シルフィお嬢様と買い物
編入試験が終わった後、お嬢様が戻ってくるまで馬車で待機していた。
前回の買い物が襲撃によって中止になったので、お嬢様の希望で本日買い物へと行くことになった。馬車はゆっくりと商店街へと向かっている。後方からは護衛が6人に増えてついてきている。ラウルの分の衣服も一緒に購入する予定になっている。
「そう、編入試験は問題なかったのね、よかったわ。」
「はい、ありがとうございます。」
馬車の中で編入試験合格のお祝いの言葉をいただいた。
◆
ニルバーシュ領の領都は、貴族街と平民街に分けられている。
貴族街の最も北側には領主の屋敷が建っており、扇状に南に広がっている。南に行くほど屋敷は小さくなり、1番南には貴族御用達の商店が並ぶ。商店の南には平民街へ続く門がある。当然、衛兵が警護している。
貴族街から門を出て平民街に入ると、まずは大きな商店街に出る。その辺り一帯を商業区と呼ぶ。ここには貴族も買い物に来る。平民でも比較的裕福な者はよく足を運ぶ。
商店街より少し西に行くと商業ギルドや、生産系ギルドが多く集まる。ここに魔法学校も含まれる。さらに西に行くと西門がある。
商店街より東に行くと、冒険者ギルドや宿泊施設が並ぶ。さらに東には東門がある。
商店街より南に行くと平民の居住区がある。教会や孤児院、奴隷商人の店などもここにある。南に行くほど平民でも貧しい者が住む地域になる。自然と治安も悪くなってくる。貴族は当然のことながら平民の居住区には足を踏み入れない。
今回は、貴族街へ行く門のすぐ近くにある既製服を売っているお店に立ち寄った。
貴族街の仕立屋は、全てオーダーメイドとなっているため、時間もかかるし値段も高い。なので、お嬢様でも普段着のような服は既製服を購入することが多いのだという。奴隷であるラウルは当然既製服である。今回は、ラウルが学校へ着ていくための服を購入するのも目的の一つだ。
ラウルは当然のようにお嬢様の買い物を優先するべきだと思い、お嬢様の後ろについていく。すると、何故かお嬢様はラウルの服ばかり選んでいて、これでもない、あれでもないと侍女と言い争っている。
「お嬢様いけません! 使用人がこのような高価な服を買ってもらうなど。しかも、お嬢様自らのお小遣いから支払うなんて、絶対に駄目です。」
「なんでよ、せっかくラウルが頑張って編入試験に合格したのよ? お祝いしないといけないでしょう。」
「しかし、使用人がこのような服を着るなど・・・、いつもの執事服でよろしいのではありませんか?」
「ラウルはこれから仕事としてではなく、あくまで自分のために勉学に励むのですよ?」
「いいえ、お嬢様の荷物持ち兼、護衛の任もあると聞いておりますし。執事服で十分でございます。」
「いい? 考えてみなさいよ、私の周りにいつも執事服のラウルが待機している状況を。ラウルの学園生活にとって、良くないに決まっています。」
(うん・・・、会話に入れません。入りたくもありません。どうでもいいけど、早く帰って魔法の練習させてほしい。もちろん、そんなこと口が裂けても言えませんけどね。)
その後、お嬢様が自分の服を物色し始めました。いくつか服を試着する度にラウルに聞いてきます。
「これ、どうかしら?」
「はい、とてもお似合いでございます。」
「それじゃ、これは?」
「はい、それもとてもお似合いでございます。」
「うーん、じゃぁこれは?」
「はい、それもとてもお似合いでございます。」
「・・・もういい。」
何か不満があるようです。
(女心は難しいな。)
「どの服も、お嬢様の美しさを十分に引き出されていて素敵ですよ。」
「そ、そう? あ・・ありがとう。」
(おや? お嬢様がデレた?)
お嬢様はうっすらとお顔を赤く染めています。
◆
家に帰ってから旦那様に面会を申し込みました。もちろん、編入試験についてと入学手続きの書類などをお渡しするためです。
「失礼します。」
「おう、ラウル。学校はどうだったのだ?」
「はい、編入試験を受けるように言われましたが、問題なく合格できました。」
「試験を受けろと言われたのか? ・・・むぅ。」
何やら不機嫌になった。。
「それでこちらが成績表と、こちらが入学手続き書です。旦那様にお渡しするようにと。」
旦那様が成績表を受け取ると・・・。
「なんだこれは!? 満点じゃないか!?」
「はい、簡単な試験でしたので。。」
「そんなはずないのだが・・・、王国でも一番の難関校だぞ?」
(そんなこと言われても、『前世の知識があるから簡単でした』なんて言えないしな。)
「えーと、一応元貴族らしく、幼い頃から勉強してきたらしいので。読み書き計算は得意なのです。」
「何!? 元貴族だと? 何故そんな大事なこと今まで黙っていた?」
(しまった、貴族の話を出したのは失敗した。神様から聞きましたなんて言えない。どうしよう。)
「物心ついたときにはもう盗賊の奴隷として働いていましたので、証拠となる物は何もありません。ただ、奴隷商人が言うにはかなり育ちは良かったようです。それでもしかしたら貴族だったのかもと言われたことがありまして。元貴族というのは言い過ぎました・・・、申し訳ありません。」
「そうか・・・、しかしこの成績なら、幼児から英才教育を受けていたとしてもおかしくはないが。まったく記憶はないのか?」
「はい、両親の顔も名前も覚えていません。何故か、文字の読み書き、簡単な計算は得意のようです。」
「当時着ていた服とか残っていないのか?」
「はい、まったく何も。」
「うーむ・・・、困ったな。もしも貴族の嫡男だとすると、あとあと面倒に巻き込まれるかもしれん。一応、こちらでもお主のことは少し調べておくとする。」
「はい、わかりました。」
「よし、明日からは勉学に励むように。それと、娘のことも頼むぞ。」
「はっ、畏まりました。」
ラウルは、深く一礼して執務室を出た。




