死者達の迷宮9
続けてヴァンパイアである父様と、リッチキングであるお祖父様を迷宮の支配から解放する。他の者達の様子を見ていると、おそらく襲ってくることはないと思うが、やはり緊張する。
スケルトンナイト達は、そこに誰がいるのか気がついたようである。ボール遊びを止め、王の前であるがごとくその場に跪いた。
「ん・・・、ここは?」
父様がどうやら記憶を取り戻したようだ。ゆっくりと辺りを見回してラウルと目が合った。
「・・・。」
「・・・。」
お互い目を合わせたまま、どちらからも話しかけることはない。しばらくなんとも言えない気まずい雰囲気がつづく。耐えられなくなったセバスがたまらず声をかける。
「えーと・・・、ウェイン殿下。こちらフィデル様でございます。」
「・・・やはり、お前だったか。随分成長したようだが。」
「えーと、お久しぶりでございます、父様。」
「う・・・うむ。いや、すまないが、現状がよく理解できていないようだ。どうなっている? 確か、私はフィデルを逃がそうとして盗賊どもに刺されたと思うのだが・・・。」
そういって父様は自分の胸をさすっている。どうやら今の記憶は、殺された当時のままのようだ。ラウルも父様の顔も覚えていないし、過去の記憶も無い。すこし焦っていた。
その時、隣に立っていたリッチキングであるお祖父様が、突然父様を抱きしめた。骨の顎をカタカタと動かして何やら喋っているようだ。先立たれた息子が目の前にいるのが、本当に嬉しいのだろう。もちろん涙は流れていないが、泣いているような気がする。不思議と彼の深い愛情が伝わってくる。
「う!? なんだこの骸骨は!」
そこに雰囲気をぶち壊すひと言が放たれた。
「殿下! こちらはロイ国王陛下であられます。あなた様のお父上でございます。」
慌ててセバスが説明する。
「なにっ!? これが父上だというのか。」
「はっ。間違いありません。殿下が亡くなられた後、心の病を患い、後を追うように崩御なさいました・・・。しかし訳あって今こうして生まれ変わったようでございます。」
「なんてことだ・・・、父上がアンデッドとなるなんて・・・。」
父様は、外見は人間と変わらないため、自分の変化に気がついていないようだった。ラウルは仕方なく、父様に嘘偽りない情報を伝える。
「落ち着いて聞いてください。父様もヴァンパイアという魔物に生まれ変わってしまったのです・・・。」
「なに?」
「口を開けてみてください。証拠となる長い牙があるはずです。」
父様は口を開けると、そこにはやはり大きな牙が生えていた。それを触って確かめている。
「本当だ・・・。」
どうやら現実を見つめ直したようである。ゆっくりと体に絡みつくお祖父様を離すと、ラウルに詳しいことを説明するように促した。
ラウルは父様に今までのことを全て語り聞かせた。自分が盗賊に捕まり、奴隷として生きてきたこと。過去の記憶が失われていること。いまは、ラウルという名前で商人を目指していること。良い縁があって、伯爵令嬢のシルフィと婚約できたこと。母様が精霊に、お祖父様はリッチキングとなって生まれ変わったことも伝えた。
「そうだったのか。しかし我が息子が奴隷になっていたとは・・・。あの時、最後まで守り切れずに本当にすまなかった。」
父様はラウルに深く頭を下げる。
「よしてください。今は両親がともに戻ってきてくれて嬉しいのです。しかし、今後のことを考えると不安なのですが・・・。」
ラウルはできるだけ笑顔で答えた。それもそうである。アンデッドとなってしまった両親や近衛兵団の皆さんは、地上に出た瞬間に討伐される運命なのだ。そのことを考えると頭が痛くなってくる。父様と、エリックは一応人には見えるのだが、他はどう見ても骸骨なので仕方がない。
(エリックは頭と本体を糸で縫ってしまえば、人に見えないかな・・・。)
「とりあえず、迷宮で急を要することは全て片付いたかな? 母様のところに早く向かいたいのだけれど。」
「ジェイルに会えるのか。それは早く会いに行こうではないか。」
そこに葵が会話に割り込んできた。
「マスター、何処に行かれるのですか? マスターは迷宮からでることはできませんよ?」
「え? 何故だ?」
「迷宮の管理人ですから、ここにいてもらわないと困ります・・・。」
そんなの初耳である。ここから出られないとは本当なのだろうか?
「葵、すまないが俺は、母様の様子を確かめに行かなければいけない。」
「しかし、ここの管理はどうすれば宜しいのでしょう?」
「自動運転などはできないのか?」
「可能ですが・・・、もし何かイレギュラーな案件が発生すればすぐに対処が必要になります。」
「転移ができるのだから、何処にいてもすぐに戻れるだろう?」
「しかし、マスターに連絡する手段がなくなります。。」
「え、葵は迷宮から離れると状況が把握できなくなるのか?」
「え?」
「ん?」
「え・・・、私も外に出ても宜しいのでしょうか?」
「当然だろう? こんな地下深くにひとりでずっといるつもりだったのか?」
「え・・・。あ、それでは私も連れて行ってもらえますでしょうか・・・?」
「もちろんだよ。」
「でも、私は人間ではありませんけど・・・。」
「いまさらそれは・・・。」
ラウルは周りのアンデッド達を見ながら呟いた。。
「そ、そうですね。。」
葵は相変わらずのっぺらとした顔だったが、不思議と少し笑顔に見えた気がした。




