スフィア王国の城へ
スフィア王国の王都、アルジェへと到着したラウル達はそのまま宿屋へと向かった。商業ギルドのギルドマスターと落ち合う予定になっている。
馬車は大きな湖にかかる橋をゆっくりと渡っていく。ここから先は、貴族や大臣などが住むエリアとなっている。宿もそこに建っていた。修学旅行の時に宿泊した宿も高級宿だったが、ここはランクがひとつ上のようだ。平民は泊まることを許されないような、とても敷居が高いイメージを醸し出していた。
「失礼ですが、家紋のない馬車の立ち入りはご遠慮いただいております。」
そして門前払いされてしまった。本当に失礼だと思う。
「すみません。こちらで落ち合う約束をしているのですが・・・。」
「平民の方が滞在できる宿ではありません。申し訳ありませんがお引き取りを・・・。」
すると、後方から勢いよく走ってくる者がやってきて、男の後頭部を思いっきり叩いた。大きな音と共に男は前のめりに倒れそうになる。
「いたっ・・・、何するんだっ! ・・・って、あれ、総支配人?」
「申し訳ございません、ラウル様ですね? ビシネル様から伺っておりましたが、この男に伝える前に到着されてしまったようで。」
「あ、いえ。大丈夫ですよ。宿泊できるのであれば問題ありません。」
話を聞いていた男は顔が青ざめている。
「も、申し訳ございませんでした。」
そして、深く頭を下げて謝罪をした。隣で総支配人と呼ばれた男も頭を下げている。
「いえいえ、それだけここが安全だということでしょう。」
これだけしっかりとした警備員がいれば、安心して宿泊できるだろう。普段は貴族しか滞在を許さない高級宿なのだろうとラウルは考えた。宿に入っていくと、フロントにビシネルさんが待っていた。
「ラウル様、お疲れでしょう? この宿でも一番良い部屋を押さえております。ゆっくりとお休みください。」
「ありがとうございます。普通の部屋で良かったのですけどね・・・。」
なんと、ビシネルさんはラウル達のために三部屋も用意してくれていた。ラウルとシルフィが泊まる部屋と、ラウルの両親の部屋、そして、セバス、メアリー、エリック、ニーナの泊まる大部屋。そのような部屋割りなのだが、ラウルとシルフィは流石に同じ部屋で眠るわけにはいかない。シルフィはメアリー、ニーナと同じ部屋にしてもらった。ラウルはセバス、エリックと同室になる。
夕食はビシネルさんとご一緒して、明日の予定について話した。昼過ぎに城へと登城する予定となっている。段取りについてはすべてビシネルさんに任せることにした。
翌日、商業ギルドの馬車に乗って城へと向かった。やはり、家紋のない馬車は色々と調べられ、調査に時間もかかり都合が悪いらしい。多くの国で通用する商業ギルドの馬車で行く方が、問題が少なくてすむらしい。
同乗しているのは、ラウル、ラウルの両親、シルフィである。セバスも護衛として付いてきたがったが、城に入るには難しいかもしれないと許可が下りなかった。シルフィは婚約者として付き添ってくれている。
持参してきたパンは、馬車の中ですでに籠に入れてある。役人の目前でインベントリ内から取り出すと、色々と目を付けられそうだからである。
城に到着すると、警備の者とビシネルさんが馬車の外でやり取りしている。そして、案内された部屋は城の中の会議室のようなところであった。椅子に座って待機していると、数人の役人と思われる男達が部屋へと入ってきた。その中の一人がこちらを軽く見て口を開く。
「お前達が柔らかいパンを開発したという平民か?」
その男はいかにも権力者と思われる風貌である。大きく張りだした腹、顎髭が綺麗に切りそろえられている。頭髪は側面にしか残っておらず、頭頂部はつるつると光っている。
「はい、こちらが柔らかいパンを開発したラウル様です。」
ビシネルさんはその役人にラウルを紹介した。ラウルはテーブル上にパンの入った皿を載せた。籠の中に入っていたものである。そのパンは、まだ焼きたてのように熱を持っていて美味しそうな匂いを漂わせる。
「そうか。今回の功績は非常に素晴らしいものである。その技術を国へと献上し、多くの民に広く普及させるために協力してもらおう。そうだな、お前にも国が経営する食事処で働かせてやろう。」
男は笑顔のままそのように言った。つまり、柔らかいパンの作り方を、国に無償で差し出すよう命令されたことになる。あわててビシネルさんが間に入ってくれる。
「恐れながら申し上げます。少年の希望は、柔らかいパンのアイデア料を徴収することです。そして、不正にこのパンを作って販売する者へ罰を与えるために契約魔法を希望しております。国へレシピを献上するつもりはありません。」
それを聞いた男の顔から笑顔が消えていく。口をへの字に変えて少年をギロリと睨みつけてきた。
「平民ごときが、魔法省の大臣に口答えする気か! 黙ってレシピを寄越せば良いのだ!」
(なんだこのオッサン、魔法省の大臣だったのか・・・。腐ってんな・・・。)
ラウルがあまりにも酷い大臣に呆けていると、隣からひしひしと禍々しいオーラが漂ってきた。なんだと思い隣を見てみると、父様が笑顔を顔に貼り付けたまま、額に青筋を立ててピクピクしていた・・・。
(おいおい父様、頼むから大人しくしていてくれよ・・・。てか、大臣は父様の顔を覚えていないようだ。隣国の元王子の顔までは覚えないのかね。)




