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怨念

 それ(・・)は全てを憎み始めていた。

 自分が人々のことを思ってやってきたことに対して帰ってきた答えが自分の退位を求める反乱だったからだ。

 確かに最近は上手くいってなかったかもしれない。しかしそれは、遠くない未来に結実してくれることを微塵も疑っていなかった。今は苦しくても必ず豊かな未来が待っていると。

 周りの臣下達もその理想に賛同してくれていたから、それは自分のやることに自信を持って取り組んでいた。

 なのに、なんで責められて攻められているのか。それは全く理解出来なかった。

 褒め称えていた臣下は国軍が劣勢に立たされていくごとに手のひらを返したように罵倒し、反乱軍へ寝返っていった。

 その結果、国を動かす力を剥奪されたそれは失意の元、かつて攻めていた隣国へと密入国するしかなくなった。

 見つかれば殺される。自分の理想を実現させるためにもそうなることは絶対に許されなかった。

 反乱軍と、それから要請を受けた隣国軍の捜索網を必死に切り抜けたそれと数少ない同志達はある洞穴にたどり着いた。

「オーガ、ここで敵が来ないか見張っていてくれ」

「ガウ」

 特殊な魔導によって小さくされていたオーガを元の大きさに戻して用心棒役を頼んだそれは久々に張り詰めていた神経を緩ませてその場に座り込んだ。

「ほら、お前達も」

 それはずっと守ってくれた部下達に座るように手招きした。しかし部下達はその言葉に応じようとしなかった。

「ほら、どうした。こんな時に遠慮なんてしなくても」

「申し訳ありません、もうあなた様に従うことは出来ません」

「は?」

 それが惚けた声を出すと同時に銃声が鳴る。するとそれの左肩から大量の血が噴き出した。

 絶叫しながらその場に転げ回ろうと倒れた瞬間、先頭に立っていた部下は帯びていた剣を無言で引き抜くと寸分狂わずにそれの首を斬り落とした。

「申し訳ありませんね。私達だって命は惜しいんですよ。未来が無いあなたについていくよりも、新政府に媚びを売った方がいいんです」

 自身を正当化する言い訳をうわ言のようにつぶやきながらそれの首を持っていた袋に入れる。そして振り返ると真顔の仲間達に向かって告げた。

「これでもう大丈夫だ。これさえ差し出せば俺たちは殺されずに済む……。すぐに祖国に帰るぞ!」

 呼応するように大声で叫び合う部下達にオーガは興味が無いようで大あくびをかいていた。

 オーガに敵討ちという考えはない。それに対しての認識は「好きな時に飯をくれる都合のいい存在」でしかなかったからだ。

 だからこそ、晴れやかな笑顔で洞穴を出て行く部下達を咎めることは無かった。

 それからオーガは近くにいたコーガの群れを征服し悠々自適の暮らしを、裏切った部下達は殺されずにそれなりの地位を与えられ幸せな暮らしを手に入れた。


 その様子をそれはしっかりと見ていた。怨み、妬み、復讐を誓った。

 だが幽体となったそれに直接それらに襲いかかることは出来ない。だからこそそれは自分の思い通りに動く体を求めていた。

 そして今日、その待望の体が現れた。やや女性っぽい華奢な体格だが、男で意識を完全に喪っているという点ではこれ以上とない優良物件だった。

 それは口と喉があれば大声で笑っていただろう。そしてそのまま持ち主がいなくなった体へと飛び込んだ。

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