第10話 王立クハナ魔法学園 編入試験
「えー? なんで奴隷が学園の中にいるわけ? 入る場所じゃないでしょ?」
無視して歩こうとしたラウルの肩を、男が掴んで引き戻した。
「おい、聞いてんのか?」
「はい。自分はシルフィお嬢様の荷物持ちでございます。不要な接触は禁止されておりますので、ご理解頂ければ幸いです」
丁寧に頭を下げると、男は怪訝な顔をした。
「シルフィお嬢様……? 領主様のご令嬢の?」
「はい、そうでございます」
そこへ、涼しげな声が響く。
「あら? あなたは確かアベル商会の次男さんでしたわよね。うちの使用人に、何かご不満でも?」
にこやかな笑顔とは裏腹に、目はまったく笑っていない。背後にゴゴゴゴ……と不穏な音がしそうなほどの威圧感があった。
(ひぃ……お嬢様、迫力ある……)
「い、いえっ! なにも! し、失礼します!」
男は逃げるように走り去った。
「ラウル、行きますわよ?」
「はい、お嬢様」
学園の校舎は、前世の学校に似た四階建てのコンクリート造りが二棟並んでいる。この世界にもコンクリート建築があるらしい。
1階の職員室に入ると、教師が慌てて駆け寄ってきた。
「こ、これはシルフィ様。ご用件は?」
やはりこの学園でも、お嬢様の影響力は絶大らしい。
ラウルはインベントリから旦那様の書状を取り出して差し出した。
「お、アイテムボックスですか? また優秀な――」
「いいえ先生。彼はインベントリスキル持ちですの」
「……ほぉ。それはまた凄い。どうぞこちらへ」
応接室へ通され、お茶が出される。ラウルは控えようとしたが、お嬢様に隣へ座るよう軽く促された。
書状を読んでいた先生は、途中から冷や汗を流し始めた。相当な“圧”が込められていたらしい。
「こちらの……ラウル様ですね?」
「自分であります」
「その……編入には形式上、試験を受けていただく必要がございまして……」
「問題ありませんわ。ラウル、受けなさい」
「えっ……分かりました」
(試験があるなんて聞いてないけど……大丈夫だよな?)
その日の午後、ラウルは編入試験を受けることになった。
◆国語
読み書きができればほぼ合格。ラウルには余裕そのもの。
◆算数
足し算・引き算・簡単な文章題。
前世の知識を持つラウルには非常に易しかった。
◆実技試験
二十メートル先にある的へ魔法を命中させれば合格。
ラウルが使える魔法は空間魔法『カット』のみ。
「準備ができましたら、どうぞ」
試験官の声を聞き、ラウルは右手を前へ出す。
魔力が集まり、空気がひんやりと満ちていく。
的を囲む立方体のイメージを固め――。
『カット』
青白い光が走り、次の瞬間、的は跡形もなく消えた。
切れたのではなく、“空間ごと消失した”と言った方が正しい。
「な、何が……?」
教師たちはただ呆然とするしかなかった。
試験官はしばらく固まっていたが、ラウルの問いで我に返る。
「試験官殿。これで終了でよろしいでしょうか?」
「あっ……はい! 問題ありません! 試験はこれで終了です!」
慌てて書類に合格印が押された。
ラウルも胸を撫でおろし、ほっと息を漏らした。
こうして、ラウルの実技試験は静かに幕を閉じた。
◆試験結果
国語:満点
算数:満点
実技:満点
文句なしの合格である。
教師たちからは「ぜひ入学していただきたい」と頭を下げられ、
特待生として入学金免除の話まで出た。
――こうして、明日からラウルの学園生活が始まる。




