死者達の迷宮6
動かなくなったその白い骨は、しばらくすると消えてしまった。迷宮へと吸収されてしまったのだろう。部屋の奥には新たに出現した通路が見える。
「ここにとどまっていると、また元国王が生まれてくると思う。すぐに出よう。」
「はい、主様。」
後ろは決して振り返らない。前へ前へとラウル達は進む。今、何かを考えてしまうと、罪の意識で前に進めなくなってしまう。ラウルはそうなることが自分で分かっていた。だから、今は何も考えない。この迷宮を走破することだけを考えた。
しばらく歩いていると、外に出てしまったのかと錯覚してしまうくらい、広く明るい光景が目前に広がってきた。不思議だが、髪の隙間を通り過ぎていく風も、かすかにだが感じる。何処か外気と繋がっているのだろうか。しかし真上を見ると、遙か上空に天井が見える。光る苔にびっしりと覆われた天井は、まるで太陽の代わりのように光を地上へと届けていた。
目の前には、地下なのにギリシャの神殿のような物が建っている。近づいていくと、自動でドアが開いた。中はボス部屋と同じ造りだが、室内も光が行き届いていて明るい。広さはボス部屋と比べると、かなり狭い。正面には祭壇のような物があり、そこに青くて大きなクリスタルが浮いていて、ゆっくりと回転しているようだ。
「●ルス」
つい小さく呟いてしまったが、その大きなクリスタルが宇宙の果てまで飛んで行ってしまうことはなかった。
「ん? どうしたのラウル?」
シルフィが不思議そうな顔をして首をかしげる。
ラウルはなんでもないと目を逸らした。
この青くて大きいクリスタルはおそらく迷宮核だと思う。ただそれだけが存在している。特に守護する者もいないようである。
(俺達が初めての攻略者になれたのか?)
迷宮核の前に立つと、それは少しだけ青い輝きを増した。そして立方体の台が地面からスルスルと伸び上がってきた。天辺は少し俺の方へと斜めに削られ、その面が手形に凹む。どうやら、手を載せろと言われているようだ。
言われるがままに手を載せると、手のひらに少し感電したような刺激を感じた。
迷宮核が強い光を放つ。そして、今までの回転速度とは違う、少し速い速度で回転を始めた。何かが始まろうとしている。ラウルはそう感じた。
しばらくすると、魔素が異常に濃くなってくるのを感じる。迷宮核の右隣には大きな魔法陣が現れた。今までには見たこともないような魔法陣が地面から何重にも積み重なり、そのひとつひとつがまた別の魔法陣に干渉しているようである。
その立体的な魔法陣の中心には、液体のような物がフワフワと浮遊を始める。見たところ水のようだが、透明ではなく銀色に光っている。金属のようにも思えた。それは、空中でグニャグニャと形を変えていく。
「す・・・、すごい。」
誰かが感動しているような声を漏らす。
しばらくすると、その銀色に光る物は体積を増やしていき、人型へと形を整えられていった。
(これはもしかして、ゴーレムか? でも、液体のゴーレムなんて聞いたことがない。)
それは目も鼻も口もない、のっぺらとした表情の人型ゴーレムだった。体格的に見ると女性だろうか? 胸のあたりには控えめに膨らみがある。すると突然顔に口だけが現れた。
『ハジメマシテ、ワタシハ、ヒトガタ、インターファイス。ショキ、プロセス、カンリョウ、シマシタ。』
「お・・・おう。ハジメマシテ。。」
ラウルが釣られて変な発音で返答をした。
『ツヅケテ、ゲンゴ、ガクシュウ、プロセスヲ、カイシシマス。』
そういってゴーレムはまた口がなくなり、のっぺらな顔になる。どうやら、話をするときだけ口をわざわざ作っているようである。どう考えても口から発声されているようには思えないのだが。
『言語学習が完了致しました。意思疎通に問題はありませんか?』
「あ、はい。ありません。」
突然話し方が流暢になった。
『それでは、次のプロセスに移らせていただきます。魔力を登録し、迷宮管理人の権限を付与します。宜しいでしょうか?』
迷宮管理人とはダンジョンマスターのことだろう。助言をいただいた神様によると、ダンジョンマスターになれば母様を救うことが可能になると仰った。なので、返事は「はい」と答えた。
『迷宮管理人を新規作成、完了。初期化、完了。魔力を登録、完了。属性登録、無属性として登録完了。迷宮能力に時空間魔法能力、インベントリスキル能力、鑑定スキル能力を融合、完了。迷宮に対する全ての権限を付与、完了。再検証、完了。全てにおいて異常なし。オールクリア。』
「迷宮能力にスキルを融合させることが可能なのか。」
『マスター、全てのプロセスが終了しました。』
「わかった、ありがとう。」
『命令待ち待機モードに移行します。』
ゴーレムはまったく動かなくなった。全ての仕事を終えたらしい。これでラウルはダンジョンマスターになれたのだろうか?
(え、それでどうやって母様を救うんだ?)




