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エルフの隠れ里へ2

「母様、体調の方は大丈夫ですか?」

「ええ、すっかり良くなったのよ。ラウルが何かしてくれたのでしょう?」

「はい、龍脈の流れの一部を母様の周辺に流しています。」

「そうなの。力が湧き上がってくるので、不思議に思っていたのよ。」


 母様の心配はなくなったようだ。ラウルはひとまずほっとした。次の問題は、龍脈の濃い魔素のおかげで、周囲に魔物が生まれてしまう事である。

 しかし、ラウルにはもう一つ聞きたいことがあった。


「母様、それで今のお姿は?」

「ああ、これはね・・・」


 母様はゆっくりと説明を始めた。

 ある日、突然力が湧き上がってくるのを感じて、きっとラウルがやってくれたと思ったそうだ。そして、神木の木の枝を依り代に、自分の分身を作ったのだという。母様は、植物であればどれだけ離れていても意識を飛ばすことが可能である。その能力を使って、自分の依り代に意識を飛ばし、自由に歩き回れるようになったそうだ。

 神木の枝から作り出された依り代は、完全な人間に変化し、体内には血液もちゃんと再現されているそうだ。食事もできるらしい。

(それで、父様は血を吸うことができたのか・・・。)


 次の問題へと取りかかることにした。

 ラウルは周辺の魔素を調べた。奥に見える大きな神木の周辺で、極端に魔素が濃くなっているのがわかる。この魔素に魔物が寄ってくることもあるし、濃い魔素から魔物が生まれることもある。それを何とかしなければならない。


 ラウルはしばらく考え込むと、良い考えが浮かんだようである。

 さっそく、母様の神木の側まで行くと、木に自分の魔力を流し始めた。魔力は木の全体を包み込むように広がっていく。地面の下に張り巡らされている細い根っこまでラウルは魔力を広げていく。そして、神木の全体的な大きさをラウルは感じ取ることができた。土の下の根っこまで計算に入れると、かなり巨大な神木なのがわかる。


 次に、ラウルは家がある異次元空間に接続し、入り口を開ける。家の奥を1キロほど延長し、養分の多く含んだ腐葉土を敷き詰めていく。延長したエリアの中心は、小高い丘のようにして傾斜をつけた。その頂上付近を大きく魔法の『カット』でえぐり取った。神木の木の根が地中にすっぽりと隠れるくらいの大穴を開けた。

 急いで神木まで戻ると、今度は生存可能な空間をクリエイトエリアで作成する。神木が収納できるほどの空間を作り、そのまま母様が宿る神木を収納する。その瞬間、母様が動かなくなった。おそらく、本体との繋がりが絶たれたためであろう。

 また、丘の上に戻り、先ほどくり抜いた場所に神木を出現させる。穴の隙間を腐葉土で埋めていけば作業は完了だ。


「よし、これで植え替えは無事に終わったかな。」

「フィデル? この空間はいったい何?」

 

 母様は本体と繋がったようで、再度動き出し、首をかしげている。ラウルはまだ次の作業が残っているので、説明は少し待ってくれと母様にお願いした。


「葵、龍脈の魔素の流れを、神木があった場所から、俺が作った異次元空間の中に変更してくれ。」

「畏まりました。では、迷宮で不要な魔素の一部をマスターの異次元空間に転移させます。・・・、完了致しました。」


 葵の処理が終わった瞬間から、ラウルが居る異次元空間に大量の魔素が流れ込んできて、辺り一帯に充満していく。それを神木はすごい勢いで吸収していった。ここであれば、魔物が生まれる心配もないだろう。

 この異次元の世界では、生命を生み出すことは禁忌とされている。なので、魔素が濃い場所であろうと、魔物が生まれることはないだろう。この世界に母の宿る神木がある限り、外敵に襲われることはない。母様が無敵の存在へと変わった瞬間であった。


「母様、神木を俺が作った異次元空間へと植え替えました。これで、魔物が生まれることもないでしょう。このエルフの隠れ里も危険はなくなったはずです。」

「フィデルも空間魔法を使えるのね。お義父様も少し使えたと思うけど。その血筋を継いだのかもしれないわね。でも、夫は魔法はからっきしだったから、夫に似なくてよかったわ。」


 そういって母様は笑った。

(うん・・・、元国王様が空間魔法を使えるのは、迷宮で知りました・・・。)


 ラウルは迷宮での出来事を遠い目をして思い返していた。


 元の神木があったところには立派な門を作り、そこから異次元空間へと繋げて、いつでも神木へと移動できるようにした。そして、エルフ達にはその門を守護してもらうことになった。


 森の中では、今現在もエルフと魔物達が戦っている様子である。セバスとニーナにも、エルフ達の応援を頼んで森へと向かってもらった。


「母様、こんな時になんですが、紹介したい人がいるのです。」

「え? どなたですか?」

「こちら、俺の婚約者のシルフィです。俺が以前従事していた伯爵家の令嬢です。」

「まぁ、可愛らしい子ね。そう、婚約したの。」

「は、初めまして。ご、ご、ご紹介に預かりましたた、シルフィともももうします。」

「シルフィ、そんなに緊張しなくてもいいから」

「す・・・、すみません。。」


 シルフィは緊張しているのか、小さくなっている。


 母様は、ゆっくりと手を動かすと、緩やかに風が吹いた。その風はシルフィの周りを優しく包み込むように通り過ぎていった。どうやら森林の匂いを多く含んでいたようで、シルフィはすぐにリラックスした状態になれたようだ。


「うふふ、本当に可愛い子ね。息子だけじゃなく、私とも仲良くしてくださいね。」

「は、はい! よろしくお願いします。」


 シルフィは元気よく頭を下げた。



 


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