修学旅行へ行こう2
馬車はのんびり走っている。しかし揺れはひどいものがある。早速、同じ馬車に乗っている同級生が顔を青くしている。お嬢様は車酔いなどは平気そうだ。
護衛の冒険者は2PT、10名である。ランクは両PTともCランク。冒険者ギルドのランク分け制度は、一番上がSランク。次にAから順にEランクまである。Cランクであれば中堅クラスである。守られる側は教職員含めて20数名。貴族の子供達がほぼ不参加なので、かなり少ないことが幸いした。ひとりあたり二人守り切れば大丈夫な計算である。
馬車は5台。大きめの馬車が4台と、荷物などを載せた荷馬車が一台の編成だ。お嬢様の荷物は当然ラウルが収納している。
ラウルは空間を把握するための時空間魔法、【サーチ】を頻度多めに使用して周りの警戒に当たっている。お嬢様がかまってちゃんになっていて大変なのだが。
「ラウルー、こんなに遠くまで親の同伴も無しに出かけるのは初めてよー。なんだかワクワクしてきたわ。」
「そうなんですね。しかし、盗賊に狙われやすいので馬車での移動中は要注意ですよ。」
「えー、こんな昼間から襲ってきたりするの?」
「わかりません。」
魔法の修行を始めてからもう2年が経つ。初めのうちは家庭教師のシエルに教えを請うていたのだが、半年が経った頃、家庭教師を辞めてしまった。理由を伺うと、「もう私に教えられることはない」と無表情で言われたのだった。先生は空間魔法に適性が無かったので、ラウルに空間魔法を教えることができなかったのだ。
家庭教師の後からは空間魔法の参考書を読みながら、独学で修行中だ。
【サーチ】の魔法も初級の空間魔法で、生成した魔力を飛ばすことで周囲の魔力を感知・調査するというもの。かなり便利な魔法ではあるが、魔力に反応するため、相手が魔物なのか、人なのかの区別もつかない。距離と相手の数くらいしかわからないのだ。
ちなみに、今現在もつけられている。
俺たちの後方からずっと一定距離を取ってついてくる魔力を感知している。まず間違いなく敵の斥候だと思う。もしも魔物ならばとっくに襲われている。しかし、もしかしたら味方の情報収集のための部隊かもしれないが、少なくともうちの護衛のメンバーの中にそのような者はいない。
まもなく、今日の宿がある街へと到着する。その前に、後ろの一名を捕まえることになった。車列を一旦止めてラウルと冒険者の1PTが後方に向かう。向こうはまだ気がついていないようで、馬車の進むスピードでラウルたちの方へ向かってきていた。
「もうすぐ視界に入ると思います。可能なら捕縛してください。」
「わかった。」
数分後、ひとりの黒ずくめの人間が飛び出てきた。予定通り、冒険者達が襲いかかる。
「な!?」
魔法使いが身動きが取れなくなる【バインド】と呼ばれる魔法を詠唱し、敵の動きを封じる。硬直した敵に向かって剣士が足を狙って切りかかる。
「くっ・・・」
敵は、刀を抜いて応戦しようとする。ラウルは、その刀身を綺麗に包み込むようにイメージして【カット】を唱える。すると刀の刀身は綺麗に消えていた。
「へ?」
斥候は変な声を上げて驚いている。そのまま呆然と立ち尽くす相手を、拘束するのは容易なことだった。あとの始末は冒険者と教員に任せてお嬢様の元へ急いで戻る。護衛として一時も側を離れるわけにはいかない。
「お嬢様、ただいま戻りました。」
「ご苦労様。それで敵だったのかしら?」
「わかりません、これから調べることになると思います。でも黒ずくめでしたし、怪しい人物には変わりません。」
「そう・・・。」
お嬢様も流石に少し心配の様子。
馬車はゆっくりと宿のある街へと入っていく。街といっても、家と家の間隔はすごく広い。間には畑が広がっている。少し馬車で走っていると前方に一際大きな宿屋が見えてきた。今日はこちらで泊まる予定だ。
夕食は生徒全員で食べる。お嬢様は初めての経験らしく、実に楽しそうに友人たちと食べている。これほど大人数で食べるのも修学旅行の良いところだと思う。
ラウルとお嬢様は最上階の1番大きな部屋に泊まることになった。もちろん同じベットで寝るわけではない。2LDKになっておりその中の個室をそれぞれが使う形だ。リビングには先生が、部屋の外には護衛が交代で番をする。
しかし、何故かラウルの部屋にお嬢様がいる。
「え? お嬢様の部屋は向こうでしょ?」
「えー、少しくらいいいでしょう?お話しましょうよ。」
「駄目ですよ、先生も外にいるはずですよ?」
「修学旅行の夜はお友達と夜遅くまで内緒の話をするそうよ?」
「それは同性の友達とですよ!」
「そうなの?」
お嬢様は文句を言いながらも自分の部屋に戻っていった。前世なら枕投げする場面だが、今日は大人しく寝よう。
そして皆が寝静まった頃、招かれざる客がやってくる。




