ラウル、家を買う
「王族だと!?」
旦那様は、少し落ち着くとそういった。
「はい、後ろにいる二人が証人です。本当はもう一人証人がいるのですが、残念ながらここには来られませんでした。」
もう一人の証人とは、もちろん母様のことである。ラウルはその三人からフィデルという名前で呼ばれたこと、黒髪と瞳の色のことを説明した。もちろん、絶対にそうとは断言できないのだが、かなりの確率でラウルは王族だと思われた。
「うむ、わかった・・・。それで、ラウルはどうしたいというのだ?」
「いえ、どうもしません。ただ、王族だったことの報告にまいりました。」
「は?」
「え? 報告は必要かと思いまして・・・。」
ラウルはあっけらかんと言ってのけた。
「それはそうだが、王族だぞ? 国に戻って王族として暮らしたいのかと思ったぞ。今よりも断然、裕福な暮らしが約束されているだろう?」
「いえ、おそらく自分が国に戻りますと、偽物として処刑されるか、軟禁されていいように使われると思います。そんなところには帰りたくありません。」
旦那様は、不思議そうに質問を返す。
「何故じゃ? 何故そのようなあつかいを受ける。」
「自分の両親が、どうやら暗殺されたようなのです。おそらく、当時の第二王子の派閥によって。確たる証拠はありませんが。。」
ラウルは悔しいのか、悲しそうな目をしていた。旦那様は、それを聞いてしばし黙り込んだ。しばらく考える仕草をして口を開く。
「わかった。それは戻ると危険かもしれん。そういえば、そのバルサニールの王都にアンデッドの群れが現れたと情報筋から今朝、連絡があったばかりだ。」
「はい。その情報は商人からも聞きました。今は王都には近づかない方がいいと忠告されました。」
「うーむ、何が起こっているのだろうな。」
王都でアンデッドの群れが闊歩している所を想像すると、とても心配になる。住民達は無事逃げられたのだろうか? 王都となると、軍が出てもおかしくはない。それほど危険な状況は続かないとは思うが。
それからラウルは、後ろの二人の紹介をして共に旅をすることを伝えた。
「二人の身元は確かなのか?」
「はい。近衛兵団の元団長と、元副団長です。共に自分に仕えてくれるようです。」
旦那様はまたしても驚く仕草をして質問をする。
「なんと!? そのような者がラウルに仕えるというのか?」
「はい、二人とも自分のことを王族と信じてくれているので。ありがたいです。」
「そうか。二人ともラウルのことをよろしく頼む。うちの娘の婚約者でもあるからな。」
そういうと、旦那様はセバスたちに向かって頭を下げた。
「え!? そんなことをされる身分ではありません。頭を上げてください。」
セバスは慌てて答えた。まさか領主に頭を下げられるとは思ってもいなかっただろう。人という生き物は、プライドや見栄が強くなればなるほど、簡単に頭は下げられなくなる。地位の高い者ほど、その傾向は高くなるというのに。
報告も一段落ついて、ラウルはお茶をいただいていた。そこに旦那様が少し不機嫌そうに質問する。
「そういえば、ラウルよ。これだけの人数になったのだ、そろそろ家を用意した方がいいのではないか?」
その質問にお嬢様は答える。
「あら、ラウルはもう、素敵な家を二つも建てているのよ?」
「何、そうなのか? それならそうと、何故早く教えない。娘に手紙を出そうにも、何処に出していいのかわからないではないか。」
旦那様はおそらく、普通の分譲住宅のような一軒家を想像しているのだろう。ラウルは申し訳なさそうにいった。
「すみません、実は異次元空間に家を建てておりまして、手紙は届くことはないですね・・・。」
「何? 異次元とはどういうことだ?」
ラウルは百聞は一見に如かずと思い、壁に入り口を繋いだ。その壁に突然穴が開き、向こう側に大きな家が並んでいる。旦那様は、それを見てまた驚愕な表情をしていた。
「えーと、こういうことです。中を案内しますね。」
ラウルは、異次元空間の家を案内してまわった。旦那様は終始驚いていた。特に、魔道具については、うちの屋敷にも付けたいとお願いされてしまった。ここにある魔道具は、異次元の中でしか形を保てないのだと説明するとガッカリしていた。
「しかし、いざという時に連絡が取れないのでは困るぞ。何処かに小さな家でもかまわないから、拠点となる家を建てたらどうだ? 娘が冒険者として家を出るときに、その為のお金も渡してあるだろう?」
「わかりました。それでは良さそうな家を、今日にでも探そうと思います。」
「うむ、決まったら連絡をくれ。家のメイドを何人か派遣しよう。」
「ありがとうございます。」
ラウルは深く頭を下げると、話は終わったとそのまま屋敷を後にした。
旦那様の計らいで、商業ギルドまで馬車で送ってもらった。この世界には不動産屋などは当然ない。売っているのは商業ギルドである。商業ギルドへ行けば、だいたいの物は購入可能だ。
「すみません、家を探しているのですが、良さそうな物件はありませんでしょうか?」
「はい。家ですね、少々お待ちください。」
笑顔の受付の女性は、すぐに土地や家屋のファイルを取りに行ってくれた。戻ってくると座るように促され、目の前でファイルをパラパラとめくっていく。
「住まわれる方は何名様でしょう?」
「五名ですが、それほど大きい家の必要はありません。」
「それでしたら・・・。」
その時、女性の後ろに人影が現れた。
「失礼します、ラウル様でございますね?」
「あ、ギルドマスター? どうしてこちらに?」
「君、この方は大事なお客様です。私が直接お相手します。」
「畏まりました。お客様、失礼致します。」
そういって、女性の受付はギルドマスターと交代した。
「えーと・・・、確かビシネル様でしたか。」
「はい、覚えていただいて光栄です。それでですね、お薦めの物件はこちらになりますね。」
そこには、巨大な屋敷と思われる間取りが表記されていた。
この世界では紙は高級品である。にもかかわらず、この屋敷の説明には、植物から作られた紙が使われていた。羊皮紙などが多い中で珍しいことである。
「あなた様には、特別にこちらを1000万ゴールドでお売りします。」
「え、どう見ても大きな屋敷のようですが・・・?」
「はい、元々子爵様が使われていた屋敷と聞いております。」
「よろしいのですか、そのような屋敷をその値段では大赤字では?」
「はい、今後のお付き合いを見越しての投資ということで・・・。どうでしょうか?」
「ありがとうございます。実際に屋敷を見させてもらってからでよろしいですか。」
「もちろんです。馬車でご案内致します。」
こうして俺達は、屋敷を直接見学することにした。




