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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
外伝③「侍女の十九年」

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「見ている」ナターシャ視点

 セレスティア様が何かをしている、と気づいたのは、三歳の春だった。


 具体的に何をしているか、分からなかった。


 ただ、何かをしている、という確信があった。



 きっかけは小さなことだった。


 ナターシャが廊下を拭いていた。子供の棟から少し離れた廊下だった。


 公爵家に客人が来ていた日だった。


 廊下の端に、セレスティア様がいた。


 一人だった。マルガレーテがいなかった。


 客人が通る廊下だった。客人が通るたびに、セレスティア様は立っていた。見ていた。


 ただ見ていた。


 客人たちはセレスティア様を見なかった。子供が立っていても、気にしなかった。通り過ぎた。



 ナターシャは拭きながら見ていた。


 セレスティア様は動かなかった。


 客人が三人通った。


 三人目が通った後、セレスティア様が歩き始めた。自分の棟の方角へ。


 ナターシャは後を追った。


 「セレスティア様、一人でここにいてはいけません」


 「うん」


 「どうしてここにいたのですか」


 「みてた」


 「何を見ていたのですか」


 「ひとを」


 「お客さんをですか」


 「うん。どんなひとか、みたかった」



 「お名前は聞いていましたか」


 「うん。きいてた」


 「どこで」


 「おとうさまとおかあさまのはなし、きこえた」


 ナターシャは止まった。


 公爵夫妻の会話を聞いていた。客人の名前を覚えた。実際の人物を確認しに行った。


 三歳がしていることだった。



 別の日。


 セレスティア様が書斎の前にいた。


 書斎は公爵が使う部屋だった。子供は入れなかった。


 扉の外に立っていた。


 「セレスティア様」


 「しいっ」


 小声で制された。


 小声で言い返した。


 「何をしているのですか」


 「きいてる」


 「何を」


 「おとうさまと、だれかのはなし」


 ナターシャは少し考えた。


 「それはいけません。盗み聞きになります」


 「おぼえておきたい」


 「それでも」


 セレスティア様がナターシャを見た。


 「たいせつなこと、なの」


 「どうして大切なのですか」


 「……いえないけど、たいせつ」


 ナターシャはどうすれば良いか分からなかった。



 結局、廊下でセレスティア様の隣に立った。


 二人で静かにしていた。


 扉の向こうから声がした。公爵の声と、別の男の声だった。内容は遠すぎて分からなかった。


 セレスティア様は聞いていた。


 ナターシャは見ていた。


 三歳の子供が、何かを聞いている顔だった。分かろうとしている顔だった。


 その顔が、大人に見えた。



 マルガレーテに言うべきか、考えた。


 言えなかった。


 なぜ言えなかったか、自分でも分からなかった。


 ただ、言いたくなかった。


 セレスティア様が何かをしている。それを邪魔したくなかった。



 ある夜、眠りにつく前にセレスティア様が言った。


 「なた、しゃは、いてくれる?」


 「います。仕事ですから」


 「しごとじゃなくても、いてくれる?」


 ナターシャは少し止まった。


 「なぜそんなことを聞くのですか」


 「こわいことが、ある」


 「怖いことがあるのですか」


 「うん。でもこわいまま、やらないといけないことが、ある」


 「何が怖いのですか」


 「……うまくいかないかも、しれないから」


 「うまくいかなかったら、どうなりますか」


 「……」


 セレスティア様が布団の中で少し丸くなった。


 「それは、いえない」



 翌朝、考えた。


 三歳の子が「怖いけどやらないといけないことがある」と言っている。


 仕事ではないか、仕事ならしている意味があるか、と聞いてきた。


 何かを一人でやろうとしている。一人でやらないといけないと思っている。


 そうじゃなくていい、と言いたかった。


 でも、どう言えば良いか分からなかった。



 「セレスティア様」


 廊下で二人の時に言った。


 「なに」


 「一人でやらないといけないことでも、隣にいることはできます」


 「……」


 「何をしているか、全部教えてもらわなくていいです。でも隣にいることはできます。邪魔はしません」


 セレスティア様がナターシャを見た。


 長い時間、見た。


 「なた、しゃは、どうして、そういうことを、いってくれるの」


 「分かりません」


 「わからないの?」


 「よく分かりませんが、そう思いました」



 セレスティア様が少し考えた。


 「おかあさまには、いわないでいてくれる?」


 「何をですか」


 「わたしが、いろんなところで、みたりきいたりしてること」


 ナターシャは少し考えた。


 「危ないことをするなら言います。危なくなければ、言いません」


 「やくそく?」


 「約束します」


 セレスティア様が少し頷いた。


 「ありがとう、なた、しゃ」



 その後から、セレスティア様が少し変わった。


 一人でいる時間が減った。


 行動する時、ナターシャがそばにいることが増えた。


 何をしているかは、全部は教えてくれなかった。でも「こっちへ行く」「あのひとをみたい」とは教えてくれた。


 ナターシャはついていった。


 理由を聞かなかった。


 ただ隣にいた。


 それが正しいことかどうか、まだ分からなかった。


 でも、そうしたかった。





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