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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
外伝③「侍女の十九年」

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仕える意味

 水路の一件から、一ヶ月が経った。


 セレスティア様は完全に元気になっていた。


 水路の近くを避けていた。東区画には行かなかった。その代わり、中庭をよく歩いた。


 ナターシャがついていった。



 ある朝、中庭の隅に石段があった。


 正確には、石段ではなかった。


 庭師が庭の段差を修繕していた。石を積んでいた。まだ途中だった。


 セレスティア様が見ていた。


 「石段、できてる」


 「工事中ですね」


 「すわれる?」


 「まだ工事中です。終わったら座れます」


 セレスティア様が少し考えた。


 「できたら、ここにくる。なた、しゃと」


 「来ましょう」


 「パン、もってきていい?」


 「いいですよ」



 その夜、ナターシャは考えた。


 三年、この屋敷にいた。


 最初は仕事だった。仕事だから来た。仕事だからやった。食べさせてもらえる。寝る場所がある。給金が少し貯まる。送る相手はもういなかったが、貯めていた。それだけだった。


 いつから変わったか。


 正確には分からなかった。


 でも今は、仕事だけではなかった。



 「仕える」ということを、最初は義務だと思っていた。


 命令されたことをする。決められた仕事をする。それが「仕える」ということだと思っていた。


 家政婦長もそう教えてくれた。


 「言われたことをきちんとやれ。余計なことは言うな」


 その通りにしてきた。



 でも、セレスティア様の隣にいることは、命令されたことではなかった。


 危ないことをするなら言う、と言った。危なくなければ言わない、と約束した。


 水路に飛び込んだのは、命令されたからではなかった。


 考えるより先に体が動いた。


 「なた、しゃが、いてくれるから、おっけー」という言葉を聞いた時、重いと思った。


 重いが、嫌ではなかった。



 ヨーナに会いに行った。


 ヨーナは今、別の棟の仕事をしていた。あまり話せなかったが、食事の時間に少し話した。


 「一つ聞いていいですか」


 「なに」


 「ヨーナさんは、なんでここで仕事をしているのですか」


 ヨーナが少し驚いた顔をした。


 「急に哲学的だね」


 「急ですが、聞きたくて」


 ヨーナが考えた。


 「最初は、うちが貧しいから。食べるためだったよ。今は……ここが好きだから」


 「ここが好きですか」


 「うん。ここで働いている人が好き。マルガレーテさんとか、あなたとか。居心地がいい」


 「居心地がいいから仕えている」


 「そうかな。仕えている、というより、ここにいる、って感じ」



 「セレスティア様のことが好きですか」


 また聞いた。


 ヨーナが少し考えた。


 「変わった子だとは思う。でも——嫌いじゃない。あの子って、ちゃんと見てくれるから。使用人を透明な人間だと思っていない。ちゃんと顔を見てくれる」


 「そうですね」


 「あなたは好きでしょ、セレスティア様のこと」


 「……好きです」


 「ならそれでいいじゃない」



 その夜、またゆっくり考えた。


 「仕える」ということの答えが、一つ出てきた気がした。


 命令されるから仕える、のではなかった。


 この人を守りたいから、隣にいたいから、仕える。


 それだけだった。


 難しい答えではなかった。ただ、今まで考えたことがなかった。



 翌朝、セレスティア様が起きてきた。


 ナターシャが着替えを手伝った。


 「なた、しゃ」


 「はい」


 「きのう、なにかかんがえてた?」


 「なぜですか」


 「かおが、かんがえてるかおだった」


 「顔に出ていましたか」


 「うん。なにかんがえてたの」


 ナターシャは少し考えた。


 「仕えることについて考えていました」


 「つかえること?」


 「はい。なぜここにいるのか、ということです」


 「わかった?」


 「少し分かりました」


 「おしえて」


 「隣にいたいから、ということです」


 セレスティア様が少し考えた。


 「それだけ?」


 「それだけです。難しい理由は、ありませんでした」



 セレスティア様が少し微笑んだ。


 「よかった」


 「何が良かったのですか」


 「めんどくさいりゆうじゃなくて、よかった。かんたんなりゆうが、いちばんほんとうだとおもう」


 「そうですか」


 「うん。わたしも、なた、しゃに、いてほしいから、いてほしいって、おもってる」



 着替えが終わった。


 中庭に行った。


 石段の工事が、昨日より進んでいた。あと少しで完成しそうだった。


 セレスティア様が見ていた。


 「もうすぐだ」


 「そうですね」


 「できたら、すわる。パン、もってくる」


 「何のパンがいいですか」


 「なた、しゃが、えらんで」


 「分かりました。甘いパンにします」


 「うん。あまいの、すき」


 二人で石段を見ていた。


 まだ完成していない石段だった。


 でも、完成した時に二人でそこに座る、という未来が、ここにあった。



 ナターシャは後から気づいた。


 仕える、ということの答えは一つではないと思っていた。


 でも、自分の答えは決まった。


 命令されるから動くのではない。


 この人の隣にいたいから、いる。


 この人が何かをしようとしている。それを隣で見たい。うまくいってほしい。危なくなったら飛び込む。


 それだけだった。


 水路の時、考えなかった。


 次も、考えないかもしれない。


 でも、それでいい、と思った。


 考えるより先に体が動く、それが自分の「仕える」だった。




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