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不意

 翌朝、キャンプ地から出て西へと向かうグローリア隊には不穏な空気が早くも流れ始めていた。

「おい素人。そんな重いハンマー本当に使えるのかよ」

「……やってみなきゃわかりませんよ」

 突っかかってくるセマカとそれを適当にあしらうアイリーンの姿を見ていた女性二人は不安そうにグローリアを何度も見返していた。

 弓や魔導書といった遠距離型の武器は装填や発動の時に時間がかかる。そのため前衛が時間を稼いでくれなければ自分たちは無防備な状態を相手に晒すことになってしまう。

 しかし肝心の前衛の片方はブランクありまくりの新人、もう片方はその新人をムキになってたたき続ける大人げない人。この二人に前衛を任せて本当に大丈夫なのだろうかと思うのは責められないことだった。

「そろそろ目的地につくぞ」

 グローリアが指差した先には木よりも一回り大きい卵みたいな形の岩が説明通りにあった。

「ではこれより試験を開始する。みんな悔いを残さないようにな」

「はい」

「ああ」

「……」

 四人とも思い思いの反応を見せながら小さく頷き、岩の横に申し訳程度に作られた道の入り口から続々と森の中へと入っていく。

 鳥獣のさえずり声や枝が折れる音が響く中、入り口に向かうまで交わされていた世間話のようなものは途切れ、五人はいつ魔獣が出てくるか注意しながら道なりに進むようになっていた。

 そんな中、右横の茂みから大きな音が起こる。五人は一斉に茂みに向かって武器を構えた。

 しかしそこから出てきたのは人の足ぐらいの大きさのネズミのような魔獣だった。

「……なんだ、モリズミか」

「イッカクラビーなら行ったけどね……。あれのお肉それなりに売れるし」

 ため息をつきながらセマカと女性陣が武器を下ろす。モリズミと呼ばれた魔獣は周りをキョロキョロとせわしなく見回した後、そそくさとアイリーンの足元を通り抜けて行った。

 安心した様子の三人が奥に進んでいく中、アイリーンとグローリアはじっとモリズミが出てきた方を注視し、しばらくしてアイリーンが茂みをかき分けて奥まで見回した。

「……単に偶然通りかかっただけみたいですね」

「そのようだな。モリズミを捕食する魔獣は我々にとって害獣であることが多いからな」

 食物連鎖の下層生物が突然飛び出してきた時、それは自分よりも上の層の生物に追われている可能性を示している。

 出てきた物が何であれ、油断せずに次の代物が出てくることを警戒しなければならない……というのがシャーセという職業をやる上で忘れてはならない常識だったりする。

 つまり、モリズミだったことに安心して武器を収めてしまった三人はこの時点でそれなりに減点されることになる。

 しかしその事実をグローリアは決して口に出さない。出してしまえばそれを元に受験生は行動し出す。そうなってしまえば、当人の実力を的確に見極めることが出来なくなってしまうからだ。

 しかし皮肉を言わずにはいられなかった。

「まだ入口付近だったから命拾いしたな」

「何か言いました?」

「いや、なんでもない。さっさと追いつこう」

 それを目ざとく聞きつけたアイリーンが反応する。グローリアは軽く手を振りながら本を閉じた。

 アイリーンも首を傾げながらではあるが、深入りすることなくハンマーを背中に戻した。すると奥から大音量の声が響いてきた。

「グローリアさん、早く来てくれ!」

 セマカからの大声にグローリアは一瞬顔をしかめたがすぐに元の柔和な表情に戻った。

「どうした?」

 音がたたないようにすり足で近づきながら声をかける。するとセマカは興奮した様子で地面をさした。

「あの、これコーガの足跡だったよな」

 そこには子供の足のような凹みが点々と残されていた。それを確認したグローリアは頷いてから眉間にしわを寄せた。

 その表情を見たセマカは疑問に思うことも無く、得意げな顔で他の三人を見ていた。

「どうします、この足跡が向かっている方に向かいますか?」

 マルティがおずおずとグローリアに話しかける。グローリアは立ち上がると足跡が進む方を見て息を吐いた。

「この方向に進んで行くと別の隊が進んでいる道にぶつかる。もしこれが狩りに出かけたやつの物だとしてもそいつらが片付けてくれるだろう」

 その言葉が表す意味は一つしかなかった。

 早く戦いたくてウズウズしている様子のセマカはすぐに足跡が始まる方へと動き出した。それを見てパピオンも慌てて後を追う。

 続けて残りの二人も追い出したが、数歩進んだところで立ち止まって振り返った。

「……グローリアさん、どうかしましたか?」

 アイリーンが心配そうに、足跡を見続けるグローリアに話しかける。グローリアはその声にハッとしたように顔を上げると照れ笑いを浮かべた。

「すまないすまない。すぐに行こう」

 その言葉に二人はホッとした表情を浮かべて再び正面を向いた。だがグローリアの笑みはその瞬間に消え失せ、また険しい物に戻ってしまった。

「……なんで群れで行動していない?」

 いくら森の入口付近であるとしても、こんなところで人間の子供が一人でうろついているわけがない。

 しかしコーガは基本群れで行動する魔獣で、野生の物が一体で行動していることなど皆無に等しい。

 その矛盾にグローリアは何とも言えない不気味さを感じていた。

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