叱責
「何、オーガが出ただと⁉︎」
命からがら逃げ戻ってきたグローリア達からの報告を受けたシャムは椅子を倒すほどの勢いで立ち上がっていた。
「すまない、それのせいで、アイリーンを死なせてしまった……」
涙ながらに語るグローリアに対して、シャムはその右肩に手をかけて囁いた。
「考えるな。今は怒り狂ってるであろうオーガを倒すことに集中しろ」
グローリアが頷いて涙を拭っている横で、続々と他の隊が戻ってきた。
「シャム、俺達を襲いかかってきたコーガの群れが、変な叫び声が聞こえた瞬間にものすごいスピードで逃げ出したんだが……何が起きている」
「シャムさん緑隊今戻りましたー。何かあったんですか?」
「シャームー。青隊成果無しだー」
「よし、全員揃ったか。試験はこれで終了する。受験生はヴィエオラに戻って結果を待っててくれ。それとドラゴネットのメンバーは残れ」
その号令を受けて何も知らない受験生達が続々とヴィエオラへと帰っていく。しかしその中で一人、浮かない顔をして動かない者がいた。
「どうしたのセマカ。他の人はもう帰ったわよ」
ナザリアが不思議そうな表情を浮かべて話しかける。するとセマカは何かを決意したのか、無表情で言った。
「ナザリアさん、槍を貸してくれないか」
「え?」
「あいつは俺の大切な武器を折りやがった。だから、敵討ちがし」
「ダメだ」
セマカの思いの丈を途中で遮りながらナザリアの後ろにきたシャムが拒絶する。
不服な様子でセマカが口を開こうとした途端、シャムは険しい顔で言った。
「オーガは危険ランクCに指定されている魔獣だ。明らかにランクが上の相手になんでお前は勝負を挑んだ」
「な、なんでって、俺がコーガを狩っていたら、頭上から飛んできたんだよ。それで襲いかかってきたもんだから……」
不意の質問にセマカの目が泳ぐ。
「というか、いきなり襲いかかられたら対応するしかねぇだろ! 俺だってまだ死にたく」
「ならなんでグローリアから離れた」
「えっ……」
「あいつはあんななりでも一応Cランカーだ。もし不意に遭遇した時でもあいつならお前達が逃げ切れるだけの時間は稼げるし、それぐらいの判断力はある。なのにお前は逃げられずに戦わざる負えなかった、人の助け無しでは一歩も動けない状況になるほどに疲労困憊の状態にさせられるまで」
口をパクパクさせて言いあぐねるセマカをシャムは何の意思も感じさせない冷徹な目で見つめた。
「そこから導き出されるのは『グローリアがすぐに追いつけないほどにお前が飛び出し過ぎていた』っていう事実だけだ。その結果、グローリアがお前に付きっ切りになっている間にアイリーン……だったか、そいつがやられてしまった。お前の軽率な判断がチームの仲間を失う原因となったんだ」
そしてシャムはセマカに向かってバカにするように笑みを浮かべた。
「……ああ、そもそもお前はアイリーンのことを仲間じゃなくてただの邪魔者としか見てなかったな。なら全然心を痛めるはずもなかったな、失敬失敬」
そう謝罪になっていない謝罪をしてシャムは戻っていった。わなわなと震えるセマカに向かってナザリアは抑揚のない声で言った。
「今回の件で壊れた槍は後で保証するわ、だからあなたは今すぐに帰りなさい。……今の状態で森に入っても死に急ぐだけだから」
その言葉は同時にセマカの申し出を拒否する意味を持っていた。セマカは俯きながら無言でヴィエオラの方へと歩いていった。
セマカの姿が完全に視界から消えると、シャムは自分の頬を思いっきり叩いてから叫んだ。
「よし、これからオーガ率いるコーガの群れの掃討を開始する! 全員ぬかるなよ!」




