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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
第2章 五歳の令嬢、王都の盤面へ

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庭のお茶

 庭に、小さなテーブルが出ていた。白いテーブルクロス。二つの椅子。銀のティーセット。庭師が丁寧に刈り込んだ草の上に、それだけが置かれている。リリアーナが先にいた。


 白いドレス。金髪を緩く編んで肩に垂らしている。庭の光の中で、母は本当に綺麗だった。セレスティアはその姿を見るたびに、胸の奥がしんと痛む。前世の母はこんな風に座ったことが、たぶんなかった。前世の記憶の中の母は、白い寝間着を着たまま、ベッドの上にいた。午後の光の中で庭に座る体力は、なかった。


 「おはよう、セレスティア」


 「おはようございます、お母様」


 椅子に座った。テーブルの上に、ティーポットが湯気を立てている。リンゴとシナモンの匂いに、庭の若葉と湿った土が混じる。初夏の公爵領の匂いだった。


 「昨夜はよく眠れた?」


 「うん。すごくよく眠れた」


 「そう。良かった」


 リリアーナが紅茶を注いでくれた。細い手。指が動くたびに、袖口の刺繍が揺れる。健康な人の動き。力のある手。前世では見たことのない手だった。


 「お母様は? よく眠れた?」


 「私は……少し目が冴えてしまったわ。ほっとしたせいかしら」


 「ほっとしたのに?」


 「ええ。無事に着いたと思ったら、かえって眠れなくなって。あなたは旅で疲れていないかしらと、お部屋を覗いてしまったの」


 「えっ」


 「起こしてしまった?」


 「ぜんぜん。でも、こっそりみにきてたの?」


 「寝顔を見るだけ。よく眠っていたから、満足して戻ったわ」


 セレスティアは紅茶を一口飲んだ。温かい。甘い。蜂蜜が溶けている。


 「お母様は、わたしが王宮にいっているあいだ、さびしかった?」


 リリアーナは目を伏せた。


 「寂しかった。でも、大丈夫だったわ」


 「大丈夫だった?」


 「帰ってくると、お話をしてくれたでしょう。殿下のことも、フリーデリケちゃんのことも、ラベンダーのことも。今日は何を聞かせてくれるかしらって、夕食を楽しみにしていたの」


 「ぜんぶ、おぼえてるの?」


 「ええ。マルガレーテも一緒に聞いていたでしょう。お友達と手をつないだお話をした時、あの方、目を拭いていたのよ」


 セレスティアは笑った。マルガレーテが泣いている場面が、目に浮かんだ。


 「マルガレーテ、すぐなくの」


 「あの方は涙もろいのよ。でも強い方。私より、ずっと」


 リリアーナが自分の紅茶を手に取った。静かに飲む。庭の向こうで、小鳥が鳴いている。


 ◇


 しばらく、二人で黙って紅茶を飲んだ。沈黙が、ちっとも苦しくなかった。


 誰かと同じ空気を共有して、言葉がなくても苦しくない、そういう時間を、前世では知らなかった。


 今世の沈黙は違う。ただ、一緒にいる。それだけの沈黙。


 「セレスティア」


 「うん」


 「王都で、怖いことはなかった?」


 セレスティアは指を組んだ。


 「ちょっとだけ」


 「そう」


 「でも、だいじょうぶだった」


 「誰かが助けてくれた?」


 「たくさんのひとが」


 リリアーナが頷いた。それ以上聞かなかった。


 「王都でも、わたしがおでかけしてるあいだ、おにわをあるいた?」


 「ええ。別邸のお庭も、ずいぶん歩いたわ。ローレンツ先生に言われたとおり、疲れる前に椅子で休んでね。フェリクスも、お茶の時間には顔を出してくれたの」


 「みんながみてたんだ、お母様のこと」


 「みんな……そうね。マルガレーテも、お父様も、ローレンツ先生も。皆さんが気にかけてくれたおかげよ」


 自分が傍にいない時も、母は一人ではなかった。そのことが、ただ嬉しかった。


 リリアーナの目に光が滲んだ。それをごまかすように、スコーンを取った。


 「食べなさい。焼きたてよ。リンゴジャムをつけると美味しいの」


 「うん」


 セレスティアはスコーンを一つ取った。リンゴジャムをたっぷりつけた。一口かじる。サクリ、と音がした。甘い。温かい。


 「おいしい」


 「良かった。お母様が焼いたのよ」


 「え、おかあさまが?」


 「王都でマルガレーテに教えてもらったの。あなたが授業に出ている間、別邸の厨房を少し借りて。今朝は一人で焼いてみたのよ」


 「なんかい練習したの?」


 「……五回」


 セレスティアはまた笑った。


 「五回。つよい」


 「一回目は焦がして、二回目は膨らまなくて。でも五回目でやっと、マルガレーテに合格をもらったの」


 「すごくおいしい」


 「本当に?」


 「本当に」


 リリアーナが嬉しそうに笑った。その笑顔が、フリーデリケに面差しが似ていた。頑張ったことを認めてもらえた時の、素直な喜びの顔。いつも強くて、優しくて、少し頑固な母が、スコーン五回目の話をするだけで嬉しそうにしている。それが、可愛かった。


 ◇


 お茶が終わりかける頃、風が吹いた。庭の木が揺れた。葉が数枚、テーブルの上に落ちた。リリアーナが葉を手で払いながら言った。


 「来年も、こうしましょうね」


 「来年?」


 「ええ。来年も、再来年も。学園に入ってからは、帰省するたびにね。毎年の約束にしましょう」


 何年でも。再来年も、その先も、母はここにいる。そう言った。前世の母は七歳で逝った。約束をする前に。庭でお茶をする前に。


 「ずっとお茶できる?」


 「できるわよ。お母様はどこにも行かないから」


 どこにも行かない。前世では、母は二年後に逝った。


 今世では、ここにいる。この先も、きっとここにいる。


 「約束ね」


 「約束よ」


 リリアーナが小指を差し出した。五歳の子供のような仕草。でも母は笑っている。恥ずかしがってもいない。セレスティアは小指を絡めた。


 「ゆびきり」


 「ゆびきり」


 二人で笑った。庭に午前の光が差している。スコーンの残り。冷めかけた紅茶。小鳥の声。前世には一度もなかった景色。


 今世で初めて手に入れた、当たり前のもの。


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― 新着の感想 ―
AIで書いているからか違和感が半端ないですね。 父も母も一緒に王都に行き一足先に戻っただけなのに、謎に感動的な再会になってます。 そもそも政敵に狙われている状態で子供たちを残して両親が先に領地に戻って…
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