死者達の迷宮4
「おや・・・、美味しそうな匂いがするねぇ。」
男はそういうと、足からゆっくりと真っ黒い霧へと変化していく。次の瞬間にはシルフィの首元に黒い霧が現れ、それは次第に男の頭部へと変わっていく。
「シルフィ!」
大きく開かれた口の中には、鋭い牙が見えていて、シルフィの首元に今にも突き刺さろうとしている。ラウルは慌てて『かばう』を実行し、男とシルフィの間に割って入った。男の頭部に向かって、ラウルは拳を思いっきり突き出す。しかし、拳は男の頬に当たったと思った瞬間、何の抵抗もなく突き抜けてしまった。男の頭部はまた霧へと変化していく。黒い霧はまた椅子のあたりに集まりだすと、男が座った状態で現れた。
「そんな・・・、親子で殺し合うなんて・・・。」
セバスは戦意がかなり低下しているようである。ラウルも殺傷能力の高い魔法である、『カット』を使えないでいた。しかし、ここのボスとして生まれ変わってしまった父様を、倒さなければ先には行けないのである。正直、あの男を父様と呼んでいいのかも躊躇ってしまう。顔を覚えていないので、まったく再開した実感が湧かないのである。それについては、顔を覚えているセバスの方がラウル以上に攻撃するのが辛いだろう。
「少しだけでいいんだ、少しだけ血を吸わせてくれないかね。」
「絶対にいや!」
シルフィは強気で否定する。しかし、足は少し震えているように見える。やはり、目の前の男が恐ろしいのだろう。必死に耐えているのが分かる。
「セバス、シルフィに危害を加えるような者は、例え父様であろうと許せないよ。」
「し・・・、しかし。。」
セバスはまだ戦いたくないようである。
「ダンジョンのボスとなってしまっては、もう倒すしかないだろう。それに、倒してもまたボスならすぐに復活するはずだよ。」
「う・・・、確かに。ボスはすぐに復活しますよね・・・。」
セバスは自分自身を納得させるように、自分の言葉を何度も何度も繰り返す。
しかし、正直この男を倒せる気がしないのが問題である。霧状になってしまったら、どうやら物理攻撃は無効のようである。魔法ならばダメージを与えられるのだろうか?
ラウルは試しにファイアボールを数発、男に向けて放った。魔法が着弾したと思った瞬間に、男はまた霧状になってその霧の中を魔法が通過していった。魔法もどうやら無効のようだ。
ラウルは再度ファイアボールを放ち、霧状になったところを今度は『カット』で空間ごと消滅させようとする。
【カット】
横方向に動いていた黒い霧の一部を、魔法による青い立方体が空間をえぐった。霧の一部は間違いなく消滅したはずである。ラウルは再度、男が人型に戻るのを待った。
人型に戻った男は、ひとまわり小さくなっていた。
「おや? 小僧一体何をした?」
「部分的に欠損するのかと思ったけど、そうきたか。。」
どうやら霧を消滅させると、元に戻ったときにその体積分だけ小さくなるようだ。ラウルは同じようにファイアボールを放ち、霧状に逃げたところを『カット』で消滅させていった。
今、目の前にいるのは、ラウルよりも小さくなった男である。。小さくはなっているのだが、顔はそのままのおっさん顔なので、違和感がとんでもない。
「な・・・、何故だ。霧化したときは、物理も魔法も無効なはずなのに・・・。」
ラウルの魔法は空間ごと消し去っているので、霧になっていようが関係ないのである。そして、ラウルはなんだか一方的にいじめているような気がしてきて、申し訳なく思い始めていた。
(霧化のダメージ無効に自信を持っていたようだけど、油断しすぎだよ・・・。)
そしてラウルは一つ試してみたいことがあった。それを早速試してみることにする。
男が人型になっているとき、ラウルは四方八方を防御結界で閉じ込めてみた。しばらく様子を見る。中から出てくる様子はない。結界の中で、霧になったり、コウモリに分裂したり、人型に戻ったりもがいている。最後、諦めたように人型に戻った男は、その場で降参した。
「まいった。もうどうにでもしてくれ。。」
ラウルは異次元空間に新しく空間をつくりだす。生存可能な空間を『クリエイトエリア』で創造した。そこに、とりあえず父様と思われる男を放り込む。
【プッシュ】
アイテムボックスと同じ原理なので、生存可能な空間へ男を収納したことになる。すると、奥の壁が開き、下りの階段が現れた。
「ふむ、異次元空間に閉じ込めるとこの世界から消滅するので、倒したことになるのか。」
「「・・・。」」
ラウルが言うと、セバスもそれ以外の皆も黙り込んでしまった。
「ん? どうしたんだみんな?」
「いや、ラウルってやっぱり考えつくことが普通じゃないわよ・・・。」
「でも、殺さないでボスをクリアするには、これしか考えつかなかったのだもの・・・。」
「まぁ、結果オーライかな・・・。」
そこにセバスが質問してきた。
「ラウル様、このあとボスは復活するのでしょうかね?」
「わかんないよ、そんなこと。」
問題は、異次元空間に拘束してあるあの男についてである。前世の記憶も無くしている男に、どうやって信じてもらうのか。。そのことを考えると、ラウルは頭が痛くなってきた。




