ふわふわのパンを作りたい
翌日、ラウルは商業ギルドへと来ていた。目的は、強力粉の入手である。この国に無くても、世界的に見れば小麦にもいくつかの品種が存在するはずである。小麦粉も数種類あってもおかしくないはずなのである。
一緒に来ているのは、シルフィとセバスである。対応してくれたのは、商業ギルド・ギルドマスターのビシネル=アーラントさんである。
「これはこれは、ラウル様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「毎回ギルドマスターさんに対応してもらわなくても大丈夫ですよ?」
「いえいえ、ラウル様は大事なお得意様ですので・・・。」
そのような前置きで軽く世間話をした後、本題に入った。
「この国には小麦粉が1種類しか流通していないようなのですが、国外の小麦粉についての情報をいただきたいのですが・・・。」
「小麦粉ですかぁ・・・。それは何か、新しい食品に必要だったりするのでしょうか?」
「ええ、柔らかいふわっふわのパンを作れないかなと・・・。試行錯誤しているのですが、なかなか上手くいかなくてですね。。」
「ほほぅ・・・。」
金の匂いを嗅ぎつけたマスターは、少し考えた後、翌日にまた来るように言った。
翌日、また商業ギルドへとやってくると、今度はアベル商会のアベルさんもギルドマスターと一緒に待ち構えていた。どうやら話が大きくなりそうである。
「ラウル様。護衛任務ではお世話になりました。」
「いえ、こちらこそ。」
アベルさんは、どうやら小麦粉を何種類か持ってきてくれたようだ。5種類ほどテーブルの上に小麦粉が置かれている。ひとつひとつ鑑定していくと、強力粉と薄力粉が含まれていた。それ以外は全て中力粉である。
「これと、これの産地は何処なのでしょう?」
ラウルが二つの種類を選ぶと、アベルさんはそれぞれの産地を教えてくれた。どちらもこの国では作られていない品種だそうだ。それらの国とは交流があり小麦粉を仕入れることも可能だという。ただ、かなり遠方に存在する国らしく、輸送費がかなりかかりそうである。
「それでは、こちらの品種の小麦粉だけ取り寄せてもらえますか?」
「わかりました。今後も定期的に必要でしょうか?」
「はい。是非欲しいですね。」
「畏まりました。早速手配しておきます。」
強力粉が手に入りそうである。ビシネルさんに礼を言ってギルドを後にした。帰りにアベルさんと共にアベル商会に寄り、在庫があるだけ強力粉を購入した。あまりこの国では需要の無い小麦粉らしい。そもそも、小麦にも種類が色々とあることを知られていない可能性もあるが。
自宅に帰ると、今度は牛乳を厨房から持ってきて机の上に置いた。牛乳で作ったパンは少し締まった感じがして固くなった。やはりスキムミルクが欲しい。そこで思いついたのが醤油作りで種麹を作った時の方法である。
種麹を作るときは、大豆や米に菌を付着させ培養する。コウジカビだけを取り出すには、大豆やお米だけを収納してやればコウジカビだけが残る。当然、ラウルにしかできない方法ではあるが。
この方法を応用する。スキムミルクとは、所謂、脱脂粉乳であるが、これは牛乳を遠心分離機にかけて脂肪分を分離する。そして、乾燥させて粉末状にしたのがスキムミルクである。ならば、牛乳から脂肪分と水を収納してやれば、スキムミルクが残るのではないか? そうラウルは考えたのだ。
早速実験を始めた。テーブルの上にコップに入った牛乳を置く。それに向かって手をかざすと目をつぶりイメージをする。牛乳の中に含まれている脂肪分、それをまずイメージして【収納】。インベントリ内に脂肪だけが収納されたことを確認した。次に、同じように水をイメージして【収納】する。コップの中にはサラサラとした粉末だけが残った。鑑定してみると、スキムミルクと表示されている。実験は成功したようだ。
ラウルは強力粉とスキムミルクを手に入れた。そして、予想外の生成物である生クリームがインベントリ内に残っていた。先ほど牛乳の中に含まれている脂肪分を収納した物だ。
(おかしいなぁ。たしか、牛乳からは生クリームは作れなかったと思うけど・・・。)
前世では、牛乳などが水と脂に分離しないように、高い圧力で微細な隙間から噴射・衝突などをさせ、均質な乳化状態にしているはずである。よく考えると、この世界ではそのような高度な技術は無いのでは? と、ラウルは考えた。この世界の牛乳は、生乳をただ高温殺菌しただけなのかもしれない。なので、牛乳でも高い脂肪分が含まれたままのようだ。その脂肪分のみを『収納』によって分離濃縮した結果、生クリームができてしまったようである。
(これは嬉しい誤算だぞ・・・。)
ラウルはとても喜んでいた。
できあがった生クリームも、異次元空間を作り、低温・無菌状態で保存することにする。
アベル商会でもらってきた強力粉と、スキムミルクを利用して再度パンの生地を作っていく。バターはこの世界でもあるし、天然酵母もリンゴから作ってある。
今度のパンの生地は、牛乳を使ったときよりも柔らかい感じがした。発酵も問題なく進み膨らんでいく。二次発酵が終わってあとは焼くだけである。
石窯の焼き方も色々と工夫をした。いままでは、生地を入れてから火を付けていたりしたのだが、あらかじめ火を付けておいて一定の温度で短時間焼く方法に変更した。窯にパンを入れる場所も、熱が均等に集まる場所を選んでみた。その結果、綺麗な焼き色でふっくらとしたパンが初めてできあがった。
一番始めに食べるのはやっぱりシルフィだろう。ラウルはシルフィを呼んできて、焼きたてのパンを皿に載せてあげた。シルフィは今までには見たことも無いようなパンに驚いていた。ラウルの分のパンを手に取って、ちぎってみせるとまた驚いていた。この世界のパンは固いのが常識だからだ。
シルフィも目の前にあるパンを、おそるおそる口へと運ぶと、目をカッと見開いて叫んだ。
「なにこれ、おいしぃ~!」
「ふふふ、やっとできた自信作だよ。」
「柔らかくて、ふわっふわじゃない。こんなパン初めて食べた。」
シルフィは非常に満足したようであった。




