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【祝!日間総合8位】白い結婚!?それなら、私の戸籍をあげちゃいます!〜え?拾った彼は公爵様でした!?  作者: しぃ太郎
第二部 公爵家で頑張るお嬢様

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SS【IF救済ルート】クロエを失った俺は、お嬢様を救えなかった。だから今度は奪い返す(前編)

※本編とは異なるIFルートです。

※メリバSS

「クロエを失った俺は、お嬢様を救えなかった。彼女は他の男の妻になった」

の続きです。

※今回はその後の救済ルートとなります。

※馬車事故で家族を失い、ジェイドが復讐を選ばなかった世界線です。

※クロエが存在しない分岐となります。

※侍従として生きることを選んだジェイド視点です。

※大人向けの雰囲気を含みますので、苦手な方はご注意ください。


 月に一回ある、夫婦の夜。

 それまでずっと側にいてほしいと頼まれて、俺はお嬢様を抱いていた。


 明るい日差しが窓から降り注ぎ、部屋を柔らかく照らしている。

 その中で、彼女は俺の手を自分の頬に当てさせて目を伏せた。


「ジョンの手以外で、何も覚えたくなかった」


 その言葉に、心臓が掴まれたと思った。

 激しい痛みが胸を襲う。


 返す言葉が見つからず、ただその唇にキスを落とした。

 少しでも彼女を救いたくて、現実を忘れさせたくて激しく口付けた。


 お嬢様のために、テーブルの上の水差しからコップに水を注ぐ。

 振り返ると、彼女は窓際に立っていた。

 気になって近づいてみる。


 俺の視界に入ったものは――。


 そこには絵に描いたような光景が広がっていた。

 緑と花に囲まれた庭園の中で赤ん坊を抱えた女性。

 その女性の肩を抱き、寄り添っている男――エーリク。


「ごめんね……。私のせいでジョンは……家庭を持てないでしょう。……逃げてもいいよ」


 目元を伏せて、それを見つめるお嬢様。

 衝動的にその小さな背中を抱きしめていた。


「俺はもうあなたを選んでる……ずっと前から」


 一瞬だけ肩を揺らした彼女は、自嘲気味に笑って俺の腕に触れる。


「バカね……相変わらずジョンは、バカだわ……」


 薄っすらと窓に映り込む俺達の姿。

 ――そして、見てしまった。


 そのなかに浮かび上がる彼女の頬を、一筋の光が伝って落ちるその瞬間を。


 外から漏れ聞こえる、幸せな会話。そして無邪気な笑い声が届く。

 静まり返った部屋には、それがやけに遠く聞こえた。


 俺達には届かない。

 そんな幸福に満ちた世界だった。


 ◇◇◇


 その夜。


 廊下の壁に背を預け、その場にしゃがみ込んでいた。


 右手で髪をかき上げ、俯いたまま動けない。

 腕から力が抜けてしまい、だらりと床に落ちた。


 奥から差し込む月明かりが、輪郭だけを淡く浮かび上がらせていた。

 すぐ向こうは、夫婦の寝室だ。


 扉一枚隔てた向こうから、かすかな声が聞こえる。


 俺は壁に頭をつけて、上向きに目を閉じた。


 ――聞くつもりはなかった。


 だが、ここを離れることもできない。

 指先が、床を強く握りしめる。


 部屋の明かりが灯り、扉から薄っすらと光が漏れた。

 気配が動いた。


 そろそろ呼ばれる時間だ。

 だが、中の音は続いていた。――いつもとは違う。

 聞き馴染んだ声が耳を苛む。


「遅いな……」


 握り込んだ懐中時計を開く。

 秒針が歪み、正確な時間は確認出来なかった。


 ――ぽたり。


 雫が落ちる。

 さらに、滲んでぼやけていく視界。


「……遅刻ですよ、お嬢様」


 自分の言葉に苦笑する。

 ――約束すらしていないのに。


 ◇◇◇


「……お嬢様が泣いていました」


 その訴えにも、彼は顔を上げずに書類を読んでいる。

 セイムズ辺境伯エーリク。

 イリーナの旦那だ。


「契約内容に違反はしていない。夫婦の問題だ。お前には関係ないだろう」


 そんなことは百も承知している。

 お互いに、愛人を作ってもいい――その項目が契約にあるから俺はここにいられる。


 ただの侍従『ジョン』。


「あなたの妻は……お嬢様でしょう。契約結婚だとしても、もっと気遣ってあげることも――」

「……彼女には申し訳ないが……。ユリアしか愛せないんだ」


 身体は求めるくせに。

 妻としての体裁を保つため?

 そうかもしれない。しかし、それで彼女は苦しんでいる。


「お子様は男児でした。もう彼女に薬を飲ませるのをやめてください」

「――いや。お前に似た子どもが出来たら困る。これからも続けてもらうしかないだろう」


「ははははは」


 その直後、何かが切れたように笑っていた。

 机の金具に緑の光が煌めいた。


 あまりにも場違いな俺の様子に、エーリクは眉根を寄せていた。


 俺は天を仰ぎ、目元を覆う。

 口元が自嘲気味に歪んでいくのを自覚する。


「じゃあ、もういいですよね」


 そして、手を下ろした時に『ジョン』でいることを止めた。

 薄暗い部屋の中で、燭台の台座に翡翠の瞳が鮮やかに映り込んでいた。

 それを視界に入れると、何故かしっくりくる。


 目の前の男をどうにかしよう。

 そうしなければ何も始まらない。


 ――そうだ。

 これが本来の俺だったじゃないか。


 間抜け面を晒している男を置き去りに出口を目指す。


「俺の全てを使ってイリーナを守ってみせる」


 

ここまで読んでくださってありがとうございます。

メリバのその後として、どうしても救済ルートも書きたくなりました。

前編はかなり苦しめですが、後編でジェイドに迎えに行ってもらいます。

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