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司法取引

「旦那様、ここは司法取引して敵の黒幕の情報を引き出した方が良いと思います。」

「司法取引? はて、それは何じゃ?」


 しまった。この世界に三権分立なんてなかった。この世界では、司法は国王様の采配で全て決まる。ちなみに、この領地での事件は領主の采配に委ねられる。


「ええと、法を司る者と取引をすることです。旦那様と取引、つまり、命を救う代わりに、知っていることを洗いざらい吐かせると言うことです。」


 ちょっと、司法の説明が適当だったかもしれない。司法の定義なんて知らん。


「しかし、娘を殺されかけたのだぞ? それを無罪にはできんぞ。」

「いいえ、無罪にするのではありません。死罪をひとつくらい軽い処罰に変えるだけです。」

「ひとつ軽い処罰となると・・・、終身犯罪奴隷の刑になるかのぅ。」


 終身犯罪奴隷、つまり一生犯罪奴隷として生きるということ。通常、奴隷というと王国の法律で最低の人権が保障されている。しかし、犯罪奴隷には人権はない。その者は人ではなく、物として扱われることになる。


「しかし、犯罪奴隷に落とすとしても、娘を殺そうとした者を側に置いておくつもりもない。かといって、目の届かないところで敵側の犯罪奴隷となってしまうと、また襲ってくるやもしれん。」

「そうですね、今後も監視が必要になってくるでしょう。」

「そんなことなら、殺した方が安心ではないか?」

「相手の情報を引き出さないで殺しても、また次の追っ手がやってくるだけですよ? 情報を引き出すことができれば、少なくともこちらから仕掛けることは可能でしょう。」

「ううむ・・・、厄介な。。」


 旦那様はしばらく悩んでいたが、ふと何か良い思いつきでもしたように顔をあげた。


「そうじゃ、お主、異次元空間に捕らえることができると申していたな?」

「はい。」

「それでは、そこでずっと捕らえていればよかろう。」

「え・・・。」


「それに、腕は相当に立つと聞く。有事の際、お前が指示を出し敵に向かわせろ。こちらの戦力として使えば少しは有益であろう。それに、敵に殺されても少しも痛くはないしな。」

「え・・・、それは俺が暗殺者の主人になれと言うことでしょうか?」

「うむ、そうじゃ。そのようにしてくれ。」


 こうして、先ほどのヒーラーは俺の犯罪奴隷として死ぬまで生きることになった。。


「それでラウルよ、今日夕食後に執務室に来てくれ。また娘を救ってくれた礼がしたい。」

「はっ、畏まりました。」


 旦那様は衛兵達と牢屋がある詰め所へ向かった。

 奴隷の件はまた後日になりそうだ。


 マルクが戻ってきた。


「ラウル、エミリなんだが。」


 マルクはエミリさんを探しに行っていたはずだ。


「俺のクラスの者が、エミリさんが連行されていったと言っていた。どうやら、別人に入れ替わっていたのではなく、能力を隠していたみたいだな。」

「そうでしたか。先ほどフードを脱いでいたようなので、しっかりと顔を確認できたのでしょう。」


 どうやら、マルクのクラスメイトのエミリと呼ばれる者は、先ほどの暗殺者と同一人物らしい。もしかしたら、今日のために、かなり以前から学園へ潜入していたのかもしれない。

 

 その日の夕食後、ラウルは旦那様に呼ばれて執務室へ向かった。


「ラウルです。」

「ああ、入ってくれ。」


 旦那様は執務室の椅子に座っていた。


「今回も娘の命を救ってくれてありがとう。」


 旦那様はまた平民のラウルに頭を下げる。


「娘から話を聞けば、相手の短刀が首筋まで迫っていたと聞いた。。ゾッとしたぞ・・・。」

「はい、今回の女は異常な素早さで、俺の攻撃も軽く躱されていました。俺が一発でも攻撃を食らっていたら、間違いなく倒れていたと思います。」

「それほどまでに・・・。」

「はい。後で聞いた話ですが、あれはスキルの『超加速』ではないかとのことです。」

「なんと・・・。そんな相手によく娘を守ってくれた。改めて礼を言う。」

「いえ。仕事ですから。」

「それで、報酬は何が良い?何か望みはないか?」


 きたー・・・。ここで断れば失礼に当たるのだ。しかし、考えても欲しいものなどない。今の環境がそれだけ充実しているのだ。


「旦那様、もしよろしければ旦那様に決めて頂きたいと思います。」

「ワシがか?」

「はい。」


 もう旦那様に丸投げすることにした。


「そうじゃな、では、お主には冒険者になってもらおうと思う。」

「え・・・?」


 冒険者? それが褒美ですか?


「正直に言おう、ワシはお主に期待しておるのじゃ。だからの、投資をしたいのじゃ。」

「はあ。」


 あ、やべえ、嫌そうな声が出てしまった。


「聞けば、お主はまだレベル1なのだろう?」

「はい。」

「魔法だけでその強さを持っているのじゃ。レベルが上がってベースの強さが上がれば、お主はとてつもなく強くなれるのではないかと思ってな。」

「し・・・、しかし、お嬢様の護衛もしなければいけませんし・・・。」

「ああ、今回の学校内の襲撃を防げなかった落ち度で、学校側にうちの家の護衛を置くことを了承させたのじゃ。だから、今後娘の護衛は常に5人は校内でも付くことができる。」

「なるほどぉ・・・。」


(俺って、お役御免なんじゃね?)


「もちろん、冒険者に必要な装備やアイテムなどは全て伯爵家で持つ。お主はレベルを上げることに専念してくれんかのぅ。」

「わかりました、わたくしは冒険者として全力でレベルを上げることに致します。」

「うむ、期待しておるぞ。」


 ラウルが深く礼をして、部屋を出ようとすると


「ああ、待て待て。まだ渡す物がある。」

「はい?」

「まず、先立つものがないとの。これと・・・」


 そう言って、旦那様は机の上に金貨が詰まった革袋をドスッと置いた。


「え!?」

「あと、これはこの家の者であることを示す短剣じゃ。」

「え、この様な物まで?」

「うむ、何かあるとそれを見せるが良い。伯爵家が後ろ盾になるということだからな。」

「あ・・・、ありがとうございます。大切にします。」

「うむ。それは、刃は落としてあるので戦闘には使えないからな?」

「畏まりました。」


 こうしてラウルは、旦那様から1000万ゴールドと、金の装飾がされた短剣を頂いた。金貨、一枚10万ゴールドである。革袋には金貨がぎっしりと100枚も入っていた。。


「そして、いつでもこの家に帰ってきていいからな。」

「ありがとうございます。」


 ラウルは深く礼をし、部屋を出た。

 翌日、ラウルは朝食の場で最後の挨拶をし、屋敷を出たのだった。お嬢様は、強く反対していたが旦那様が抑えていた。


「やはり、思うようにはいかないなぁ。このまま、のんびり客人として伯爵家にお世話になりたかった・・・。」


 つい、本音が出てしまった俺だった。


 まずは犯罪奴隷を引き取りに、ラウルが居たこともある、奴隷商人の店に行けと指示があった。旦那様からの書類を預かっている。

 

 ラウルはゆっくりと平民街の方へと歩いて行った。




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