護衛任務2
商人は御者を三人連れていた。
「今回の依頼を出しました、アベル商会の代表、アベルと申します。多くの冒険者の方に集まって頂き、ありがとうございます。今回は、大規模新規事業のために塩を買い付けに行きます。往復の長旅になりますが、よろしくお願いします。」
アベル商会とは色々と付き合いがある。アベル商会のルクスが醤油工場で工場長をやっている。ルクスに醤油の作り方を指導したのがラウルである。魔法学校に通学し始めた頃にも、アベル商会の次男に絡まれたこともある。今回は、商会の代表が直々に行商に出るようだ。
(へぇ、あのアベル商会の・・・。もしかして、醤油の原材料のための塩を買いに行くんかな。)
「それで、アイテムボックスの魔法が使えるという冒険者さんが、今回は参加してくれていると聞きましたが・・・?」
「あ、はい。俺です。」
ラウルは手を挙げる。
「あ、君ですね。早速ですが、こちらの馬車三台のうち、二台に荷物が載せられています。可能なだけ収納して頂けますか?」
「はい。」
ラウルは早速、馬車の方へ行って馬車ごと収納しようとして、止めた。
(はて、荷台の部分は収納するとして、馬はどうするんだ?)
しばし考えて、都合の良い答えを導き出す。
(あ、荷物を全部収納したら、それだけ俺達が乗るスペースが広くなるな。)
ラウルは、荷台に積んである荷物のみを収納していった。
全ての荷物を収納して戻ってくると、アベルさんがシルフィを見て驚いているところだった。
「え? あ、あなたは・・・」
「あっ! 私はただの冒険者のシルフィですよ!」
どうやら、アベルさんはシルフィの顔を覚えていたようである。慌ててシルフィがアベルの発言にかぶせる。お嬢様の身分がバレてしまうと、あとあと非常にやりにくい。こんなところで畏まらないで欲しい。
「あ・・・、わかりました。シルフィさんですね・・・、よろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ、よろしくおねがいします。」
何故かお互いに深く礼をするふたり。
「すみません、収納おわりましたけど。」
「あっ、ごくろうさまです。どの馬車が1番スペースできましたかね? そちらに冒険者の皆様には乗って頂こうと思っています。」
「荷物なら、全て収納しましたよ? 馬車は全て空です。」
「は?」
「え?」
「そんな馬鹿な!? いくらなんでもあの量を、全て収納できるわけが・・・。」
アベルさんが実際に馬車の所まで走って行く。中を確認すると、確かに馬車の中は空っぽであった。
「ええぇぇ!?」
「これで、冒険者の皆さんもゆったりと旅ができるでしょう?」
「いやいやいや、こんなに収納できる容量のアイテムボックス、聞いたことがありませんよ!」
「そうですかね?」
ラウルは自分の非常識さを、いまいち理解できていないようであった。
(そういえば、前の指名依頼でもそんなこと言われたような気がする。。忘れてたわ。)
そこに、何も考えていないシルフィが後押ししてくれた。
「入っちゃったのだから、別にいいではないですか。」
「あ・・・、はい。うーん・・・。」
シルフィの言葉もあって、その場は落ち着いたようだ。
アベルさんはシルフィに勧めてくる。
「シルフィさん、私と同じ馬車に乗りませんか?」
「え・・・、私はラウルと一緒がいいのですけど。」
「そうですか。ん?ラウルさんですか?」
「はい。ラウルです。初めまして。」
ラウルは一応、丁寧に挨拶をした。
「え? もしかして、”あの”ラウル様・・・?」
「いや、普通の平民のラウルですが・・・。」
アベルさんは目をカッと見開き、口をこれでもかってくらいに大きく開け、驚愕の顔でラウルを見ている。
「えっと・・・、ここでは何ですので、俺達のパーティはアベルさんの馬車にご一緒してもよろしいですかね? しっかりと護衛させていただきますので。」
俺がそう言うと、アベルさんは、
「はいっ! はいっ! 是非、是非、ご一緒させて、く、ください!」
直立不動という様子で、背筋をピンッと伸ばして最上級の礼をするアベルさんであった。
(あまり目立つような仕草は止めてくれないだろうか・・・。)
先頭の馬車は、リサさんのパーティが乗った。真ん中の馬車は、護衛対象のアベルさんとラウルたちのパーティが一緒に乗り込む。最後の馬車に、もうひと組の冒険者パーティが乗るようだ。
出発の準備ができたようだ。アベルさんの号令で、ゆっくりと馬車は進み始めた。
馬車が走り出すのを確認すると、アベルさんは馬車の座席を立ち、シルフィの前に跪いた。
「伯爵令嬢のシルフィ様が、何故冒険者としていらっしゃるのでしょう? 先ほどは、身分を隠していたようですので、無礼な態度で申し訳ありません。」
「い、いいえ。今はラウルと共に冒険者をしているのですよ。社会勉強のようなものです。今後も冒険者のシルフィとして接して頂けないでしょうか?」
「はい、畏まりました。それでは失礼ながら。。」
そう言いながらアベルは座席に座る。
ラウルとシルフィは、アベルと向かい合って座っている。ニーナは御者の隣で辺りを警戒してもらっている。
「それで、あなたが醤油を発明したというラウル様でございますか?」
「それは一応、重要な極秘事項だと思うのですけど。。」
「ひっ、申し訳ありません。。」
「構いませんよ、今後は注意して頂ければ。」
アベルさんは、冷や汗をハンカチで額を拭う。
「できるだけ早くご挨拶に伺うつもりでしたが、こんな形でのご挨拶となり、申し訳ありません。ラウル様のことはルクスから聞いております。この度の、南部再開発事業にもラウル様の口利きで我が商会が参入できました。深くお礼申し上げます。」
アベルさんは座っているにもかかわらず、頭を深く下げる。
「ラウルと呼んでください。ルクスさんが有能だからですよ。良い部下をお持ちですね。」
「ありがとうございます。」
しばらく馬車にゆられること数時間、カンザスの村も過ぎて森に入っていた。ラウルの索敵にどうやら魔物が引っかかったようである。
「すみません、どうやら敵が近づいてきたようです。止めて貰えますか?」
御者の笛の合図で車列は停止した。




