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修学旅行へ行こう3

 皆が寝静まった頃、ラウルは眠気と戦いながらも【サーチ】で宿屋周辺を警戒していた。

 宿屋周辺には冒険者も警戒しているはずだが、その目をくぐり抜けて宿屋の裏側に接近している者がひとりいる。裏側からよじ登ってくるかとも思われたが、地上でじっとしている。

 ラウルはある予感を胸に抱き、すぐ部屋を飛び出した。


「おい、宿屋の裏に誰かいるぞ!」

「なに?」


 護衛の者に異常を伝えると、その者は走って確認にいってくれた。すると外で大きな叫び声がした。


「火事だーーー! 宿屋の裏が燃えてるぞー!」


 どうやら放火だったようだ。ラウルはお嬢様の部屋に飛び込んで、寝ている保護対象を抱きかかえ部屋を飛び出した。この時代、エレベーターなど無いので、階段で降りていくしかない。煙が登ってくるとやっかいだ。。


「お嬢様火事です! もう目を覚ましましたか?」

「はい! はい! もう、バッチリです。」


 お嬢様は少し挙動がおかしかったが、ラウルは彼女をその場に立たせて急いで階段を共に走って降りる。流石に担いだまま階段を降りる体力は、10歳のラウルには無かった。火は、気づくのも早かった為、大事には至らなかった。魔法使いが【ウォーターボール】で消火したらしい。壁も多少破壊されていたが、死者がでなかっただけ良かったと思う。


「はぁ・・・、夜這いに来たのかと思いましたわ・・・。」


 お嬢様が何か言っていたが、聞き取れた者はいなかった。


 日が昇った頃、すでに皆疲れ果てていた。


「流石にこのまま修学旅行を続けるのは危険だと思います。中止にしませんか?」


 ラウルは先生に進言する。放火した犯人も捕まっていない。


「そうですね、放火の件で街の衛兵達から事情聴取があると思いますし、このまま続行は難しいと思います。」


 先生も中止に賛成のようだ。


「嫌ですわ!」


 お嬢様は反対だった・・・。


「だって、生まれて初めての修学旅行ですのよ?」

「お嬢様、このまま続けていても危険が増すばかりだと思われますよ?」

「あら、そのために冒険者の護衛を雇ったのではなくて?」


 結局、お嬢様の鶴の一声で続行が決定。事情説明のために先生がひとり宿屋に残ることになった。

 

 馬車はのんびりと進み始める。街道も次第に大きく広くなり、交通量も増えてきた。王都へ近づいてきた証拠である。人が増えたことで、盗賊などから襲われなくなり、一泊、また一泊と旅の行程は進む。一行は何事も無く王都へと到着した。ニルバーシュ領から三泊四日の旅路だった。


 スフィア王国の王都はアルジェと呼ばれている。昔は高い城壁で囲っていた城郭都市だったが、今現在では人が多すぎて壁の外にまで住宅やテントが建っている。城壁内に住むためには市民権が必要で、貴族や市民権を取得している平民は城壁の内部に住み、貧しい平民は市民権を取得できず、城壁の外で暮らしていた。


 城壁の内部には城が存在している。城の周りには城下町があり、その外側を回り込むように湖がある。正確には堀と言うべきなのだろうが、堀の規模が大きすぎて、湖の上に城下町が建っていると言った方が正確かもしれない。城下町へは一本の橋で渡ることができる。城下町は村がすっぽり入るほど広大で、王族や大臣などの住居などが建っていた。


 街道には検問所が建っていて、一応ここから先が王都であるという目印になっている。

 検問所に先触れを出していたおかげか、馬車が到着するとスムーズに王都内へ入ることを許された。もちろん、馬車内や荷馬車の検査は軽く行われている。

 またしばらく馬車を走らせていると、城壁に大きな門がある場所へとたどり着いた。そこから先は、市民権を持っていないと住むことはできないが、観光目的で当然入ることは可能である。しかし、前回の検問所とは比較にならないほど厳重な検査・検疫が行われる。

 だが、それでも伯爵令嬢であるお嬢様の馬車はフリーパス状態であった。


「お嬢様、王都にようやくたどり着きましたね。」

「ええ・・・、長い道のりでしたわ。早く宿へ向かいましょう?」

「はい、その予定です。」


 馬車の列は、王都の有名な高級宿へと向かっていった。


 王都でも有数の高級宿、貴族御用達の宿である。そこに馬車で横付けすると、宿の従業員が手早く誘導してくれる。ラウルたちは案内されるままに、宿の最上階の部屋へと入る。放火のあった宿と同じような作りであるが、部屋の広さは倍以上ある。そこに、二人取り残された。


 もう一度言う、二人取り残されたのだ。


「ええと、お嬢様? これまでのように先生がいらっしゃるのですよね?」

「そのように手配されているはずですけど?」

「そう言えば、以前放火されたときに、先生ひとり残してきませんでしたっけ?」

「ええ・・・。えっと、何か嫌な予感がしますわ。」

「はい、自分もおそらく同じ考えを・・・。」


 ここの部屋の責任者である先生が、まだ到着していなかった。そして、他の先生達もそれぞれの持ち場が決まっていた。


 ラウルとお嬢様は、リビングでふたり見つめ合う。




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