我、未知ノ国ト接触ス
信濃の速度を微速にして正面のガラスに近づき、双眼鏡を手に隣にいるシャーロックさんに話しかける。
「見えたね」
「見えましたね」
隣にいるシャーロックさんは単眼鏡を覗きながら答える。
『確かにイギースです!帰ってこれたんだ…!』
陸地が微かに見えた時点で確認のためにドライさんに連れてきてもらったミアさんから、涙ながらに聞きたい言葉の通りなら場所は間違えたりはしてなさそうだ。
現在、誰がミアさんを送るかの押し付け合いが一週間続いている。スーシア達には向こうからの接触を待っていると言ってはいるが、誰も行きたがらないだけだ。
俺はずっと立候補しているが出かけるな骸骨と全員から却下されている。でも誰も行きたがらない。だから、一旦話し合いは中止して向こうから接触が無いまで保留にしようと問題を先送りにして過ごしてきた。
「いやぁ、久しぶりに丘を見たなぁ」
そして、海中ばかり見てると飽きるからと丁度艦橋に遊びに来ていたフソウさんもいたとき、フソウさんは艦橋の向こうにかすかに見える陸地を見ているので俺達が双眼鏡で見ている物には気が付いていない。
「不味いね」
「不味いですね」
双眼鏡に映る豪華そうなガレオン艦、前会った船とは装飾品からマストの色まで全然違う。まるで軍隊のようにひと際豪華な一隻を除いて他の船は統一されているがそれでも船の隅々から高級感が漂う。
なぜこうなったかと言うと簡単だ。何とか目的地らしき陸地が見えたので、接近しながら双眼鏡を覗いたらこうなっていた。それだけだ。確かに信濃はそれなりにデカいので少し高台からこちらを見張っていれば気づくだろう。
よく考えれば国の領地なら当然警備隊があってもおかしくはなかった。にしても数が多くないか?十隻前後はあるぞ?もしかしてテイリュバリーって国の首都だったりするのか?
「ようこそって感じではなさそうですね」
いつの間にかシャーロックさんの反対側に梵天丸さんが立っていた。言われなくても双眼鏡の倍率を上げれば見えにくいけど船の上で慌ただしく動く人影が沢山見える。お客さんだから粗相のないように準備しなくちゃと動いているわけでは無いだろう。
「何が不味いのよ?」
「そうですね。実際見た方がいいでしょう。スーシア、モニターに前方の様子を拡大して写してください」
「了解しました」
スーシアが梵天丸さんの席にあるキーボードを操作してシャーロックさんの舵輪の中心に映像が映し出される。
全員がこちらに向かってくる船をモニターで見ると最初に黒雪さんが叫んだ。
「逃げた方が良いわよ!私この姿で死にたくないもん!」
内股で胸の前に握りこぶしを作りながら訴えかける。そのポーズは不味い。破壊力が半端ない。腹筋が壊れそうになる。いや、俺、今は腹筋ないけど。
「いや、まだ敵対しているわけでは無いでしょう。ここは事情を話して穏便に話をすることは出来ないでしょうか?流石にいきなり撃ってくると言うことは無いでしょう。それに俺達の元々の目的はミアさんを渡すことなので逃げるのは駄目です」
「確かに、それに今は多少強引でも情報が欲しいところです。この世界の事が詳しく分かれば元の世界に戻る方法も見つかるかもしれませんよ?」
「では話をするということで良いですか?」
「僕は賛成だ。ここで逃げたら他の国でも同じ事をするだけになる。それにこっちにはこの国に寄る理由がある。今すぐ攻撃される恐れはなんじゃないかな」
漆捌さんの言う通りこの国にはミアさんを届ける目的も含まれている。自分の国の国民がいたとなればすぐに攻撃される心配はない。むしろ多少なりとも感謝されるかもしれない。ここで逃げればここに来た意味がない。
「私も賛成です。少なくとも元の世界に戻るためには、ここで逃げても意味がないです」
「…分かったわよ!でも攻撃されたらすぐに逃げるわよ!」
「それで大丈夫です」
流石に攻撃されれば俺も逃げる選択をする。この世界がゲームではないと知った後の会議の後に確かめようとして誰も確かめる勇気が無かった方法。ゲーム内で死ねばリスポーンする方法だ。もしこれで死んだままになれば元の世界に帰れるのか分からなくなる。確認できていない以上死ぬような行為は極力避けるようにした方が良いだろう。
「さて皆さんの意見がまとまったところで、次は話し合いに行くメンバーですけど、翻訳係として私が行くのは確定ですけど他は誰が…」
梵天丸さんがそこまで言った所で俺は手を挙げる。
「艦長です」
「…他に誰かいませんか?このままだと信濃が幽霊船扱いされそうなのですが…」
俺が手を挙げているのを見なかったことにして、他の人の方を見る。その目にはこの骸骨を連れて行きたくないと浮かんでいる。だって初めての異世界の町なんだよ?行ってみたいじゃん!
「私はあまりそう言うのは苦手でして…すみません」
「私も嫌よ!」
「俺もやだな。言葉が通じない所に行きたくない」
「えぇ…えぇ…」
他の人達は好奇心よりも怖さの方が勝ってしまったようで誰も手を挙げなかった。先ほどの様子から黒雪さんは行かないと予想していたが、まさか他の人達も不参加だとは思わなかった。しかしこれは好機だ。ここまま畳みかけてしまいましょう。
「お願いします梵天丸さん言うこと守りますから」
「えぇ…」
「私もお手伝いします!」
スーシアも手を挙げてついてくると言っている。
「…なるほど分かりました。では、まず骨が出ている部分を隠しましょう。幸い向こうが此方につくにはもう少しかかりそうなので、ついでに私の服装も自然なものに変えましょう。それとシャーロックさんは船を少し沈めてあのガレオン船の甲板の高さに合わせておいてください」
この世界に来てからアイテムの類も部屋にあるアイテムを置いていたクローゼットや机の引き出しに詰め込まれている。アイテムボックスに会った物は服のポケットに可能な限り入っていてそれ以外のアイテムは無くなっている。
俺が苦労して作ったり手に入れたりしたアイテムの数々が虚空のかなたに消えて行った。物凄く発狂したのは黒雪さんとドライさん、この二人は特にNPC達の衣類に並々ならぬ熱意をもって作っていたから、全部とは言わずとも半分消えたことで一時期半狂乱になっていた。
今の俺の恰好は軍のお偉いさんのような勲章が飾られている軍服に軍帽だ。手袋もはめて、軍服の前のしっかり閉めているので見えているのは顔ぐらいだ。顔を隠すのならお面とかかぶるのかな?
甲板に俺と梵天丸さん、スーシアにミアさん、そして付き添いのイユさん……アレはさん付けで呼んでいい物なのか?の計四人で立っている。梵天丸さんの恰好はあのスカートに海賊帽と言った恰好を止めて一般乗組員みたいな服を着て、イユさんとスーシアはいつもの服を着ている。というか、何でドライさんいないの?何でイユさん引っ張り出したの?彼女スキンがアンドロイドドールの格好だから膝肘が球体間接だし、なにより顔と髪が無機質の金属パーツで出来ているから四人で並ぶと違和感が半端ない。正直怪しまれそうで怖いがミアさん本人がイユさんといる方がリラックスしているから変えて欲しいと言えない。ミアさんは保護された時に着ていた貫頭衣しか服が無かったから、ドライさんの服から一着貸してもらっている。
「あの…梵天丸さん?」
「何でも言うこと聞くって言いましたよね?」
「いいましたよ?でもこの格好は…」
俺の着ている服はいつも通りの艦長服だが、骸骨の部分と言うか体中の骨の部分を布で覆われて隠されている。辛うじて目の部分は隠されていないので目隠し状態ではないけど見えにくい。あと物凄く怪しい、車掌さん並に怪しさが漂うと思うのだが?ミアさんも戸惑ったかをしてるし、悪い意味で目立ちそうだ。
「骸骨より数倍マシです。それとも会っていきなり化け物呼ばわりされたいですか?」
まぁそうだしよく考えればお面とかで隠そうとしても横とか後ろが丸見えだから、こうして顔全体を隠してしまった方が良いのはわかる。でも動きづらい。
「わかりましたよ」
「大丈夫です。その格好の艦長もハードボイルドさを感じます!多分」
胸の前で握りこぶしを作りながらスーシアが慰めてくれた。多分って慰められているのか微妙だけど多分慰めてくれたんだと思う。
「ありがとうスーシア」
「ふふ、仲がよろしくて大変よろしいです」
「梵天丸さんも何人かいるじゃないですか」
梵天丸さんもレーダーとソナーを担当しているがメンテナンス要員や梵天丸さんがログインしていない時の交代要員として数十名のNPCを部下として持っている。ただその全員の外見が幼女出なければ普通だったんだがな。ゲームでは外見はフレーバーだったので皆好き勝手に設定している。フソウさんの所は服装が和服だったし俺も好き勝手しているので文句は言えないが、偶にあの子たちが見えなくてぶつかるんだよな。それで謝ろうとして骸骨がいてビビって逃げ出すその繰り返し、俺の心はボロボロだ。
「私の子たちは船内各所にあるレーダーやソナーなどのチェックをしてもらっているので、あまり会ったりしないんですよ」
「でも皆さん、梵天丸さんに会いたがっていたので一度話してあげた方がいいと思います」
「そうなんですか?なら、考えておきます。お菓子とか食べながらとかの方がいいですかね?」
「はい!あと飲み物は紅茶ではなくジュースの方が良いかと」
外見だけじゃなくて中身も幼女なんだ。俺の姿を見るとみんな避けるから話す機会無かったけど、そうかだから皆避けてたんだ。ちょっとこの姿に設定したのを後悔した。こんなことならスキンをもっと早く変更しておくんだった。
『やっと帰れるんですね』
心の中で密かに後悔していると隣から声が聞こえてそちらを見るとミアさんが涙を流しながら笑顔を浮かべていた。
『最初、あの人たちに連れ去られた時はもうだめだと思っていました。抵抗していた人たちも殺されて、ただ牢屋で過ごしていました。ですが皆さんに助けてもらって、しかもリギースまで送ってくれました。もう会えないと思っていたお父さんとお母さんにまた会えるなんて…本当にありがとうございます。』
そう聞いて少し後ろめたくなる。聞いた話ならあの船には他にも捕まっていた人がいたと言うことだ。それを俺達は現実だと知らずに攻撃をして殺してしまった。実際の所、死んでいる所をこの目で見たわけでは無いのであまり実感が無いのだが、だからと言って無視できるほど非常な心は持ち合わせていない。少し心が痛む。
俺達が助けることをしなかった命の分まで彼女を送ると勝手に覚悟していたが、こうして涙するところを見ると申し訳なくなる。
『俺達は感謝されるほどの事をしていません。それにまだ安心できません』
『わかっています。でも、それでも、私はあなた達にお礼を言いたい。本当に、本当に、ありがとうございます』
此方に体を向けて頭を下げるミアさんを見て少し体がくすぐったくなる。
何度も否定するのも申し訳ないので俺が受け取ってその話は終わった。
さて、会話をしていて気が付かなかったが向こうの船が接舷できるほどに接近している。信濃は錨を降ろしてるので特に行動を起こすことは無いが何かあったらすぐに緊急発進できるようにスタンバイしている。さらに海面下では何かあった時のためにコバンザメが信濃から分離してスタンバっている。
これで何があっても多分大丈夫と思っていると、向こうの豪華そうな船の中から物凄く偉そうな服を着ている人が出てきた。
『私はイギース帝国第一海上警備隊、隊長ロバート=エヴァンズだ。そちらの船の所属と目的を伺いたい!』
偉そうな人は自信が乗っている船を信濃の横に垂直になるように接近した。船は艦首の部分に穴が開いておりそこから大砲ではなく乗組員が顔を覗かせている。
俺達はあらかじめ示し合わせた通り、梵天丸さんが前に出る。俺達の中で一番梵天丸さんが通訳せずに会話をすることが出来る。俺も勉強をしてはいるがいざ実践となるとミアさんの訛りが酷すぎて自信が持てないので梵天丸さんに任せることにした。
『私は戦艦信濃 副艦長の梵天丸だ。ここには海賊から救出した女性を送り届ける為に寄ったのだ。この女性の言っている事が真実であるならば、あなた達は先日海賊に襲われたのではないでしょうか?私達はあの町から攫われた女性を連れてきただけです』
そう言って梵天丸さんはミアさんの背中を押して一歩前に出す。因みに副艦長は嘘である。一応話し合いになったらそう名乗っていいですか?と梵天丸さんに聞かれたので、いいよと言っただけで実際はレーダー観測員だ。でも、梵天丸さんこの状況で物おじしていない。俺なんて、もし皮と筋肉があったら手汗だらだらで顔は緊張で真っ青になってると思う。
ミアさんも緊張でこわばっているし、この状況で物怖じしないとか梵天丸さんリアルでどんな生活送っていたんだろう。
そんな俺の考えなんて露知らず二人の会話は進んでいく。
偉そうな人は眉間にしわを寄せながらミアさんをじっと見つめたが次にこう言った。
『なるほど、分かった。貴様らの言い分を信じよう。だがしかし、貴様らの船はわが帝国の市民を一時ではあるが不安に陥れたのも事実。であるからして、貴様と艦長そして…そこの女性は我が船に乗って帝国に来てもらう』
何とか会話を翻訳しながら聞けているが、ここまで梵天丸さんの言った通りの展開になっている。所謂人質だ。この船そのものが国の不安要素だからこそ人質として連れていかれることになるかもしれないと梵天丸さんが言っていました。
『わかりました』
『分かっていると思うが下手な真似はするなよ?少しでもおかしな真似をすれば貴様らの船は撃沈する』
信濃の装甲は陸奥鉄とダマスカス鋼をふんだんに利用し、さらに硬化の魔術回路を全体に張り巡らされた超カチカチ戦艦だ。たかが大砲程度では傷一つ付かないのだが、特に従わない理由もないので大人しく従う。
『分かっています』
『ではそちらに板を渡す。順次乗ってくるように』
そう言って、こっちから向こうにわたるための板が此方に渡された。
「では、行きましょうか」
「はい、ではイユさん、シャーロックさん達の指示に従うようにお願いします」
イユさんはミアさんを見送るために来ただけであって、ついてくるのは俺とスーシアとミアさんと梵天丸さんの4人だ。残りの人達は留守番をしてもらった。
「オールオッケー、お任せください。ミア様とスーシア様もお気をつけて」
イユさんはグッとサムズアップしたのちにこちらに手を振りました。
「はい、イユさんも帰ったらまたお茶をしましょう」
そうスーシアも返事をして渡された板の上を梵天丸さんお後ろに続いて歩いていった。何かフラグっぽいな、今の。というかイユさんお茶飲めるの?そんな疑問が浮かぶが取り合えずミアさんに声をかける。
『では我々も行こうと思うのですが、ミアさん板の上を歩くのですが大丈夫ですか?』
そう聞きはするが答えを聞かなくても足が震えているのが見える。ミアさんは頷いてはいるがこの状況でそのままにするのも俺の気が済まないので手を差し出す。
『大丈夫そうですが、一応落ちても大丈夫なように手を握ってください』
そう言うと恐る恐ると言った具合にミアさんが手を伸ばして俺の手を握ってくれた。
『ありがとうございます』
よかった。暇な時に様子を見に行っていただけにそれなりに慣れてくれたようだ。それとも布で骸骨姿が見えないことで怖く感じないのかな?もし、そうなら今後この姿で活動した方が皆が怖がらないのならこの姿でいようかな?何か息苦しくないし、考えてみよう。
そう思いながら板の下を見ないようにして真っ直ぐ船の上を見ながらゆっくり歩く。大丈夫下を見ない見ない。落ちることを考えない。そうcoolになるんだ。ここで慌てるな。怖くてさっさと渡り切りたくて走りたくなるが、ミアさんが手をつないでいるんだ。…あれ?よく考えたら金髪美少女が怖がりながら俺の手を握るって、中々貴重な体験じゃないか?そんな状況ギャルゲ以外で見たことないぞ。しかも、何か誘う時に何かイケメンっぽい誘い方してたな。今になって恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたい気持ちになってきた。
今、手に肉があったら手汗が半端なかった。よかった。妹以外の女子と手をつなぐなんていつ以来だ。
そんな現実逃避をしながら板の上を歩いて反対側に渡り切った。
渡り切るとミアさんが梵天丸さんの所に行って、代わりにスーシアが傍に来た。まだ、俺が怖いのかな。まぁ触ってくれただけでも進歩していると思うことにしよう。と言うか、スーシアが何か不機嫌そうな顔をしている。何かやっちゃったか?
「スーシア、何かあった?」
「いえ、何でもありません。気になさらないでください」
「そうか」
もう少し詳しく聞こうかと思った時、妹のご機嫌を取るのに培われた俺の勘が今聞くのは駄目だと言っている。やるなら夜落ち着いた時がよさそうだと。俺はその勘に従って追及するのを止めて黙っていると偉そうな人が俺達に近づいて話しかけてきた。
『貴様ら名前は何という』
いきなりそう聞かれ内心ビビりながらも頑張って答える。
『私は信濃の艦長をしている春雷と申します。こちらは副艦長のスーシアです』
そう紹介するとスーシアはぺこりとお辞儀をしてくれた。何かより不機嫌になっている気がする。
『変な名前だな。私は先ほど言ったようにロバート=エヴァンズだ』
いきなり馬鹿にされた。そしてスーシアがさらに機嫌が悪くなっている。めっちゃ怖い。こう言っちゃなんだが一応客人と言うか自分の国の国民を助けたのにそんな態度は無いんじゃないかと思う。
『ここからずっと東に向かった所にある日本と言う国から来たので』
『日本…聞いたことの無い国だな。まぁ我らが知らないのなら、大したことない国だろうな。石ナシが艦長になっているような国だしな』
なーんかこの人たち俺達の事見下してるような気がするな?ミアさんの時には特にそんな感じではなかったのに何で見下されてるんだろう?それに石なしってなに?
『あの!』
背後から声がして振り返るとスーシアが不機嫌そうにロバートさんに近づいていく。ロバートさんは
『なんだ?ちびっこはパパと二人で仲良くしてな』
『ちびっこではありません、私はこれでも20を超えてます!』
え、まじで?確かスーシアを作った時は外見年齢は14歳くらいにしておいたはずなのに……。地味にショック
『で?その嬢ちゃんが何の用だよ?』
『先ほどから艦長に対してその態度はなんですか!艦長はこれでもすごい人なんですよ!』
『はん、石ナシの国での偉業なんて大したことねぇに決まってんだろ。そんな事より出発するから振り落とされないように注意しなちびっこ』
ガハハハと最後まで偉そうな態度をしたまま去って行く姿を尻目にスーシアに近づく
「大丈夫?」
「大丈夫です。それよりも艦長も艦長です、何故何も言い返さないんですか?」
「だって俺達は客人でここは向こうの陣地だよ?ここで変な事をやらかして皆を危険晒すくらいなら今の待遇を甘んじて受け入れるね」
まだこの世界が異世界だと分からなかった時にログアウトする手段の一つにリスポーンがあった。あの時はリスポン位置が更新されて無いのを理由に辞めたが、ここが異世界だと分かった今試そうとする声は上がっていない。皆死ぬことが怖いんだ。ゲームでは停泊した港町がリスポン位置として更新される。これは船をリスポン位置に指定すると自分の船から敵の船に乗り込む攻撃、移乗攻撃をする際に死んだ人が船でリスポンすることでゾンビ戦法がお互いに可能になり千日手になる可能性があるから船をリスポン位置になることは無くなった。
『ふん、では出発する。錨を上げろ!』
そう言ってロバートさんが指示を飛ばしながら奥に行ってしまった。その背中にはミアさんのよりも大きなクリスタルが生えていた。周りを見ると他の乗組員も背中からミアさんより大きなクリスタルが背中から生えている。あのクリスタルって何なんだろう?
『おい!』
後ろから声をかけられて振り返ると乗組員の一人が立っていた。先ほどの偉そうな人は違い装飾品やらが少ない、人で大体の人が同じような格好をしている。
『貴様らの世話を担当することになったテディ=ブレナンだ』
そう言ってダルそうな感じで挨拶してきた。やっぱり見下されている感じがする。でもロバートさんの時よりはあまり怖く感じないな。
『春雷です。よろしくお願いします』
そう言って顔を上げるとテディさんが俺の顔をじっと見ていた。
『…な、何か?』
『何故貴様は布を被っているんだ?』
遂に聞かれてしまった。でも大丈夫だ。一応聞かれることを想定して言い訳を考えて置いた。
『呪いです。ちょっと呪いで人前に肌を出すと死んでしまうので』
異世界=魔法のはずだ。今までファンタジー要素背中のクリスタルしかないけど、ファンタジー要素が他にもあっても不思議ではない!きっとあるはずだ!あってくれ!なかったら他に言い訳が無いんです。
『呪いだと?!……ちょっと待ってろ』
よし、理解された。ファンタジーは絶滅していなかった。この世界にファンタジーはあったんだ。乗り切った。これで何とかなりそうだ。心の中でガッツポーズをしながら信濃の方を見るとイユさんが手を振っていたのでこちらも振り返した。
ほ
んとは帽子を取って振りたいけど帽子取ったら布も取れてしまうのでやめておく。
そうこうしていると船が動き出してゆっくりと信濃から離れて行く。腕を振りながらそっと海面に視線を向けると微かに大きな影が見える。コバンザメは俺達を追いかけてもらうように頼んでいる。いざ何かあった時のための脱出手段にしている。使うことがなければいいが…
「艦長、艦長』
呼ばれる声に振り返るとスーシアが服の袖を掴んでいた。
「どうかした?」
「先ほどから艦長の扱いが酷いと思いまして」
「それはまぁそうは思うけど、今抵抗しても何も良いことないから我慢してほしい」
手を伸ばして妹をあやすように頭を撫でる。
「……了解しました」
スーシアは一旦離れた後に当然と言った風な顔で俺の後ろにスタンバった。これ、どちらかと言うと副艦長と言うよりも付き人みたいだと思ってしまった。
「いかがしましたか艦長?」
「いや、何でもない。向こうは大丈夫かと思ってな」
「大丈夫そうです。二人とも話せるようで大丈夫そうです」
そこまで話したところで一つ疑問が浮かびそこらへんにいたテディさんに聞く。
『あの聞きたいことがあるんですが』
『……なんだ?』
『自分たちはこの後何処に行くことになるのですか?』
『一旦は女王陛下の所に行くことになる。ただし、急すぎるから謁見できるまで数日ほど向こうで過ごしてもらうことになる。』
『そうですか、それならミアさんを家まで送ってあげたいのですが』
このままこの人たちに任せてしまうのが一番楽ではあるが、なるべく自分たちで最後まで面倒を見たい。そしてあわよくば異世界の町がどんなものなのか見てみたい。
『その程度なら問題ないが逃げたりするなよ』
『感謝します』
テディさんはロバートさんに話しを付けてくると俺達から離れて行った。




