護衛任務8
翌日、朝食を食べると集合場所へと向かった。
昨日のうちに、セバスの家にあった荷物は新しい家に移されている。もちろん、引っ越しにはラウルの収納の力が役に立った。
アベル商会のアベルさんには、冒険者が二人追加されることを伝えておいた。
リサさんのパーティに所属している問題の男が、よせばいいのにまた要らんことを口走る。
「護衛任務なのに、自分に護衛を雇ったんか! 護衛の護衛やな! わっはっははは」
そう言った後、フッと風か吹いたと思えば、男の髪の毛が宙を舞った。頭の頭頂部が、綺麗に水平に整えられていた。セバスが、ギロリと効果音が鳴るほど睨みつける。
「私の主様に何か言いましたか?」
(なんて剣速や・・・、何も見えなかった。)
問題の男はその場で尻餅をつき、頭を触りながら顔を青くしていた。
その場にいる誰もが、味方で良かったと胸をなで下ろしていた。
馬車の車列はゆっくりと進み出す。
セバスだけはひとり馬に乗って付いてきた。家で飼っていた馬で、流石に置いていくわけにも行かなかったらしい。
ルーアニアをでると、国境がすぐ見えていた。国境といっても、万里の長城のように、ずっと壁が続いているようなものではなく、ただ砦が建っているだけだった。
「ラウル、その髪の色はまずいんじゃなかった?」
「そうなんだよなぁ。といっても、顔をフードなどで隠しても余計に不審者にみえるだろうからなぁ。」
そこで、ラウルは旦那様から頂いた短剣を取り出す。
「これを見せて、自分が不審な者ではないと証明できないかな?」
「んー、他国の者に効果あるのかしら?」
「効果ないのか?」
「わからないわ・・・。」
「でも、少なくとも貴族が後ろ盾になっている者を、牢へ監禁することはないでしょ?」
「それは流石にないと思うけど。入国できなかったら外で待ってるつもり?」
「最悪、俺達パーティだけ外でまってようか。」
「うーん、わかったわ・・・。」
不安で落ち着きのないようすを見せてしまうと、余計に不審者に見られることだろう。ここは堂々と衛兵の検疫を受けようと考えていた。
馬車は国境の砦へと到着する。順番に、衛兵による検疫が行われているようだ。
そして、ラウル達の順番がやってきた。
「全員身分証を提示してください。帽子などは・・・え?」
早速、衛兵がラウルの黒髪を見て、剣呑な雰囲気を醸し出す。
「そこの黒髪の男、このまま入国を希望する場合、取り調べ室で精密な検査を行う必要がある。」
(うわぁ、想像以上に黒髪に厳しい。)
「このまま大人しく帰るなら、見逃してやる。」
ラウルは、予定通り旦那様から頂いた短剣を見せていう。
「これをご覧ください。私の身分については伯爵様が保証してくれております。これでこのまま入国を認めては頂けないでしょうか?」
「ならん! 入国を希望する場合、いかなる者でも検査を受けてもらう必要がある。」
「この髪は嘘偽りない地毛なのですが。伯爵様も保証しているのですよ?」
「ならん! 検査を受けないという場合は、拘束する場合もあるぞ! それに本当に地毛の場合であっても、その者は王都まで運ばれ、詳しく出自を調べられた後、国王に謁見してもらうことになるだろう。」
(えー、地毛だとしても王都まで連れて行かれるの? それはもし転生者だった場合、国に囲われるということではないのか。)
今度は、シルフィが口を開いた。
「私はスフィア王国ニルバーシュ伯爵の娘、シルフィです。確かに、お父様はラウルの身分を保障しています。私もラウルの身分を保障します。ニルバーシュ伯爵家の名にかけて、嘘偽りなくこの者は信頼に値する人物です。それでも入国を拒みますか?」
「いや、入国は拒むことはない。ただ、取り調べ室にて精密な検査をさせてもらった後、拘束もしくは、王都へ搬送されるであろう。」
「それは入国とはいわないでしょう・・・。軟禁というのです。」
ラウルはこのままでは埒が明かないと考え、入国を断念することにした。
「わかりました、では我々だけは入国をしないことに致します。アベルさん、こんなことになってしまって申し訳ありません。」
「はい・・・、仕方がありませんね。入国できれば護衛は必要ないでしょう。塩の買い付けが終われば、すぐに迎えにまいりますので・・・。」
一部始終を見聞きしていた上官が、代わりに指示を出す。
「待て、その者は本当に地毛の可能性がありそうだ。黒髪の者は、王都まで丁重に送るように申しつけられている。部下が失礼な物言いをした非礼を詫びよう。どうか共に王都まで来ていただけないだろうか?」
(まずいことになった、王都へ連れて行かれそうだな・・・)
「いいえ、その必要はありません。入国を拒否します。このまま帰らせていただきます。」
「待ってください。悪いようにはしない。本当に丁重に送らせていただくので。」
「いいえ、結講です。」
ラウルは馬車を降りる。シルフィとニーナも後に続く。
「仕方がありません、おい、黒髪の者だけ取り押さえろ!」
(えー、見逃してやるっていってたのに・・・。なんでこうなる?)
ラウルを捕らえようと衛兵達が包囲網を張る。そこへ馬が突っ込んできた。
「貴様ら、我が主に剣を向けるとは何事だ!」
セバスが吠える。馬から下りると、剣を抜いた。
「な!? 我々に敵対するか?」
「この方に何かあったら、国際問題に発展するのは間違いありませんよ。あなた方のせいで、スフィア王国と戦争になってもよろしいのですね?」
アベルも吠える。
(なんか、ますますやばくなってきたんですけど。)
上官と思われる者は、セバスを見て驚愕の表情をした。
「な!? セ、セバス様?」
「おう、私は元近衛兵団の団長、セバスである。主様に剣を向けるというのであれば、私が相手となろう。」
セバスは剣を構え、いつでも飛びかかれる体制を取る。
「何故あなたほどの者が、こんな平民に仕えているのか?」
「そんなこと貴様には関係ない。さあ、かかってこい!」
セバスが鬼のような形相で上官を睨む。
「本気なのですね・・・。おい、全員剣を収めよ。。」
「え?」
「収めろといっている。セバス様、この場は引いていただけると助かります。」
「うむ、わかった。」
セバスも剣を鞘へ納める。
「セバス様の主殿、名は何という?」
「はぁ、ラウルと申します。」
「申し訳ないが、ラウル殿を入国させることはできない。そのままお帰りを。」
「わかりました。失礼します。」
ラウル達は、その場をなんとか離れることができた。
他の者達は入国できるようだ。
「ありがとうセバス。何とか拘束されずにすんだようだ。」
「いいえ、主様に剣を向けるなど、許されることではありません。」
「う・・・うん。まぁ、助かったよ。ありがとう。」
「はっ。光栄でございます。」
セバスは鼻息を荒くしてついてくる。
ラウルは今後のことについて考えると、頭が痛くなってきた。。
(きっと、俺のことは上に報告されるだろうなぁ。。)




