護衛任務9
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馬車を国境で見送った後、街道から外れた木陰で家に繋がる入り口を開いた。女性陣を家に戻し、ラウルとセバスは外で警戒することにした。衛兵達が応援を呼んで追ってくるかと思ったが、その様子は見られなかった。
何事も無く、アベル達が乗る馬車は、昼過ぎには国境を越えてこちらに向かってきた。
(よかった。もしかしたら、商人を人質に俺達を拘束する可能性もあったからな。)
ラウル達は女性陣を呼びに行き、アベル達を迎える。
「アベルさん、何も問題はありませんでしたか?」
「はい、大丈夫でした。」
「ああ、よかったです。少し心配していました。」
馬車を見ると、これでもかと塩が詰まれていた。それを行きと同じようにラウルが収納していく。
「ラウル様がいるので、いつもより多く買い付けたのですが、これでも全て収納してしまうのですか。。」
「あはは、空間魔法は得意なので・・・。それ以外の属性魔法はあまり使えないのですが。」
「そうなのですね。」
(本当は他の属性も使えるけど、燃費が悪いんだよな。)
アベルさんが何か不安げに話し出した。
「そういえば、商人の集まりで聞いた話なのですが、バルサニール王国の王都でアンデッドの集団が突然現れたと聞きました。詳しい話はまだ何も入ってきていませんが。」
「王都の方で? 都市の中にですか?」
「そのようです。」
「それは一大事ではないですか!」
「都市内にアンデッドの集団とは、流石に信じられない話なのですがね・・・。商人の間で、今は王都に行かない方がいいと話題になっておりました。とにかく、早めにニルバーシュへ戻った方が良さそうです。」
「はい。」
空っぽになった馬車に冒険者達が乗り込むと、ゆっくりと車列は進み出した。
帰りもルーアニアで一泊していくようだ。その後、野営を一泊、三日後にはニルバーシュへ戻れるだろう。そして、一時間たらずでルーアニアに到着した。
「それでは各自で宿屋に泊まってもらい、明日の朝、東門集合でお願い致します。」
「了解しました。」
ラウル達は、裏路地へ行くと家への入り口をひらく。そして、全員が中に入ったのを確認すると入り口の接続を切った。裏路地の地面には、ひっそりと野生の花が一輪咲いていた。
翌日も、とくに問題なく馬車は進んで行った。森に入ると、ゴブリンや狼のような魔物が襲いかかってきたが、セバスがほとんど一人で返り討ちにしていた。これほど安心して見ていられる戦闘も、珍しいと思う。
野営に適した場所が見つかり、ラウル達は一休みをしていた。他の冒険者達は、野営の準備をしてくれている。帰路の途中、ほとんどセバスしか仕事をしていなかったせいか、野営の準備くらいはやらせてくれと、リサさんが引き受けてくれた。
陽もとうに暮れ、あたりは暗くなっている。焚き火の炎は、暗い中をうっすらと照らしてくれる。今日は風が強いのか、木々のこすれる音がザワザワとまるで話し声のように聞こえてくる。結講、気味が悪い。
『みつけた。みつけた。やっとみつけた。』
ラウル達が寝静まった頃、当番の見張りの冒険者は確かに聞いたという。その声は、森の中から聞こえたという。人の声とは思えず、天使の歌声のように心奪われる綺麗な声だったと。しかし、特に襲ってくる魔物は存在せず、木々の隙間から月の光だけが差し込んでいた。
「ほんとうに声を聞いたのですか?」
「ああ、間違いない。『みつけた』とかはっきりと聞こえたんだ・・・。」
「でも、なにも魔物らしきものは見つからなかったのでしょう?」
「うむ。。なんだったのだろう?」
ラウルは何かに追われているのかと思った。しかし、『サーチ』で周囲を調査しても、魔素が少し濃いとは思ったが、魔物らしい魔力の痕跡は見つからない。少し心配ではあったが先を急ぐことにした。
その日の夕方には、ラウル達はニルバーシュ領の領都へ戻ってきた。一週間近くの長旅も今日で終わる。冒険者達が全員降りた馬車に、ラウルは塩をインベントリ内から取りだしていく。馬車の荷物が満載になったとき、今回の任務が全て終了した。
ラウルは国境から先には行っていない。護衛任務として報酬はどうなるのかと聞いてみた。
「ラウル様は、アイテムボックスの力だけでも、任務成功の価値がありますから。むしろ、いつもよりも多く買い付けできましたから、追加報酬が必要だと思いますよ。」
アベルさんは笑ってそう答えてくれた。そして、アベルさんから完了のサインをもらい、冒険者ギルドで報酬を受け取った。しっかり割増もされていた。
いつものように路地裏に行くと、すぐに入り口を開き帰宅する。皆疲れているようで、一目散に家へ入っていった。セバスだけは挨拶をしてくれる。
「それではラウル様、何かありましたらいつでも声をかけてください。それではまた明日。」
セバスは深く頭を下げると家に入っていった。
ラウルもすぐに中に入り、空間の接続を切ろうとする。ふと、爽やかな風が吹いたと思うとタンポポの種子のようなものがフワフワと目の前を通過する。
「ん? この世界にもタンポポは存在するのか。」
その綿毛が付いた種は異次元の土に落ちると、数秒で芽が出た。
(ピョコ)
「は?」
いくらなんでも、芽が出るまでが早すぎる。植物の魔物か何かかと注意して見ていると、芽がニョキニョキと成長していく。ラウルはこれは異常だと入り口をとりあえず閉じた。そして、タンポポと思われる草から数歩下がる。
いつでも『カット』で攻撃できる態勢で様子を見ていた。しかし、タンポポは成長を止めていた。そして茎は弱々しく頭を垂れ、青々しい色から茶色へと変わり、枯れてしまった。
「枯れた!?」
ラウルは不思議そうにその草を見つめていた。
『フィデル・・・』
ラウルの耳にかすかに声が届く。
「え!?」
それからは声はまったく聞こえなくなった。




