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前世で処刑された公爵令嬢、幼女からやり直して家族の破滅フラグを全部折ります  作者: NN
第11章 十八歳の朝と新しい世界

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閑話 銀髪の父は見ていた ライナルト視点

 戴冠式が終わった日の夕刻、ライナルトは控えの間で一枚の任命状を破った。


 正確には、破る前に二度読んだ。


 『王妃陛下の御父君たるアルヴェイン公爵を、王室特別顧問に任ずる。国政上の重要案件について、常時、国王及び王妃へ助言する権限を認める』


 文面は礼儀正しく、差出人も善意を装っていた。だが中身は明白だった。娘の王冠を通して、公爵家が国政へ常に手を差し込める席を作ろうとしている。


 その席に座れば、アルヴェイン家は王国でもっとも強い家になる。


 だからこそ、座ってはならなかった。


 「父上。本当に破るのですか」


 エドヴァルトが、床へ落ちた紙片を見た。


 「見れば分かるだろう」


 「推薦した三家は、既に承諾を得たつもりでいます」


 「私の承諾を得ずにか」


 「今日の父上なら、娘を支えるためと言えば断れないと考えたのでしょう」


 ライナルトは鼻で息を吐いた。読みの浅い者たちだった。娘を守るためなら何でもする父親と、娘の名を使って権力を取る父親は、同じではない。


 「公爵家の当主として意見を求められれば答える。貴族院でも票を投じる。それ以上の席はいらん」


 「では、そのように返答します」


 「待て。私が自分で言う」


 任命状を持ってきた侍従へ返すだけでは足りない。断ったという事実が娘へ届くまでに、「公爵は王妃を見放した」と形を変えられる恐れがある。


 政治とは、沈黙した者の意図を他人が勝手に書く場所だ。ならば、自分の言葉で先に線を引くべきだった。


 ライナルトは、王妃の執務室へ向かった。


 廊下には、式典を終えた臣下たちがまだ行き交っている。礼を受けるたび、彼らの視線が一瞬だけ探るように動いた。


 王妃の父。新しい王の義父。これから誰へ頭を下げれば得をするのか、計っている目だった。


 扉の前で名を告げると、娘はすぐに通した。


 王冠は外していた。銀の髪には留め具の跡が残り、机の端には次の謁見者の名簿がある。白い礼装の肩は、朝より少し下がって見えた。


 「おとうさま。どうしましたか」


 公の場に近い、整えた声だった。


 ライナルトは破った任命状を机へ置いた。娘は紙片をつなぐように読み、眉を寄せた。


 「聞いていません」


 「お前に知らせる前に、私の了承を取るつもりだったのだろう」


 「特別顧問という役目を作れば、おとうさまが助けてくださると」


 「役目がなくても、必要なら助ける」


 「でも、断れば、公爵家が王家から距離を置いたと言われます」


 「言わせておけ」


 娘の表情が固くなった。今日一日、祝福の言葉ばかり浴びた顔に、初めて政治家の警戒が戻る。


 「簡単に言わないでください。戴冠直後に最大の後ろ盾が退けば、改革に反対する人たちは喜びます」


 「退くのではない。線を引く」


 ライナルトは娘の机の向こうへ座らず、立ったまま言った。


 「私はアルヴェイン公爵として、お前の法案に反対することもある。王妃の父として、帰ってきたお前を迎える。二つを混ぜれば、いずれ誰もお前の判断を信じなくなる。全て父親が決めているとな」


 「わたしは、そんなことを許しません」


 「お前が許すかどうかではない。権力は、あるだけで疑われる」


 娘は言い返そうとして、破れた紙へ目を落とした。


 幼い頃なら、守るために父が前へ出ればよかった。誰を屋敷へ入れるか決め、危険な手紙を取り上げ、娘の前に壁を作った。


 だが王冠を戴いた娘の前に、父の壁を置き続ければ、今度は娘の視界を塞ぐ。


 「三歳の頃、お前は私の書斎へ来て、母親を助けてくれと言った」


 「覚えています」


 「私は遅れて、お前の言葉を信じた。それからは、お前を守るため先に立とうとした」


 ライナルトは一度言葉を切った。祝辞よりも、はるかに言いにくい。


 「今日からは、お前が先に立て。私は必要な時だけ呼べ」


 娘が顔を上げた。


 「呼ばなかったら?」


 「公爵として必要なら、勝手に意見を言う」


 「そこは変わらないんですね」


 「変える必要がない」


 ようやく、娘が笑った。王妃の作り笑いではなく、よく知るセレスティアの笑い方だった。


 「分かりました。任命状は受け取りません。王室からも、特別顧問という役目を置かないと公表します」


 「理由も書け。王妃の実家が王権を私物化しないためだと」


 「ずいぶん厳しい言い方です」


 「最初に曖昧にすれば、後で厳しくできない」


 セレスティアは新しい紙を取り、返答を書き始めた。疲れていても、筆は迷わない。


 ライナルトはその横顔を見た。


 大聖堂で王冠を受けた姿より、今、父の申し出を吟味し、自分の言葉で決めている姿の方が、王妃に見えた。


 守るために先頭を歩く時期は終わった。


 これからは、娘が振り返った時だけ見える距離に立つ。それは離れることではない。信じて一歩を譲ることだった。


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