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平凡な一日

 翌日、ラウル達はニルバーシュにある家に戻ってきていた。この家の三階は異次元空間の家と直接繋がっている。ラウルに続いて、シルフィ、ニーナ、セバスが戻った。メアリーには両親の身の回りの世話を頼んでいる。


「あ、マイン。ただいま戻りました。」

「ひゃぁ! 突然後ろから声をかけないでください。びっくりしますからー。」


 二階に下りていくと、マインが掃除をしていた。一応この家のメイドさんである。いままでも、玄関から戻るのではなく三階から戻ってくることがあり、すでにマインには説明してある。もう一人のメイドのエミュさんにも説明済みだ。ただ、戻ったときに大きな音がするような仕掛けがいるかもしれない。


「無事に依頼が完了したので、冒険者ギルドへ報告に行ってきますね。」

「はい、ラウル様。」


 家は西門のすぐ近くに建っているため、東門に近い冒険者ギルドまでは馬車で行くことにした。セバスに御者を任せてのんびりと馬車が進んで行く。ニーナは自宅警備に自ら志願したので、シルフィと馬車の中で二人きりである。


「すごく平和な日常に戻ったみたいで安心するわ・・・。」

「そうだね。」


 馬車の外に広がる景色を見ながら、シルフィがぼんやりとしている。

 

 冒険者ギルドに到着すると、係の者に馬車を頼んで中に入っていく。いつものように、西部劇に出てくるような観音扉を通過すると、多くの目線がラウル達へと集まる。子供だと確認すると興味をなくしたのか、また賑やかな雰囲気に戻っていく。


「すみません、指名依頼の完了報告に来たのですが。」

「はい、確認させていただきます。」


 エルフの隠れ里に住んでいる依頼者のソフィから、忘れずに完了のサインはもらっている。それを受付の女性に手渡す。しばらく待機していると報酬をもらうことができた。いつもなら何かしらのトラブルに巻き込まれる冒険者ギルドだが、今日はセバスがいるからか何事も無かった。


 家に戻ってくると、店舗の部分には当然だが明かりはなく、暗くなっている。


「あー、店舗で何を売るか考えてなかった・・・。」

「え? 醤油を売るんじゃないの?」

「醤油も売るけれど、それだけってのは寂しくない?」

「うーん、そうね・・・。」


 工場で醤油の出荷が始まるまでは、まだ一年と少しかかる。それまで、お店で何も売らないのももったいないとラウルは考えた。

(うーん、何か良い商品はないかなぁ。石窯があるからピザでもつくるか・・・。)


「シルフィ、ピザって知ってる?」

「ピザ? なんですかそれは?」


 どうやらピザはこの世界にはまだ無いらしい。ラウルは詳しく説明していく。


「ピザって言うのは、丸くて薄いパンの生地の上に、チーズやお肉を載せてオーブンなどで焼く食べ物だよ。分類はパンになるのかなぁ?」

「見たことないわね・・・。丸くて薄いパン? なんか水に浸けにくくない?」

「水に浸ける?」

「パンなら普通汁物に浸けてふやけさせて食べるでしょう?」

「えぇ・・・・。もしかして、この世界のパンってすごく堅い?」

「あたりまえじゃない。柔らかいパンってあるの?」


 想像以上にこの世界のパンは遅れているようである。この世界に来てパンはあまり食べたことが無い。伯爵家の皆様も固いパンは苦手で、滅多に食べられないのかもしれない。醤油もなかったし、発酵という工程を理解していないのかもしれない。

 ワインなどは作られていると聞く。それならば、利権がからんでいて、製法などは極秘にされている可能性はある。もしくは、発酵のことは知っているが、それが微生物の仕業なのを知らない可能性もある。


「シルフィ、一応確認なんだけど、イースト菌とか聞いたことは・・・?」

「無いわ。」


 この世界ではイースト菌はまだ知られていないようだ。ということは・・・、ドライイーストなどもないか・・・。フワフワのパンを作るには、天然酵母で作る必要があるようだ。しかし、これは金になるとラウルはニヤリと嫌らしく笑った。


「ラウル・・・、顔が悪人みたいになってるわよ・・・。」


 自宅に帰ると、ラウルは早速天然酵母作りに励んでいた。パン作りはよくやっていたので醤油の時と違って自信がある。天然酵母を作るにはレーズンかリンゴを使うのが簡単だ。今回はリンゴが手に入りやすいのでリンゴで作る。

 ガラスの瓶に細かく切ったリンゴをそのまま入れ、水と少しの砂糖を入れれば、あとは放っておくだけで完成する。この世界にはガラスがまだ無いので、醤油の時に利用した小さめの陶器の中に入れる。


(透明のガラスを作っても売れるのではないかな・・・。しかし、ガラスの作り方は分からない。。)


 温度は23-25度くらいで一定にしておいた方が良いだろう。朝晩一日二回ほど蓋を開けて空気を入れ換え、シャカシャカと振る。リンゴから泡がシュワシュワと沢山出てくるようになれば、酵母液の完成である。


 ラウルは醤油の種麹の時と同じように異次元空間をつくり、温度を23度で一定にし、無菌の空間を用意してそこで天然酵母を作ることにした。


 ここまでは順調にいっていたが、実際にパンを作るときに問題が発生する。1種類しかない小麦粉を見て途方に暮れるラウルであった・・・。


「あれ・・・、小麦粉はあるけれど1種類だけなのか・・・?」


 鑑定すると、中力粉と表示された。主にうどんなどで利用される小麦粉である。パン等に主に使われる小麦粉は強力粉である。確か、グルテンの質と量が違うはずである。仕方がないので中力粉でパンを作ることにする。

 次の問題はスキムミルクが無いことだった・・・。つまり脱脂粉乳のことであるが、代わりに牛乳を使ってみた。


 試行錯誤の後、なんとか発酵も無事に膨らみ、ようやく石窯に火を入れて焼くところまできた。しかし、石窯でパンを焼く場合、非常に火加減が難しいことを理解する事になる。


「だめだこりゃ・・・。素人が石窯でパンを焼くには難しいかもしれない。。」


できあがったパンは真っ黒だった。




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