男の嫉妬は見苦しい
醤油の原材料を全て発見した。次の日の学校は酷く長く感じた。
(早く原材料を買いに行きたい。)
幸いにも、小麦と塩くらいならば買うお金は残っている。ラウルは学校が終わるのを、まだかまだかと待ち続けていた。もちろん、自身の任務に関しても手を抜いてはいない。
「やあ、シルフィ様、本日もお美しい。」
「あら、嬉しいですわ。ごきげんよう、マルク様」
いつもは特に接触してくる者はいないのだが、今日は貴族と思われる男がシルフィお嬢様に声をかけてきた。シルフィお嬢様も相手を知っているようで丁寧に返事をしている。もしかして位の高い方だろうか?
「ふと小耳に挟んだのだが、シルフィ様の荷物持ちがこのクラスに編入してきたとか?」
「ああ、それでしたらラウルの事ですわね。」
シルフィお嬢様がこちらに視線を送る。挨拶した方が無難のようだ・・・。
「お初にお目にかかります。シルフィ様の荷物持ちのラウルと申します。以後お見知りおきください。」
ラウルは、頭を下げて礼をつくす。
「・・・。」
(あれ、無視ですか?)
まぁ、本来ならば当然の反応である。奴隷のラウルと会話をするのも嫌なのかもしれない。
「シルフィ様、見た感じ奴隷のようですが・・・?」
「ええ、奴隷ですが非常に優秀なので当家で使用人として働いてもらってますのよ?」
「使用人!?」
やはり、奴隷で使用人として貴族の屋敷で働けるのは、ありえない待遇らしい。ラウルもそう思えるのだから間違いないだろう。
「う・・・、使用人なのは解った。。しかし、何故Sクラスに入っているのか納得がいかないのです。シルフィ様の荷物持ちならば、別に編入してくる必要もないでしょう? 侯爵家の嫡男の私でさえ、Aクラスで次こそはSクラスへと思っていた矢先に、いきなりSクラスに編入してくるなんてどんな手を使ったのです?」
(こいつは侯爵家の子供か。それでシルフィお嬢様も、丁寧に答えているのか。なるほどね。)
「それは、私に言われましても困りますわ。先生方に言って頂かないと。編入試験を受けさせたのは父様ですし、このクラスに入れたのは先生方ですわ。」
「どうせ権力を使って無理矢理ねじ込んだのでしょう?」
「いいえ、実力ですわよ。編入試験の結果は全て満点だったそうですわ。」
「なにぃ? 嘘だ! 奴隷がそんなに頭が良いはずがないだろう!」
(ええ、普通はそうですね。奴隷が教育を受けているなんて普通はありえません。しかし、この男少し熱くなりすぎてないか。お嬢様に殴りかかったりしませんよね?)
「侯爵家の方ともあろう者が、人の家の使用人に嫉妬ですか? 申し訳ないのですが、帰ってもらえませんでしょうか・・・。」
「なっ・・・くっこのぉぉぉぉぁぅぅぁぉぇ○×△□!!」
何を思ったのかこの男、お嬢様に向かって右手を振り上げました。右の拳はしっかりと握られている。
(おいおいおい。普通、女の子をグーで殴るか?)
とっさに魔力をこめてバリアを張ろうとしたが、流石に間に合いません。ラウルは慌ててお嬢様の前に飛び出します。その瞬間、拳がラウルの鼻にめり込み、そして意識を失った。
(うわー、かっこ悪いだろ俺。)
「ちょっっ ラウル!? ラウルーーーーー!」
(お嬢様の叫び声が遠くで聞こえる。すみません、お役に立てなくて。)
◆
気がつくと、ラウルは保健室のベットの上で寝ていた。どうやら、殴られて気を失ってここまで運ばれたらしい。
「気がついたみたいね。」
声が聞こえてきた。左側を向くと、お嬢様が椅子に座っていた。
「お、お嬢様。も、申し訳ございません。気を失っていたようです。」
「あ、大丈夫よ。まだ安静にしてて。私は無事だったから。ありがとう、ラウル。」
お嬢様がやさしくラウルの頭を撫でている。
(うわー、照れくさいのですけど。鼻には何か詰められているようで、鼻血でも出したのかもしれない。うわぁ、かっこ悪い。たぶん今の俺の顔、すっごい不細工だな・・・。)
「幸いにも鼻の骨には異常は見られないそうよ。脳しんとうを起こしていたみたいだから、しばらくはゆっくりしてないといけないみたい。」
「そうなんですか。すみません、かっこよく魔法で防御するつもりが、詠唱している余裕もなくて。かっこ悪すぎですよね。恥ずかしすぎる。」
「ううん、とてもかっこよかったわ。」
(やばい、お嬢様がデレている。)
その後、学校が終わるまで俺は保健室で強制的に寝かされていた。お嬢様は授業に戻っていった。これは、ラウルの護衛としての役目は失格ではなかろうか?
帰りがけ、体調不良を理由に護衛の方に、小麦粉と塩を買ってきてもらうようにお願いした。あまり酷い場合は教会で回復魔法をかけてもらう事もできるらしいが、断った。そこまでしてもらわなくても大丈夫だ。
醤油作りは明日に持ち越しである。




