旦那様へパンを献上
翌日、ニルバーシュ伯爵へパンを献上することにした。先触れとしてセバスに行ってもらった。その際にラウルの両親が人間ではない事も念のため説明をお願いしておく。両親も連れて行くことにしたからである。
「ラウル様、昼食をご一緒しましょうと返答をいただきました。」
「今日ですか?」
「はい。」
旦那様の予定は空いていたようである。
お昼前に旦那様の屋敷に到着した。今回はラウルとシルフィ、ラウルの両親、セバスが御者として付いてきてくれた。馬車が玄関に到着すると、メイド達が迎えてくれる。
「ラウル様、お部屋へとご案内致します。」
「あ、こちらをお昼の食事の中に追加してください。」
ラウルは焼きたてのパンをメイドに渡した。
「畏まりました。」
ラウル達は、大きなテーブルのある部屋に案内された。そのテーブルは、大きな巨木の一枚板で作られているようで、かなりの高級品だと分かる。
席にラウルと両親が座る。対面に旦那様と奥様、シルフィが座った。セバスも席に座ることを許されていた。
「ラウル、それとご両親もよく来てくれました。」
「旦那様、突然の面会を希望したにもかかわらず、すぐに対応していただきありがとうございます。」
「ラウルの父です。息子がお世話になったようで、ありがとうございます。」
「ラウルの母です。」
「初めまして。ニルバーシュ伯爵領を任されています、カルロスと申します。ご両親は、隣国バルサニールの王族と聞きましたが?」
「はい、元第一王子ウェイン=アブ=バルサニールと申します。しかし、一度死んだ身ですので、今はただの平民と思っていただければ。」
「お恥ずかしいです。でも、こうして息子と再会できて、本当に幸せですの。」
「よかったですね。きっと神様のお導きでしょう。」
「はい。」
和やかに会食が続く。一度死んだと告げられても、旦那様は特に驚いたようすもなく平常心で接しているように見える。やはり、隣に居てもひしひしと感じる、両親のただならぬ気配を旦那様も感じ取っているのかもしれない。
(そりゃ、不死の王と、上級精霊が隣に居るんだ。オーラくらい出るわなぁ・・・。それも、禍々しいオーラと、神聖なオーラが・・・。)
しばらくすると、ラウルが持参したパンが食卓に運ばれてきた。少し温め直してもらっている。
「旦那様、これが今回私が開発しました、柔らかいパンです。毒味として私が始めに食べさせていただきます。」
ラウルがそういって、パンをひとつ手に取り口に運ぶ。それを見て旦那様もパンを手に取った。
「おお・・・、実にやわらかい。これは本当にパンなのか?」
「はい。製法は秘密ですが、これから我が家で販売を始めようと思っています。」
旦那様がひとくち口にすると、非常に驚いている。続けてシルフィも早速食べ始めた。さっきから我慢していたようで、かなり素早い手付きであった。イブ様もパンを手に取った。
「おいし~。」
シルフィは実に満足そうに笑顔になる。
(かわいい。。)
「今日は、パンに付けるバターとハチミツなども用意してきましたのでどうぞ。」
ラウルはバターを少し塗ってまた口に運ぶ。
口の中でバターの控えめな甘みが広がっていく。
皆、夢中でパンを食べ始めた。誰もひと言も話す者はいない。ただ黙々と食べていた。気がつくと、ラウルが持参してきたパンは、すべて無くなってしまっていた。
「あら、もうなくなってしまったわ。。残念。」
「本当、美味しかった・・・。」
奥様も、シルフィも満足した顔をしている。
「この柔らかさは革新的だ。これが販売されるときっと客が殺到するだろう。」
旦那様も満足そうに言った。
食後にお茶をいただいて、まったりと過ごす。互いの両親が仲良くなれれば良いと思っていたが、予想以上に和やかな雰囲気に包まれている。そして、2杯ほどおかわりをした頃、その幸せな時間は終わりを迎えることになった。
「今日は、突然の面会でしたが、すぐに対応いただきありがとうございました。」
「うむ、またいつでも顔を見せに来るんだぞ。」
「はい。」
軽く頭を下げると屋敷を後にした。
◆
帰り道、少し寄り道をして商業ギルドで馬車を止める。ギルドマスターにもパンを食べてもらおうと考えたからだ。商売を始めることも伝えた方が良いだろう。
「ラウル様、本日のご用件は?」
受付の女性が聞いてくる。
「ギルドマスターに会いたいのですが。」
「畏まりました、少々お待ちください。」
少し待っていると、いつものように奥の部屋に案内される。
椅子に座ってしばし待っていると、ギルドマスターのビシネルさんがやってきた。
「ラウル様、お待たせ致しました。」
部屋に入ってきたビシネルさんは、しばらく両親を見ていると、驚愕の表情にみるみる変わっていく。
(おや、ビシネルさんは両親の顔を知っていたか?)
「し、失礼ですが、ウェイン殿下ではないですか・・・?」
「おや、私の顔を知っていましたか。」
「な、ななな、なぜ生きて!?」
「落ち着いてください、ビシネルさん。」
ラウルは落ち着いて両親のことを説明した。取り乱して衛兵でも呼ばれたら大騒ぎになってしまう。何度も危害を加えることはないことを説明してようやく納得してくれたようだ。。
ビシネルさんは、商業ギルドのギルドマスターだけあって、顔も広いし一流の情報網を持っている。当然のように隣国の王子の顔くらいは覚えていたようである。
「信じられません・・・、一度死んだ人間が魔物へと生まれ変わっただなんて・・・。」
「しかし、目の前にその一例が普通にいるのですから・・・。信じるしかないでしょう。」
「そ、そうなのですが・・・。」
「しかも、ラウル様のお母様は、上級精霊とは・・・。神に仕える者とも言われている存在が目の前に・・・。」
「あらあら・・・、大袈裟ですよ。神なんて会ったことありませんからね。」
(俺は会ったことあるけどな・・・。)
結局、パンの話に移れたのは30分くらい後であった・・・。




