護衛任務5
ラウルは酔っ払いのおっさんの戯言だと思っていた。
「あの、とりあえず解放して貰えないですか? 人違いですから。」
「い、いいえ、フィデル様に、ま・・・間違いありません。う・・・、うう。」
おっさんは、泣きながらそう訴える。
流石に周りが騒がしくなってきたので、離すようにお願いする。
「周りの目がありますから。とりあえず、離してください。。」
「あ・・・、確かに存在を知られると不味いことになります。私の家にご案内致します。」
「へ?」
おっさんは、ラウルを軽々と肩に担ぎ上げると、そのままギルドを飛び出した。
「ちょっとー、ラウルを離してーー!」
慌ててシルフィが追いかけてくる。
「シルフィ! 危険かもしれないから来るな!」
「これは失礼いたしました。フィデル様の侍女でしたか?」
おっさんは慌てて走ってきたシルフィも、もう片方の肩に担ぎ上げる。
「きゃぁ」
ラウルは呆れた。敵意はなさそうなのだが、どのみち逃げられるとも思えなかった。
(子供二人とはいえ、肩に担いだままこの速度で走れるなんて化け物ですか。いざとなったら、おっさんを異次元に飛ばすしかないな・・・。しかし、話を聞いてみる価値はありそうだ。。)
しばらく走っていると、おっさんの家に着いたようだ。
家は小さな平屋であった。
「あらセバス、早かったわね・・・・え?」
家の中に入ると、掃除をしていたと思われる女性がいた。俺の顔を見て驚いている。
「ま、まさかフィデル様ですか?」
「メアリーもそう思うだろう?」
メアリーと呼ばれたその女性も、ラウルのことをフィデルと呼んだ。そんなにラウルとそっくりな者がいるのだろうか?
「人違いですって。。俺はラウルと申します。」
「でもその黒髪・・・、その瞳の色、フィデル様と同じですわ。」
「いやいやいや、黒髪なんて珍しくもないでしょう?」
「確かに、まったくいない訳では無いけれど、滅多に生まれてこないわ。バルサニール王国では、過去に異世界から転生してきた勇者様が、その黒い髪をしていたことで有名です。なので、黒髪は転生者の髪の色とも言われていて、王族に召し抱えられることも多いわ。逆にエルフの国では、縁起の悪い呪いの印といわれて忌み嫌われています。」
(なんですとぉー? これは不味い。俺が転生者だとバレてしまうかもしれない。)
シルフィは思いついたように言った。
「ラウル・・・、言われてみれば、確かに私も黒髪の人間を見たのはラウルが初めてよ?」
「え、そうなの?」
「うん。」
「しかし、髪を染めたりすれば、誰だって黒髪になれるでしょう?」
ラウルは他の可能性について訴えるが、メアリーが答える。
「バルサニール王国では黒に染めるのは禁忌とされているわ。自らを偽って王族に近づきたいと主張するようなものですから、衛兵に見つかれば不審者としてその場で捕まりますね。」
(そんな馬鹿な・・・。)
「それじゃぁ、ラウルはバルサニールには入れないの?」
「バルサニールへ向かうつもりなのですか?」
「はい、俺達はニルバーシュからやってきた冒険者で、バルサニールまで護衛任務を受けているのです。」
「それは入国した途端に拘束されるわね。」
「本当ですか・・・。」
ラウルは混乱していた。どうも嘘を言っているような雰囲気ではない。
そして、メアリーが確かめるように言った。
「ラウルという名前は、生まれた時からですか?」
「いや、幼い頃の記憶がないのです。盗賊の奴隷だった頃に、そう呼ばれていたというだけで、本当の名前という確証はありません。」
それを聞いたセバスと呼ばれた男は、両手を地面につけ、また泣き崩れる。
「う・・・、なんてことだ。フィデル様は盗賊の奴隷になっていらしたのですか!」
「だから、フィデルではないってば・・・たぶん。。」
ラウルは自分でもよくわからなくなっていた。なので、そのフィデルという人物について聞くことにした。
「その、フィデルという人物について教えて貰ってもいいですか?」
ラウルがそうお願いすると、セバスは「畏まりました」と静かに語り出した。
「フィデル様は、ロイ=アブ=バルサニール前王国の第一王子だったウェイン様のご子息であられます。しかし、ウェイン様と妻のジェイル様は盗賊に襲われ亡くなられております。その際に一緒に居たフィデル様は現在でも行方不明とされております。現国王はすでに亡くなっていると判断をされておりますが、その亡骸は未だに発見されておりません。」
ラウルは神様から聞いた内容と、まったく同じことをセバスから聞かされることになる。両親が盗賊によって殺されたこと。王様になっていただろうということも、ウェイン第一王子が次の国王となっていれば、十分に可能性はあった。神様の言葉の信憑性がますます高くなってしまった。
セバスの話は続く。
「フィデル様は幼少期よりすでに、めきめきと頭角を現しておられました。
3歳の頃には文字の読み書きができ、簡単な計算もできたそうです。
5歳の頃にはすでに治政の事に興味を持ち、いずれは国王になる器だと誰もが噂していたほどです。
その髪は転生者を思わせる綺麗な黒髪で、瞳は海を思わせるような濃いブルーだったそうです。」
そこでセバスはラウルの方へ向かって言います。
「つまり、あなた様のような容姿をしておられました。」




