空間魔法の中級編
修学旅行から数日後、ラウルはひとり学園の図書室に来ていた。
ラウルたちの学年は、修学旅行のトラブルのせいで休校となっている。お嬢様も自宅でのんびりしている。精神的にはもう落ち着いているようだ。
早速図書館の受付で聞いてみた。
「すみません、閲覧禁止エリアの閲覧許可を頂いたのですが、入っても大丈夫でしょうか?」
「はい、失礼ですが学年、クラス、お名前をお願い致します。」
ラウルは学年とクラス、名前を受付のおばさんに伝えた。データを参照してもらった結果、問題なく閲覧禁止エリアに入ることを許された。
始めて入る閲覧禁止エリアを注意深く歩く。いろいろな本が並んでいる。その中で目的の空間魔法中級編を比較的簡単に発見することができた。貸し出しは禁止されているため、読書する場所でゆっくりと読んでいく。中級編は、実際に異次元空間を作り出す方法が書かれてあった。これがおそらくアイテムボックスの基本となる部分ではないだろうか。
実際に使ってみた。
【クリエイトエリア】
この魔法が汎用的な空間を作り出す魔法らしい。イメージ次第でどのような空間も作り出せる。ただ、その空間を維持するには膨大な魔力が必要だと記載されている。
ステータスを表示してみると、確かにMPの値が少しずつ減少している。しかし、ある程度減るとまた最大値まで回復した。どうやら、今作成している空間を維持する魔力量よりも、ラウルの魔力自然回復量が上回っているようだ。
本を読み進めていくと、面白いことがわかった。実は『クリエイトエリア』は今後でてくる空間魔法の『アイテムボックス』系の魔法にも、瞬間移動の『ワープ』にも使われている。
『アイテムボックス』は、単純に『クリエイトエリア』の集合体であると言える。アイテムを追加で収納する度に、『クリエイトエリア』で空間を追加していくのだ。その追加や削除を簡単にするために便宜上『アイテムボックス』と呼ばれる魔法が開発されたのだ。
『ワープ』は、酸素など、術者が生存可能な条件を満たした領域である『クリエイトエリア』を作成し、術者がその中に一旦入る。次に、転移先に『クリエイトエリア』内から出口を繋げることで瞬間移動を実現している。この魔法も、術者が転移先をイメージするだけで、後は『ワープ』が細かいことはすべてやってくれるという訳だ。
つまり『アイテムボックス』や『ワープ』は、『クリエイトエリア』を意識することがなく簡単に行使できるようにプログラミングされた魔法だと言える。
ラウルはなんだか楽しくなり、早速自分が生存可能な『クリエイトエリア』を作成することにした。空気が充満していて、ラウルひとりが入れるほどの領域を作るイメージをして呪文を唱える。
【クリエイトエリア】
すると、ラウルの目の前にうっすらと青く光る立方体の空間が出現した。丸みを帯びた入り口のようなものもちゃんとある。試しに中に入ってみると、息ができなかった。ラウルは慌てて外へ飛び出した。
(あぶねぇ、失敗か?)
生存可能ではない領域ができてしまったようだ。ラウルは再度魔法を試みる。今度は、明確に空気をイメージしながら。空気は、窒素と酸素と少しの二酸化炭素が含まれた気体の集合体・・・と必死にイメージする。そして再度唱えた。
【クリエイトエリア】
再び作られた空間は成功のようだ。空間の中でも息ができる。イメージが重要なのだと思った。次の段階へと進む。ラウルは入ってきた入り口を閉じるイメージをする。すると、ふっと入り口が消えて青い壁が見えるだけになった。成功だ。
今、ラウルは、完全に世界から消滅している。今、存在しているのはラウルが作り出した異次元空間だ。
(やばい、楽しい。)
次にラウルは、王都へ行った時の検問所をイメージする。あの検問所につながれっとイメージすると、前方の壁がすっと開いていき前方には少し前に訪れたあの検問所があった。
(おおー! 瞬間移動成功だ!)
ラウルは10歳にして瞬間移動を習得した。それも、呪文の『ワープ』を使わずに、『クリエイトエリア』のみでの成功だ。
続けて、今度は『ワープ』を使用して図書館へ戻ろうと思う。ラウルは転移先の図書館を頭の中に鮮明になるまで必死でイメージをする。そして、唱えた。
【ワープ】
すると、一瞬で周りの景色が変わった。周りには本棚が沢山ならんでいる。本の匂いも漂ってきた。成功だ!
『ワープ』だと一瞬で景色が変わるんだな。おそらく、『ワープ』が発動した瞬間に、生存可能な『クリエイトエリア』が自動生成され、その中に閉じ込められ、一瞬で転移先である図書館に吐き出されたのだろう。
戦闘などでは敵の背後に『ワープ』すれば、簡単に相手の隙を突けそうである。
その少年は、無我夢中で転移魔法を習得した。それが、王国で唯一の転移可能な空間魔法術士の誕生だった事を誰も知らない。




