護衛任務4
誤字報告ありがとうございました。
ラウルは一人、馬車の中で悶えていた。
(うわー、明日お嬢様とどんな顔をして会えばいいんだよ!)
ラウルは生まれて初めてのキスを鼻にするという、前代未聞のミスを犯した。ラウルは前世ではキスもしたことがないモテない男であった。なので仕方がないと思う。
お嬢様にどんな顔をして会えば良いのかさっぱり解らないでいた。非常に気まずい関係になるのではないかと恐れていた。
そもそも、10歳は小学四年生くらいの年齢である。ラウルは小学生にキスをしようと迫った男である。これは犯罪ではないのか?
(これはまずい。。)
ラウルも外見上は10歳の小学生なので、子供同士の遊びということにはならないだろうか。中身が18歳なのでこれほど悩んでしまうが、本来あまり問題にはならないのでは? お嬢様も目をつぶっていたし、同意の上の行為であったと言えないだろうか。
そんなことを一晩中考えていて、あまり眠れないまま朝がきてしまった。
ラウルは最初が肝心だと思った。朝一番にシルフィに挨拶をしよう。それで気まずい雰囲気を刷新しよう。ラウルは馬車から降りると、シルフィを探す。後ろ姿を見かけると挨拶をした。
「シルフィ、おはよう。」
「あ、ラウル。おはよう・・・。」
お嬢様は、俯いたまま頬を赤く染めていたが、挨拶は返してくれた。ラウルは少しだけホッとした。酷く拒絶されたらどうしようと心配していたが、その様子はなかった。
馬車はゆっくりと進み出す。今日の目的地は、スフィア王国の西側国境を守る都市ルーアニアである。ルーアニア辺境伯の治める領都である。オークが出た森の途中から、すでに辺境伯の領地に入っているが、領都まではまだ丸1日かかるらしい。
現在地はすでに森を抜けており、馬車が十分にすれ違うことができる街道を走行中である。森を抜けると、魔物や盗賊との遭遇率は格段に下がる。これからは平和な時間が続くだろう。
何事も無く、馬車の揺れに合わせてコックリコックリと船を漕いでいると、シルフィから声がかけられた。
「ラウル、もうそろそろルーアニアに到着するそうですよ。」
耳元で優しい声が聞こえた。それだけで幸せな気分になる。
「ああ、すみません。少しウトウトしていたようです。」
「あまり眠れなかったのですか?」
「はい・・・。」
(あんなことがあって眠れるかーーーっ、と声を大にして言いたい。)
進行方向には、高くそびえ立つ城壁が見えてきた。ルーアニアは、ニルバーシュと同じく城郭都市である。特に国境に面しているために、城壁もニルバーシュよりもかなり高い。難攻不落の要塞と言っても過言ではないだろう。
門の手前まで来て、一度停車する。
「ラウル様、まったく荷物を積んでいないのも不審に思われます。荷物を戻して貰えますでしょうか?」
「わかりました。」
ラウルはすぐに馬車に行き、荷物を元のように戻した。そして、冒険者達は徒歩で門まで移動する。門の前には長い行列ができていた。この都市は流通の要でもあるため、多くの行商人達が集まってくる。ラウル達も1番最後尾に並んだ。門の所では、衛兵達による検疫が行われていた。
ここでは長めの休息を取ることになっている。明日は各自、自由行動で、明後日また出発することになるようだ。門を抜けるとすぐに解散となった。
ラウル達はすぐに人気のない裏路地に入り、家への入り口を繋げる。女性陣は素早く中に入っていき、ラウルが最後に入ると空間の接続を切った。女性陣はすでに見当たらない。走るように風呂へと向かったようだ。流石に毎日風呂に入っている生活をしていると、野営での湯で体を拭くだけなのは我慢できないようだ。
全員風呂に入った後、あらかじめ用意していた食事をインベントリ内からだす。インベントリ内は時が止まっているようなので、まだ暖かいままである。皆で食事を済ませると、明日は各自、自由行動だと告げ、そのままそれぞれの部屋へと帰って行った。
皆疲れていたのだろう、ベットに横になるともう起き上がることはできなかった。
翌朝、朝食の時に皆の希望を聞く。
ラウルは冒険者ギルトへ向かい、オーク肉の買い取りなどをお願いするつもりだ。
シルフィはラウルについて行くといった。
ニーナは、家に居ることを希望した。ラウルは外に出られなくなるぞと忠告したのだが、それでもかまわないらしい。
朝食後、ラウルとシルフィは冒険者ギルドへ向かい、ニーナは自宅警備についた。
冒険者ギルドは何処の都市でも同じような建物であった。ラウル達は中に入ると、中は酒場も一緒になっているタイプのギルドであった。冒険者達から一瞬見られるのだが、しばらくすると視線はなくなった。おそらく、ただの子供に興味がなくなったのだろう。酒場では朝っぱらから酒を飲んでいる、30代後半くらいのおっさんがいた。他には、パーティと思われるいくつかのグループが、話し合いをしているようである。
ラウルは酒場には用はない。受付に向かうと、オークを討伐したことを報告した。
受付の女性は、オークは常時討伐依頼が出ていることを教えてくれ、報酬も出るらしい。肉も買い取って貰えるそうで、結構なお金になりそうだとラウルは思った。
「えーと、それでオークはどちらに?」
「あ、アイテムボックスの中にしまってあります。何処に出したらよろしいですか? 6体もいるので、結構な広さが必要だと思いますが。」
そう言うと、受付の女性は驚いていた。やはり、アイテムボックス持ちは珍しいらしい。
結局、オークは解体場所で出すように指示を受け、裏に案内された。ギルドの裏には魔物を解体する専門の部署があるらしく、倉庫のような建物があった。中に入ると、受付で大柄の男が座っていた。
「オーク6体の解体をお願いしたいそうよ。アイテムボックス持ちなの。何処に出す?」
「ほう、アイテムボックスとは珍しいな。そうだな、そこの広いところに出してくれ。」
「はい。」
ラウルはオークを広場のような所に積み上げるように出した。
「ふむ、状態は良さそうだな。。肉はどうする?」
「全て買い取りで。」
「わかった。それじゃ、いま明細を書くからちょっと待っててくれ。」
男は羊皮紙にスラスラと何やら書いている。少し待っていると、書き終わったようだ。
「ほらよ。それをギルドの受付に渡して換金して貰え。」
「ありがとうございます。」
ラウルは紙を受け取った。
ラウル達はまたギルドの受付まで戻る。そして、紙を渡すと報酬を受け取ることができた。この報酬はパーティごとに分配しなければいけない。ひとつのパーティに銀貨数枚だが、良い臨時報酬にはなるだろう。
(カランカラン)
酒場の方で、何かが落ちる音がした。ラウルが不思議そうにそちらの方向を見てみると、さっき酒場でひとり酒を飲んでいたおっさんがこっちを見ていた。
(ん? 何だ?)
そのおっさんは、ラウルの方を向いて目を大きく見開いている。口は、顎が外れるかと思うくらい大きく開いて呆けてしまっている。そして大きな手は細かく震えている。
「ま、まさかそんな・・・? い・・・、生きていらしたのですか!?」
そのおっさんは、そんなことを言う。そのままおっさんは立ち上がり、ラウルの方へとイノシシのように突進してきた。その目には大量の涙をためて。目からは大粒の涙がこぼれ始めていた。
(な!? 何だこのおっさんは?)
「ら・・・、ラウル? お知り合い? なんかすごい勢いでこっちくるんだけど??」
「知らない、知らないひとだよ?」
冒険者の装備をしたおっさんは、もうすぐそこまで迫ってきていた。ラウルは意味がわからないまま身の危険を感じてしまっていた。あわてて前方に防御結界を貼る。
【カット】
ラウルの目の前に、青く四角い防御結界が現れる。そこにおっさんがぶつかり、止まったかに見えたが、おっさんの右手が結界にぶつかったと思った瞬間、結界が粉々に砕け散った。
「へ?」
「きゃぁ」
そして、おっさんはその勢いのままジャンピングハグを決めてきた・・・。
「フィ・・・フィデルさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう言ったおっさんは、ラウルをギュッと抱きしめてラウル共々床に崩れ落ちた。。
(え、なに? フィデル? 誰それ。このおっさんも誰?)
ラウルは暑苦しいおっさんにハグされたまま、身動きがまったく取れず混乱していた。




