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暴走

「いたいた……」

 舌なめずりをしながら下衆な笑みを浮かべるセマカの視線の先には崖の元に出来た岩場があり、その岩の間をチョロチョロとコーガ達が動いていた。

 敵や獲物が近づいていないか巡回しているようだが、すぐ横の茂みに隠れているセマカの存在には全く気付いていないようだった。

 生物学上、人間と同じ歩獣族人獣類に属するコーガの体格は人間の子供と大差ないが、灰色の肌と額に生えた小さな角が異彩を放っている。

 一応人間と同じように仲間と会話し石斧など簡単な武器を作製・使用することが出来るが知能は低く、さらに馬車を群れで襲いかかっては積荷を強奪していくため人間との共存は叶わなかった。

「お前達に恨みは無いが……俺の栄光のために散ってもらうぜ」

 そうつぶやくとセマカは他の仲間の到着を待たずに一番近くにいたコーガが後ろを向いた瞬間に茂みから飛び出し、その首を貫いた。

 刺されたコーガの断末魔でセマカの存在に気付いたコーガ達が慌てふためき始めたのをいい事に、セマカは次の獲物に狙いを絞っていた。

「あ、もう始まってるし!」

 追いついたパピオンがすぐに矢筒から矢を抜く。しかしその頃にはパピオンが狙える位置に生きているコーガはいなくなっていた。

「ああ、くそっ!」

 女性らしくない罵声を吐いて持っていた矢をへし折る。そこで遅れていた三人も合流した。

「どうした、何が……ってもう始まったのか」

「オラオラオラオラァ‼︎ どいたどいたぁ‼︎」

 岩の向こう側からセマカの笑い声と共に赤い血しぶきとコーガの首が舞う。グローリアはその光景に苦笑いを浮かべながら息を吐いた。

「俺達もさっさと追いかけるぞ」

 おそらく脳内にはセマカに対する文句が大量に積もっているだろうが、それを微塵も感じさせない様子でグローリアは魔導書を開いた。

 そしてセマカに制圧された岩場を進んで行く。転がっている死体を数えながら進むグローリアの横で三人の顔には焦りの色が滲み始めていた。

 いくら討伐数は合否に関係ないと告知されていても、目の前で活躍を見せつけられてはそうなるのも無理はなかった。

「あの……俺一応前衛役なんで先行してもいいですか?」

 我慢出来なくなったのか、アイリーンがやや遠慮しながらグローリアに提案する。しかしグローリアは頷かなかった。

「いや、ちょっと待ってくれ。色々と気になる点がある」

「気になる点……?」

 考えすぎて発してしまったグローリアの失言に三人が顔を見合わせ、同時に転がるコーガの死体を見つめる。少し痩せ細っているようにも見えるが、その死体に大きく変わった点はないように見えた。

 しかししばらくしてパピオンがコーガの腰にくくりつけられた植物のツルを見て、グローリアの言う違和感に気付いた。

「……どれも、武器を持ってない?」

「グオオオオオオオッ」

 それと同時にセマカの進んだ方向から、明らかにコーガやセマカの物とは違う異質な雄叫びが聞こえてきた。その途端、グローリアの顔に初めて焦りの色が浮かんだ。

「くそっ、やっぱりか!」

 そして断りもなく走り出す。置いてかれそうになった三人も慌ててその後を追いかける。

 大きな岩の元を右に曲がると崖に大きな洞穴が出来ていた。

 しかしそこまで深くなく、さらに別の所から光が入っているようで奥まで見渡せた。

 グローリアが突入した後、続けて入ろうとしたマルティは奥を見ると突然足を止め、後ずさりしその場で尻もちをついた。

「ど、どうしたのマルティ」

 相方の豹変にパピオンが心配そうに声をかける。するとマルティは声と手を震わせながら洞穴に向かって指差した。

「お、オーガが、何で……」

 洞穴の奥、そこでは丸太と見間違うほどの太さを持つ棍棒を振りかざす巨大な赤色のコーガの姿があった。

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