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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
外伝⑤「王太子は嘘をつく」

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最後の嘘をつけなかった日

 勝った。宰相は断罪された。法廷が終わった。


 セレスティアが俺の隣に立っていた。「終わったね、アレクシス」と言った。


 二人きりでは何度も聞いた呼び方だった。それでも、法廷を出た直後のその声は、今までとは違って胸に残った。なぜか胸が痛かった。なぜ、と考えた。答えが出た。


 出てしまった。


 ◇


 法廷が終わった日の夜。


 俺は自室で一人、窓から外を見ていた。王都の夜景。いつも通りの夜景。


 勝利の夜だった。エドヴァルトが来て背中を叩いた。「お前のおかげだ」と言った。俺は「違う、セレスティアのおかげだ」と言った。そう言いながら、そうは思っていなかった。


 誰かのおかげとか、誰かが動いたとか、そういう話ではなかった。ただ、終わった。そして今、胸が痛い。なぜ。


 「終わったね、アレクシス」という声が頭に残っていた。十歳の石段で「アレクシスでいい」と言って以来、何度も呼ばれた名前。それなのに、あの時の声だけが消えなかった。


 その声が頭から消えなかった。


 ◇


 数日後、二人で話す機会があった。


 俺が用事があると言って、部屋に来るよう伝えた。用事というのは嘘だった。話があった。何を話すかは決めていなかった。


 セレスティアが来た。椅子に座った。少し眠そうな顔だった。裁判の疲れが残っているのかもしれない。


 「何の用件ですか」


 「聞きたいことがある」と俺は言った。


 「どうぞ」


 「どうして最初から手伝ってくれたの、という質問は、俺に対しては聞かないのか」


 セレスティアが少し首を傾げた。「聞いた方がよかったですか」


 「聞かないのが不思議だっただけだ」


 「答えは分かっていましたから」


 俺は少し止まった。「分かっていた?」


 「正義のため、と言いましたよね。初めて手伝うと言ってくれた時」


 「そう言った」


 「嘘ですよね」とセレスティアが静かに言った。


 ◇


 俺は返事をしなかった。しばらく、二人とも黙っていた。窓から光が入っていた。


 「ずっと、見透かされてたのか」と俺は言った。


 「全部ではないですよ」とセレスティアが言った。「ただ、正義のためという顔ではなかったので」


 「どんな顔だった」


 「よく分かりませんでした。でも正義のためではないとは思いました」


 俺は少し考えた。ここで嘘をつけるかどうかを考えた。


 「正義のためではない」ということは認めた。ではその先は。


 「お前のことが気になっていた」と俺は言った。「ずっと前から」


 言ってしまった。


 「どれくらい前から」とセレスティアが聞いた。


 「最初に会った時から」


 「王宮の顔合わせで会った時ですか」


 「そう」


 セレスティアが少しの間、黙った。何かを考えている顔だった。


 「わたしも」と言った。


 「何が」


 「あなたのことを考えていた。婚約が決まった時から」


 ◇


 俺は少し止まった。


 「嘘だろ」


 「嘘じゃないです。婚約が決まったと聞いた時から、どんな人なのか考えていました」


 「俺は敵のつもりじゃなかったが、敵に見えていたはずだ。宰相と同じ側にいるように見えていたはずだ」


 「見えていました」とセレスティアが答えた。「敵かもしれないとは思っていました。でも気になりました。廊下で会った時も、図書室で会った時も」


 「気になるのと好きなのは違う」と俺は言った。


 「そうですね」


 「俺も最初はそう思っていた。気になるだけだ、と。好きじゃないと」


 「今は?」


 ◇


 少しの間、俺は答えなかった。九年分の嘘を考えた。


 「気になってない」という嘘。王宮の顔合わせの後の夜。婚約が決まった夜。廊下で会った夜。「気になってない」と三度繰り返した夜。


 「正義のため」という嘘。手伝うと言った後に、理由を後から探した日。


 全部で、何度嘘をついたか数えられなかった。最後の嘘をつこうとした。「今でも気になるだけだ」という嘘を。つけなかった。


 「好きじゃない、と嘘をついてた。ずっと」と俺は言った。


 「何に対して嘘をついていましたか」


 「俺自身に」


 セレスティアが少し目を細めた。笑っているのかどうか、少し分からない顔だった。


 「正直に言ってくれて、ありがとうございます」


 「お前は」と俺は言った。「今はどうなんだ」


 「今は」セレスティアは少し考えてから続けた。「好きです。あなたが何を恐れ、何を守ろうとしていたのかを知るたび、もっと知りたいと思いました。立場ではなく、自分の意志でわたしに手を貸してくれた人を好きになるのは、自然なことだと思います」


 ◇


 それで終わりだった。


 その場でプロポーズをしたわけではない。劇的な何かがあったわけでもない。ただ、九年分の嘘が終わった。


 ◇


 王になった日、セレスティアが隣に立った。白いドレスではなく、式典の正装だった。真っ直ぐ前を向いていた。俺は少しだけ横を向いて、顔を見た。


 三歳から多くを背負ってきた目だ、と思った。五歳の顔合わせで、怖がりながらも俺の手を取り、「友達になりたい」と言った目だ。廊下で隈があっても普通の顔をして「おやすみなさい」と言った目だ。


 「気になってない」と何年も言い続けた目だ。


 「緊張してるか」と小声で聞いた。


 「少し」とセレスティアが小声で答えた。


 「俺も」


 「嘘ですよね」


 「本当だ。王太子はよくやったが、王は初めてだ」


 セレスティアが少し笑った。「わたしも同じです。王の隣に立つのは初めてです」


 「一緒に慣れるしかないな」


 「そうですね」


 ◇


 式典が終わった。夜、自室で日記を開いた。


 今日の事実を書いた。戴冠式。式典の手順。参列者の顔ぶれ。記録として書くべきことを書いた。それから一行空けた。何を書こうか考えた。


 「九年分の嘘が、あの日終わった」と書いた。


 消さなかった。自分の感情を記した一行を、初めて消さずに残した。


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― 新着の感想 ―
最後まで読ませていただきました ところどころ「?」と思う表現があったのは事実ですが、主人公が1回目の人生を取り戻す(書き直す)ために、周囲の助けを得ながら巨悪と必死に戦う姿に感動を覚えながら読みました…
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