。スーシアも違和感に気が付いたんだろう。でもここで言っても誰も幸せにならないし、教えるとしても今じゃない。俺達が教えるのもおかしな話だ。


「わかっている。けどここで言わないでね」

「了解しました」


 その後、適度にお茶をしてお話をしてからお暇した。出て行くときにお礼をされてしかも籠に一杯の果物もくれた。


『長かったようだな』

『すみません、長く引き止められてしまいまして……』


 ミアさんへのお別れも済ませて外に出ると、不機嫌そうな顔でロバートさんが立っていた。イラついているのを隠しもしないでこちらに声をかける。それほど時間はかけていない、少なくともこの家に入る前に見たおばちゃんの井戸端会議はまだ続いている。が、だからと言って言い訳をしても仕方ないので謝っておく。そうするのが世の中で無駄な反感を買わない方法だと父さんは言っていた。


『……ふん!まぁいい、行くぞ』


 ロバートさんは不機嫌そうに鼻を鳴らしてさっさと歩き始めた。やっぱり下に見られている。よそ者は大体見下されるが、見ている限りミアさんにはそれなりに丁寧に接していた。何が俺達を見下しているのか分からないが予想は出来る。背中のクリスタルの有無ではないか?彼も俺達の事を石ナシと呼んでいたし、この町の人達の服装は背中のクリスタルを見せびらかすようなファッションのようにも見える。妹も胸やら腰やらを見せびらかすためにそう言う服装をしているのを見たことがある。


「先ほどから無礼な人ですね」

「私も元の世界の会社で同じような人を見たことがあります。ああいう方は大体仕事や責任を部下に押し付けて自分は遊んでいるんですよ。……あぁ、思い出しただけでイライラしてきた。蹴り飛ばしたい」

「そうだけど、今問題起こしても良い事ないから我慢して」


 ローバートさんにイライラしているスーシアと転移前の世界の出来事を思い出してイライラしてきている梵天丸さんを何とか抑えながらついていくと後ろからテディさんがささやいた。


『ロバート様の言動は申し訳ありません。あの人は選民思想が強い方でして、平民にはああいう態度をとってしまうんですよ。特に石ナシに対しては激しくて……』

『そうなんですね。ところで石ナシというのはどういった物なんでしょうか?自分の国ではあまり効かない単語でして』

『背中の水晶の有無ですね。私達や周辺の国々は背中にこのような水晶が出ているのですが、皆さんのように水晶が無い人の事を石ナシというんですよ。私達の国、特に貴族の間では背中の水晶が誇りであり、水晶の大きさが自身のステータスみたいなもので水晶が大きければ大きい人ほど色々有利になるんですよ』

『なるほど、そんな思想があったんですね。でもテディさんはあまり自分たちをそんな目で見ていないように感じますが?』

『それは、その、そんな考えをしているのは一部の貴族の方々だけで俺達みたいな一般兵士とか、町の人達は余りそんな考えは無くて、特に最近は生まれてくる子供に生えている背中のクリスタルが年々小さくなってきているので最近は特に減っていますね』


 なるほどあのロバートさんがあんな態度なのも俺達の背中に水晶が生えてないからなのか。水晶がこの世界の人達にとって当たり前の存在であることはミアさんから聞いてはいたがこれほど重要な物体だったのか。


『教えて下さってありがとうございます。』

『いえいえ、こちらのロバート殿はああいう上司なので悪く思ってしまうのは仕方ないと思います。ただロバートさんを見て俺たち全員がああでは無いことを知ってほしかっただけです。まぁ、貴族連中は女王陛下を除いて同じ様な考えしてるんですけどね。あと一応ロバート殿の反感を買う訳にはいかないので口調を変えていましたが、先ほどは失礼しました』


 部下にすら信用度が無いロバートさん、哀れだ。ただ、俺もスーシア達に嫌われるような事をしないように気を付けないと同じような事になるな。女王が国を治めているというのもミアさんから聞いた。たしかエリザベス女王って言っていたな。この辺りは元の世界と似通っている。


 今の会話でも結構重要というかこの国の文化の一部を知ることが出来た。とにかく背中のクリスタルはこの国ではある無しで差別の対象になっているみたいだ。ただそれもロバートさんみたいな貴族間での認識でテディさん達みたいな貴族以外の人達は差別意識が消えているみたいだ。そしてテディさん上司と仕事で板挟みを食らっている苦労人みたいだ。梵天丸さんが同情の視線、スーシアが憐憫の視線をそれぞれテディ君に送っている。


 頑張れテディさん!

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