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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
第2章 五歳の令嬢、王都の盤面へ

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王妃の密談

 王宮へ出かける支度を整えた母が、玄関広間へ下りてきた。


 淡い藤色のドレスに、真珠の髪飾り。リリアーナは手袋の端を整えながら、娘に微笑んだ。


 「お待たせ、セレスティア」


 「おかあさま、きれい」


 「ありがとう。あなたもよ」


 リリアーナはセレスティアの胸元のリボンを直し、そのまま小さな手を取った。


 「おうひさまと、またおはなしするの?」


 「ええ。先日のお話の続きをね。今日はお父様からも伝言を預かっているの」


 二人は手をつないで別邸を出た。玄関前には、王宮へ向かう馬車が待っていた。


 ◇


 王宮の奥まった一室。


 王妃の私的な茶室だった。豪華だが落ち着いた内装。窓辺に白いカーテンがたなびき、テーブルには銀のティーセットと焼き菓子が並んでいる。


 王妃エレオノーラが立ち上がって迎えた。


 「リリアーナ、待っていたわ」


 「エレオノーラ、お招きありがとう」


 「今日はゆっくり話せるわ。先日の続きも、まだたくさん残っているもの」


 「まあ。王妃陛下を独り占めしてしまうわね」


 「今日くらいは許されるわ」


 二人は顔を見合わせて笑い、席についた。


 侍女たちが茶を注ぎ、退室した。部屋にはリリアーナ、エレオノーラ、そしてセレスティアだけが残った。


 五歳の子供は足元で絵本を読んでいる体裁だ。実際には耳を澄ませている。


 「エレオノーラ。先日お話しした件だけれど」


 リリアーナの声が変わった。社交の声ではない。友人としての、本音の声。


 「夫から伝言を預かってきました。アルヴェイン家は、宰相の専横をこれ以上見過ごさない、と」


 王妃は静かに息を吸った。


 「……公爵が正式に決めたのね」


 「ええ。ただ、今すぐ表立って動けば、証拠を潰されます。しばらくは互いに知らぬ顔をして、力を蓄える必要があります」


 「私も同じ考えよ。後宮の侍女たちの半分には、宰相派の息がかかっている。私の動きも、おそらく報告されているわ」


 王妃は紅茶のカップを置き、声を落とした。


 「それでも、信頼できる者は残っている。その者たちを通じて、王宮内の動きを知らせます。……ただ、十年前と同じやり方では駄目ね」


 「ええ。あの時は、わたくしたちの手紙が止められた」


 「止められたのではないわ。読まれてから、届いていたの。気づくまでに二年かかった」


 リリアーナが息を呑んだ。


 貴族の封書は監視される。使者は買収される。ならば要るのは、手紙に見えない手紙だ。


 セレスティアがそこまで考えた時には、母がもう口を開いていた。


 「エレオノーラ。球根を送ってもいいかしら」


 「球根?」


 「秋に植えるものを。北部の土で育ったスノードロップと、ムスカリと、チューリップを少し。王宮の庭は南向きでしょう。北部の球根なら花期がずれて、長く楽しめるわ」


 「……ええ。ぜひ」


 「木箱で送ります。籾殻を詰めて。……秋は球根。春は苗。夏は押し花と、来年の種を」


 「年中あるのね」


 「庭仕事は年中あるものよ。月に二度でも足りないくらい」


 王妃の目が動いた。理解した目だった。


 「植え方の書付を添えてくださる? わたくし、球根は不得手なの」


 「もちろん。長くなるかもしれないけれど」


 「長いほうが、助かるわ」


 「今までのお手紙も、変わらずに」


 「ええ。季節の話と、子供の話を。読んで面白いものを書くわ」


 封書は開かれる。庭師に回される木箱は開かれない。


 誰かに教えられたのではない。二人は自分たちで、開かれても不自然でない合図を思いついていた。


 セレスティアは絵本のページをめくる振りをしながら、一語も聞き逃さなかった。


 リリアーナが王妃の手を握った。


 「今度は、何があっても途切れさせないわ」


 「ええ。私も」


 二人の女性が微笑み合った。長く途絶えていた手紙が、今度は宰相に抗うための糸になる。細くとも、決して切らせてはならない糸に。


 セレスティアは絵本に目を落としたまま、唇の端を上げた。


 ◇


 茶会の後、廊下でセレスティアは王妃と二人きりになる瞬間があった。


 リリアーナが化粧室に立った、わずかな時間。


 王妃がセレスティアを見下ろした。翡翠の目。穏やかだが、その奥に鋼がある。


 「セレスティア」


 「はい、おうひさま」


 「先日の席で、あなたはお母様に頷いて、話すべきことを選ばせたわね。毒に気づくきっかけを作ったのも、あなたなの?」


 セレスティアは膝の上で指を組み直した。


 王妃は疑っている。五歳の娘が、母の命を救うきっかけを作ったのではないかと。


 「わたしは、おかあさまがげんきになってほしかっただけです」


 嘘ではない。本音だ。


 王妃は微笑んだ。


 「そうね。それが一番大切なこと」


 それ以上は聞かなかった。だが王妃の目は「覚えておくわ」と語っていた。


 この女性は味方だ。だが鋭い味方だ。いつか全てを見抜かれる日が来るかもしれない。


 その時は――その時だ。


 今は目の前の一手に集中する。


 ◇


 帰りの馬車の中で、リリアーナはセレスティアを膝の上に乗せていた。


 「エレオノーラとお話しできて嬉しかったわ。あの方は昔から頼りになるのよ。学園時代、一緒に泣いたり笑ったり……」


 母の目が遠くなった。少女時代の記憶に浸っている。


 「おかあさま、うれしそう」


 「ええ。エレオノーラとお話ししていると、学園にいた頃へ戻ったような気持ちになるの」


 二人の時間を奪ったのは、母の病と、宰相派が仕込んだ毒だった。


 けれど、その毒はもう止まった。母は生きている。二人の友情も、途切れてはいない。


 「おかあさま」


 「なあに?」


 「ずっとげんきでいてね」


 リリアーナはセレスティアの額にキスをした。柔らかい唇。温かい息。


 「もちろんよ。お母様はどこにも行かないわ」


 前世では嘘になった言葉。


 今世では、本当にする。


 セレスティアは母の胸に顔を埋め、目を閉じた。


 馬車が王都の石畳を走る。車輪の音が規則的に響く。


 この音を聞きながら、セレスティアは次の計画を組み立てていた。


 王妃との連絡路は固まった。次は、宰相派の内部情報を得る手段が要る。


 ナターシャだ。


 あの侍女は今、王都の使用人たちの間でどう動いているだろうか。


 明日、確認しよう。


 母の腕の中で、五歳の策士は静かに目を閉じた。


 温もりの中で、冷たい計算が回り続けている。


 それがセレスティア・フォン・アルヴェインという少女の日常だった。


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― 新着の感想 ―
領地から王都に一緒に来た設定なのにリリアーナとセレスティアが久しぶりの再会みたいになってますけど。 既にリリアーナ完全復活で王宮プログラムの前に社交してましたし、王妃にも再会してたじゃん。 AIで作成…
この前、久しぶりに会ったとこやん?
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